金与正から嘲笑・罵倒される李在明政権

朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
【まとめ】
・金正恩は米韓演習を非難し核強化を指示、金与正も韓国を「外交相手にならない」と批判。
・李在明政権は太陽政策的な宥和を模索するが、北朝鮮には「幻想」と否定されている。
・韓国側の対話期待に反し、北朝鮮は「敵国路線」を強化している。
北朝鮮の金正恩総書記は、韓米合同軍事演習「乙支(ウルチ)フリーダムシールド(UFS)」が始まった8月18日、5千トン級新型駆逐艦「崔賢(チェ・ヒョン)」に乗艦し、韓米合同軍事演習に対して「明白な戦争挑発の意思」と非難するとともに核武力をさらに強化せよとの指示を下した。
この金正恩の指示は、「9・19南北軍事合意を先制的かつ段階的に復元していく」という李在明大統領の光復節(8月15日)式典演説の3日後に出されたもので、李在明政権の対北朝鮮宥和策に冷水を浴びせたものだ。
金正恩が、李在明政権の対北朝鮮宥和策を無視した直後の19日、妹の金与正は、北朝鮮の「韓国敵国路線」を外務省内に徹底させるため、外務省主要局長との協議会を持ち、7月28日談話」、「8月14日談話」に続き再度李在明政権の対北朝鮮宥和政策を「罵倒・嘲笑し、「韓国はわが国家の外交相手になり得ない」と次のように主張した。
「ソウルではどの政権を問わず、また誰を問わず勝手に夢を見て夢合わせをし、憶測して自賛しながらほしいままに「希望」や「構想」を言いふらしているが、風土病ではないかと思われるほどだ。・・・その構想について評するなら、一言、一言が妄想であり、馬鹿らしい夢である。韓国の国民は、実現不可能な政府官吏のこの夢想に満ちた決意を聞くだけで満足しているようである。
結論を言うなら、「保守」の看板を掛けても、「民主」の仮面をかぶっても、わが共和国に対する韓国の対決野望は少しも変わらず、代を継いできたということである。李在明はこのような歴史の流れを変えられる人物ではない。
韓国のいかなる者であれ、彼らが米国の特等忠犬であるという事実を忘れてはならない。
今回の機会にもう一度明白にするが、韓国はわが国家の外交相手になり得ない」
■ 「宥和」の「幻想」を追い続ける李在明政権
韓国大統領室は、金与正の7月28日談話直後、立場文を通じて「過去数年間の敵対・対決政策によって南北間の不信の壁が非常に高いことを確認した」としながらも、「争う必要のない状態である平和の定着は、李在明政権の揺るがぬ哲学だ。政府は敵対と戦争のない韓半島を作るために必要な行動を一貫して取っていく」と表明し、「太陽政策」を堅持し、南北対話の実現をめざす意向を明確にした。
この立場表明は、金与正談話を「韓国からより多くの対価を引き出しょうとするもので、“太陽政策”を根気よく続ければ、金正恩は再び南北交流にでてくるだろう」との過去の発想から抜けきれない「幻想」が根底にある。
この「幻想」を追い求める李在明政権は、一方的に拡声器を取り外しただけでなく、憲法裁判所が2023年に「南北関係発展法」の改正条項(最大3年の懲役や3000万ウォン以下の罰金)を違憲と判断した対北朝鮮へのビラの散布まで統制して金正恩の歓心を買おうとしている。
そして、この宥和策が北朝鮮に受け入れられる可能性があるか如きの「情報」も流し、「拡声器を撤去したら北朝鮮側も拡声器を撤去した」などとのデマまで公式に発表した。このデマに対しては、金与正が談話で完全否定したために、李在明政権の「ウソ」が、白日のもとにさらけ出されることとなった。
それにも関わらず、李在明は15日に行った「光復節」(解放記念日)の演説でも、1991年に採択された南北基本合意書、2000年の南北共同宣言、2018年の板門店宣言などについて言及し「政府は既存の合意を尊重しながら可能な事案は直ちに履行する。なかでも南北間の偶発的衝突防止と軍事的信頼構築のため、南北軍事合意(18年)を先制的・段階的に復活させる」と明らかにした。しかし、この演説も、金与正から「李在明はこのような歴史の流れを変えられる人物ではない(19日)との一撃を食らった。
■ 李在明政権のプロパガンダに追随する韓国メディア
北朝鮮が、李在明政権の宥和政策に呼応する可能性があるとのデマ情報は韓国メディアにも意図的に流された。例えば韓国のサンド研究所が運営するサンドタイムズは、次のように報じた。
「韓国政府の元高官の話として、韓国の宗教関係者が最近、中国の瀋陽で北朝鮮の関係者と接触したと報じた。その場で北朝鮮側は、「南側から真心ある提案があれば、我々が協議の場に出ない理由はない」と語った。
*注:いま北朝鮮の幹部は、韓国人と接触しただけでも罰せられる。
北朝鮮の言う「真心」の基準は、米韓合同軍事演習の縮小または中断にあると分析されている。この元高官は、「南北関係が良好だったころには演習を延期または縮小した例があり、その時には南北間の定例会談が活発に行われた」とし、「8〜9月に予定されている米韓合同軍事演習は、北朝鮮が会談再開を判断する重要な指標になる」と述べた。
*注:この見解にたいしても金与正談話は否定している。金与正は、米国と手を切らない韓国の政権は右も左も米国の犬で同じだと言っている。
また、元高官は「李在明政権が、拡声器放送の中断や漂流した北朝鮮住民の送還といった軍事的緊張を和らげる措置が、北朝鮮の関心を引いているようだ」と指摘し、「この措置に対して北側は(李在明政権を)『敵意を持つ政権ではないようだ』と判断し、慎重に対話再開の可能性を探っている雰囲気だ」と評価した。
*注:これはほとんどデマのレベルといえる。
元高官は続けて、「北朝鮮は現在、国家経済発展5カ年計画の最終年度(2025年末)を控えており、これを成果にして締めくくることが金正恩総書記の政治的正当性を強化する条件となる」とし、「下半期に軍事的緊張が高まれば5カ年計画に支障を来すため、北朝鮮内部でも緊張緩和を求める声が高まる可能性がある」との見方を示した。
そして、「北朝鮮は敵対的二国家関係を越え、『協力的二国家関係』に転換することで、人民経済の資源を浪費せず実利を得られると考えているようだ」と分析。「金英哲、李善権など南北関係の責任者が在外同胞に『長期的には統一を志向する』と反応したことも、上層部の戦略変化の兆しだ」と解釈した」(サンドタイムズ)
李在明政権が、金大中政権や盧武鉉政権時代の従北主義者(李鍾奭、鄭東泳)を連れ出し、蔵の中からホコリだらけの「太陽政策」を持ち出させ、時代錯誤的な対北朝鮮政策を主張しているが、「朝韓敵対2国路線」に転じた北朝鮮の政策をまともに分析していないようである。
トップ写真:Korea Summit Press
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この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長
1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統

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