「韓国原潜建造」米韓合意の内実と北朝鮮の反応

朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
【まとめ】
・米韓首脳会談で合意された通商・安全保障交渉の「ジョイントファクトシート(首脳会談共同説明資料)」が発表された。
・今回の合意は、李在明政権が米国に大幅に配慮し国民負担を強いた結果に。
・朝鮮中央通信は「 変わることなく敵対的であろうとする米韓同盟の対決宣言」と鋭い反応を見せた。
米国のトランプ大統領と韓国の李在明大統領は、去る10月29日の米韓首脳会談で合意した通商・安全保障交渉の「ジョイントファクトシート(首脳会談共同説明資料)」を11月14日になって同時発表した。
この発表で、李在明大統領は、米国への大幅な譲歩を覆い隠すために、「韓国の宿願」である「原子力潜水艦(原潜)の建造」を手にしたと国民に説明した。しかしその内実は、彼の説明とはかけ離れたものであった。とはいえ、韓国の「原潜建造」に恐怖を抱く北朝鮮は、それを「核ドミノの始まり」として非難し、極めて敏感な反応を示した。
1、韓米合意ファクトシートの主な内容
韓米は通商分野では、3500億ドルの対米戦略投資を条件に関税を15%に下げることにし、年間200億ドルに投資額上限を設定した。投資過程で韓国ウオンの為替不安が懸念される場合、韓国側が資金調達規模と納入時期の調整を要請できるようにした。半導体に対しては、台湾を念頭に「今後韓国より半導体貿易規模が大きい国と米国との間で関税合意があるならば韓国に不利とならない条件を付与するようにする」という内容も盛り込まれた。
合意内容は、ほぼ米国側の要求に沿ったものとなった。韓国の現在における外貨保有高が約4110億ドルで、年間外貨収入が約200億ドルであることを考えると、非常に重い負担となる。この投資以外にも、韓国は、アラスカの天然ガスなどエネルギー購入1000億ドル、米国造船所への投資(「MASGA」計画)に1500億ドルが約束させられているので、実に6000億ドルに上る対米投資が義務付けられたことになる。
安全保障分野では、国防予算増額(GDP比3.5%)、米国製軍事装備購入(約36兆ウォン)、在韓米軍に対する包括的支援(約48兆ウォン)などが盛り込まれた。その見返りとして韓国は、原子力潜水艦(原潜)建造承認、ウラン濃縮と使用済み核燃料再処理支持、政権任期中の戦時作戦統制権転換協力、完全な北朝鮮非核化と拡大抑止再確認などを米国から引き出したとされる。しかしそれらの内容は、前提条件と制約が多く、韓国主導で実行できるものとはなっていない。
2、李在明の「原潜建造」宣伝とその内実
例えば原潜建造に関して、李大統領が、ウラン濃縮や再処理が認められ、あたかも韓国主導での建造が合意されたかのように説明したが、ファクトシートには「米国は韓米原子力協力協定に準拠し、米国の法的要件を遵守する範囲内で、韓国の平和的利用のための民間ウラン濃縮及び使用後核燃料の再処理に帰結する手続きを支持する」「燃料調達案を含め、韓国と緊密に協力していく」と記述されている。すなわち「韓米原子力協力協定」の枠内で「米国の法的要件を遵守すること」が条件付けられ、今後協議が行われるということだ。米国から原潜用核燃料の供給を受けるためには、米政府が、軍需品、防衛関連技術とサービスの輸出・移転などを制限する国際武器取引規定(ITAR)に手を加えなければならない。このレベルの合意は、李在明政権になって初めて出てきたものではなく、朴槿恵政権時代にも明示されていた内容である。米国が原潜建造を承認したオーストラリアの場合、この内容よりも遥かに具体的なものであったが、それでも交渉に数年がかかっている。
そればかりか、原潜の建造場所についても場所や案が記されておらず、トランプ大統領が「米国のフィラデルフィア造船所で建造する」と言っただけに、韓国での建造が確定したとは言えない。今後の協議次第でどうなるかわからないのだ。
このように、今回の合意は、李在明政権が米国に大幅に配慮し、国民負担を強いたけっかとなっている。その背景には、李在明政権の親中反米的政策が、トランプ大統領の反感を買ったためとの見方が強い。それは、李在明大統領が「今回の意味ある交渉結果を導き出すうえで、何よりもトランプ米大統領の合理的決断が大きな役割を果たした」と述べ、「トランプ大統領の勇断に感謝と尊敬の言葉を伝える」などと、目一杯トランプ大統領に媚びたことを見ても十分にうかがえる。
3、「原潜建造」韓米合意に対する北朝鮮の反応
韓米が11月14日に発表した首脳会談共同説明資料(ジョイントファクトシート)と韓米安保協議会議(SCM)共同声明に対し、朝鮮中央通信は18日、「 変わることなく敵対的であろうとする米韓同盟の対決宣言」との題名で鋭い反応を見せた。
北朝鮮はまず「韓半島(朝鮮半島)の非核カ化」ではなく「北朝鮮の非核化」という表現を使ったことを取り上げ、「憲法をあくまでも否定しようとする対決意志の集中的表れ」「国家の実体と実存を否定したこと」と非難した。李在明政権はこれまで韓半島非核化と北朝鮮非核化という表現を混用してきたが、韓米首脳が導出した結果で北朝鮮を明示したため厳しい反応を見せたとみられる。
また米国の韓国「原潜」建造承認、ウラン濃縮と再処理支持にも反発した。「(韓国が)準核保有国になれるように足場を敷いてやった」としながら「米国が韓国の原子力潜水艦保有を承認したのは全地球的範囲で核統制不能の状況を招く重大な事態である。これは必ず地域での『核ドミノ現象』を招き、より激しい軍備競争を誘発するようになる」とした。不法に核兵器を開発した北朝鮮が、韓国の原潜導入を核拡散の懸念とつなげて非難するという主客転倒の論理を展開した。
北朝鮮は韓国が2003年から原潜開発を秘匿事業として推進してきた点を指摘し、「韓国の原子力潜水艦保有の野望が、決してわが国家の核保有に対処した『反射的措置』や、『地域的脅威』に対応するための防御的性格の問題ではなく、久しい前から夢見てきた核野望」と表現した。北朝鮮の核脅威に対応するために原潜を導入するという韓国側の論理を欺瞞だ主張する。
同通信は、航行の自由守護、台湾海峡の平和と安定維持の重要性などが説明資料に明示されたことも「地域内の各主権国家の領土保全と核心利益を否定した」と指摘した。
関税合意に対しては「屈辱的で不平等な済物浦(チェムルポ)条約を連想させるもので、米国優先主義実現に徹底的に服務する主従関係の深化」と主張した。その上で韓国の米国製武器購入、防衛費増額、米戦略資産の韓半島展開なども羅列した。
トップ写真:ドナルド・トランプ米大統領(左)と李在明韓国大統領(右)-2025年10月29日、韓国・慶州ヒルトンホテル




























