李在明勢力の正体、それに警戒する米国

朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
【まとめ】
・李在明の中核勢力は、主に従北勢力である韓国大学総学生会連合や李石基(イ・ソクキ)の「京畿東部連合」関連の勢力。
・京畿東部連合は李石基率いる地下革命組織 (RO) の母体であり、李在明とは事実上運命共同体だったと見受けられる。
・トランプ米大統領のメッセージには、李在明大統領への警戒心が表れている。
李在明を大統領に作り上げた中核勢力とは、いかなる勢力だったのか?
李在明(イ・ジェミョン)勢力は、1990年代に登場したより過激な従北勢力である韓国大学総学生会連合(韓総連:設立,1993年)や、特に従北スパイ勢力といえる李石基(イ・ソクキ)の「京畿東部連合」とつながった勢力である。この京畿東部連合は、李石基が主導する地下革命組織 (RO) の母体となる組織だ。
この点が同じ従北朝鮮勢力である文在寅(ムン・ジェイン)勢力と異なる点だ。文在寅勢力は、1980年代に自生的な従北勢力である全国大学生代表者協議会(全大協:設立,1987年)を主軸としていた。
■李石基の「RO」とは
ROは、「主体思想を指導理念として韓国社会の変革運動を展開 する」「南韓(韓国)社会の自主 民主・統一を実現する」「主体思想を研究して伝播普及する」との3大行動綱領を掲げ、大韓民国を転覆するための地下活動を続けていた。北朝鮮の南侵に呼応してソウル・ヘファ洞にある電信電話局爆破、京義道平沢の油類倉庫爆破、そして人命殺傷などを謀議した。
こうしたことから2013年8月に韓国国家情報院(国情院)に摘発され、首謀者の李石基は9年の懲役刑を宣告 された。この余波で、彼が率いた従北勢力の統合進歩党(統進党)は、2014年12月、韓国憲法裁判所により違憲政党として解散させられた。
ところがその後、統合進歩党は「進歩党」(2017年10月15日結成)として再建。李在明の民主党は、第22代総選挙(2024年)で、党の候補を辞退させてまで進歩党候補の当選を支援し、3名を国会に送り込ませた。
「京畿東部連合」はこのほか、2006年の「一心会スパイ団」、2001年8月に摘発された「旺戴山(ワンジェサン)スパイ団」などと直・間接的に繋がっていたとされる。
■「RO」と李在明の関係
李在明の「大庄洞開発事業」に主要幹部として参加したユ・ドンギュ氏(城南都市開発公社元企画本部長)によれば、イ・ソクキのRO事件組織員名簿に入っていた李在明の名前は、検察が調査過程で消し去ったと言う。彼らは事実上一つの運命共同体だったようだ。
李在明は、1990年代初め、すでに韓総連傘下の龍仁(ヨンイン)・城南(ソンナム)地域組織である「龍仁城南地域大学総学生会連合(龍城総連)」の弁護士として活動していた。2003年には李石基の「京畿東部連合」が主導した城南市立病院設立推進委員会の共同代表も務めた。これほど李在明と京畿東部連合は長い因縁を持っていた。
とくには、2010年の地方選挙当時、李在明が民主党候補として城南市長に出馬すると、民主労働党(民労党)候補のキム・ミヒ (京畿東部連合所属) が、候補単一化を通じて李在明の当選を助けた。李在明は、キム・ミヒを城南市長職の引き継ぎ委員長に任命するなど京畿東部連合と共に城南市を共同統治した。
李在明と京畿東部連合を中心とした統進党・韓総連勢力は、李在明が民主党の大統領候補として出馬(2022年)することになるや大挙民主党に入った。大統領選挙後、イ・ジェミョンが民主党代表になると、より多くの 統進党・韓総連勢力が、民主党に入り党権を掌握した(「大統領弾劾と体制戦争」イ・ヒチョン著、P.46)。
■李在明勢力を警戒するトランプ政権
米ホワイトハウスのキャロライン・レビット報道官は、6月3日(現地時間)の定例記者会見で、李在明大統領当選者に対する見解を尋ねる「韓国の大統領選挙の結果に対する見解はあるか」という質問に対し、「もちろんある」と答えた。そして、演壇に立ったまま、あらかじめ用意してきた書類の中にあるはずの関連コメントを探しながら、笑みを浮かべて「我々は(見解を)持っていない。すぐに見解を発表する」と言った。レビット報道官のこうした行動は、「X(旧ツイッター)」などの交流サイト(SNS)でも急速に拡散され、話題になった。
米ホワイトハウスは、李大統領が公式任期を始めた直後の最初の反応で「韓米同盟は強固に維持される」と明らかにした。そして「韓国は自由で公正な選挙を行ったが、米国は全世界の民主主義に対する中国の介入と影響について懸念(concerned)し、反対(opposed)する」と伝えた。
過去に米国が韓国の新大統領に送った祝いのメッセージを見ても、中国への言及は前例がない。こうしたメッセージは、トランプ政権の李在明大統領への牽制と受け止められているが、米国からの国際選挙監視団が、今回の大統領選挙に対して、先進民主主義国で最低レベルの選挙と酷評し、中国の介入を匂わす声明を発表したこととも関係していると見られる。国際選挙監視団は、韓国の選挙制度に疑問を呈しており、多くの韓国民が指摘する「不正選挙」を陰謀論と片付けていない。
こうしたことから、米国のトランプ大統領と李在明大統領の通話は、当選後3日が過ぎてやっと行われた。これまでの韓米関係ではなかった異例なことだ。こうしたトランプ政権の警戒心は、李大統領が総理に指名したキム・ミンソク氏が、米国文化院を占拠したテロ犯だったことを見ても、当然のことだと言える。
トップ写真)韓国ソウルの大統領府での記者会見にて、イ・ジェミョン大統領 韓国ソウル – 2025年6月4日
出典)Ahn Young-Joon – Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長
1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統

