無料会員募集中
.国際,.政治  投稿日:2025/12/25

高市政権にとってのアメリカ、そして中国(下)中国の野望を日米が抑える


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

古森義久の内外透視

【まとめ】

・トランプ政権は巨額の国防費で中国抑止を最優先。高市政権も台湾有事への関与を鮮明に。日米の強固な連帯は、中国の軍事戦略にとって決定的な障害となる。

・トランプ大統領は核抑止や尖閣防衛への全責任を誓約し、高市首相も「力による平和」に同調。共同防衛の深化が、中国の軍事的な冒険主義を抑える最大の抑止力となる。

・共和党保守派のトランプ政権は、リベラル派と異なり首相の靖国参拝を批判する可能性は極めて低い。ルビオ国務長官も過去に参拝を支持し、歴史問題による日米離反を否定。

 ここで直視すべきはいまのトランプ政権の中国に対する政策の重点である。簡単にいえば、第二期トランプ政権は中国抑止のための史上最大ともいえる軍事力増強を決めているのだ。この点、最近の米中両国間のやりとりでは関税問題に象徴されるように経済課題が前面に出ている。だが、米側からみても中国側からみても最重要部分は実は軍事関係なのである。

 トランプ政権は2026年度の国防費を国政史上初めて1兆ドル近くにまで増額した。1兆ドルといえば日本円では約150兆円、つまり日本の国家予算全体とほぼ同額なのだ。しかも最重点をインド太平洋地域での中国抑止においている。中国の人民解放軍の大軍拡を陸・海・空各領域で抑える方針を具体的な戦略や兵器の開発でも主眼としている。

 トランプ政権は最新の国家安全保障戦略を発表したが、その内容も第一に「アメリカ本土防衛の強化」をうたったすぐ次に「中国軍の台湾侵攻抑止」という目標を掲げていた。つまり、中国の軍事能力を抑えるために米軍はそれを上回る軍拡を達成する意図だというのだ。

 トランプ政権のこの大軍拡は中国側の台湾奪取という戦略にとっては決定的に近い障害となる。しかも、トランプ政権の対中軍事政策には最重要とする同盟パートナーの日本の支援が組み込まれている。高市首相がその支援を明示したことに対して中国が常軌を逸したかのように反発するのも、この米日の連帯という背景をみれば、かなりの程度理解できる。

 だからこそ、中国政府の今回の反応はむしろ高市政権の安全保障面の健全さを証したといえる。トランプ政権は台湾有事に関してはまさに日本が中国の台湾軍事侵攻を日本の存立危機事態とみなして、アメリカや台湾への軍事支援の方針を鮮明にすることを当然視しているからだ。

このように、日中のこのやりとりは高市政権の対中抑止や台湾支援、さらには日米同盟堅持の基本姿勢を明確にしたといえる。アメリカ側では保守派の論客ウォルター・ラッセル・ミード氏が「高市首相は中国や北朝鮮に対してこれまでの日本の政権よりも断固たる抑止の政策をとり、トランプ陣営が望む現在の国際秩序の保持や強化に貴重な貢献をするだろう」と述べた。高市氏がトランプ氏の信奉する「力による平和」策に同調しているという認識を改めて示す見解だった。

 では、中国の日本に対する軍事恫喝の実効はどうなるのか。日本としては懸念せざるをえない点だろう。しかしここでは日米同盟に基づくアメリカの軍事抑止力が効果を発揮すると考えられる。

 この点についてトランプ政権に直結する政策研究機関の「アメリカ第一政策研究所」(AFPI)のフレッド・フライツ所長はトランプ大統領が今年2月の石破茂首相との日米首脳会談でとくに強調した、「日本の防衛に全責任を負う」という言明を重視すべきだと指摘した。同大統領がとくに日本に対する拡大核抑止と尖閣諸島の防衛を改めて誓約したことが中国の日本に対する軍事威嚇を骨抜きにできるというのだ。

 日米中三国間のいまのこうした激しい動きを整理していくと、そこに浮かびあがる展望は、まず日米同盟の深化による共同防衛面でのより強い団結だろう。その団結は中国の脅威に対するより強固な連帯となる。

 その背景となる米中両国の関係は、外交面や経済面での一進一退はあっても基本的な世界観・価値観の対立に直結する軍事面でのせめぎあいが続くだろう。その攻防ではやはりアメリカが優位に立ち、中国の台湾侵攻をも含む冒険主義的な行動を抑えていくとみてよいだろう。

 肝心の日本と中国との関係は日本が高市政権の下、安全保障面でアメリカとの連帯をより鮮明にし、トランプ政権の日本への依存が高まる展望では中国側の日本非難は少なくとも一時的には激化が予想される。だだし中国側は、安保面での日米離反を期待できない以上、経済面などでは日本に対して互恵を目指す方向に動くことも十分に予測できる。

 さて最後に高市政権の対中姿勢を考えるうえでの難題の一つに触れておこう。それは靖国神社参拝である。

 日本の首相の靖国参拝に中国と韓国が反対していることは周知の事実である。全世界でも正面からの反対はこの2国に過ぎない。

自国を守るために犠牲となった先人を現在の国民がどう追悼するかはその当事国の内部の判断による。他国から命令や圧力をかけられ左右する課題ではない。その点で高市氏の行動や判断は適切である。

 ところが日本国内でも中国や韓国の反対はともかくアメリカの態度を懸念する向きがある。2013年12月に当時の安倍晋三首相が靖国神社を参拝した際、オバマ政権が在日アメリカ大使館を通じて「失望した」という声明を出したからだ。だから高市首相の靖国参拝はアメリカの批判を受け、日米関係に悪影響を与えるのではないかという可能性を指摘する声が日本側の一部で聞かれるわけだ。

 しかし、ワシントンでのこの種の日本関連の案件を長年、留意してきた考察者として私が断言できるのは、トランプ政権からはそんな否定的な反応は絶対に出てこないという見通しである。

 オバマ政権は民主党リベラル派だった。日本が関わる歴史関連の案件では米側のリベラル派は中国や韓国の主張を重視する傾向がある。だが共和党保守派はまったく異なるのだ。

 第一の例証は、小泉純一郎首相の毎年の靖国参拝へのアメリカ側の反応だった。小泉氏は6年近くの首相在任中、文字通り毎年、しかも中国側が最も反発する終戦記念日の8月15日の参拝をも実行した。

 これに対し、当時の2代目ジョージ・ブッシュ政権は反対の意向などツユほども示さなかった。むしろ、同政権の幹部のリチャード・アーミテージ氏らは「中国の不当な圧力に屈するな」とまで述べていた。この事例をみれば、同じ共和党保守派のトランプ政権が日本の首相の靖国参拝に留保をつけるとは考えにくい。

 第二の例証はいまトランプ政権の中枢に立つルビオ国務長官がかつて安倍首相の靖国参拝に賛同し、オバマ政権の批判に反対していた事実である。

安倍氏の参拝直後に訪日した当時、上院議員のルビオ氏は、日本メディアからの靖国問題についての質問に「近隣国からの非合法な対日主張に屈しない安倍首相の参拝の姿勢は心強い」と述べていた。

上院外交委員会の有力メンバーでもあったルビオ氏は東京で安倍首相と親しく懇談した後、韓国での国際会議に出席した。その場で韓国人記者からの靖国問題に関する質問に以下のように答えたのだった。

「アメリカ政府がこの種の問題に関与し、日本側にどうすべきかを告げることは生産的ではない」

「中国がアジアのアメリカの同盟諸国間の歴史問題などでの見解の相違を拡大させ、悪用することを黙認すべきではない」

これは明らかに、中国の対日圧力への批判であり、そしてオバマ政権の日本批判への明確な反対だった。

当時のルビオ氏は上院議員、今は国務長官と立場は異なるが、過去にここまで明確な意見を表明した人物が逆転する態度を示すはずはないだろう。高市首相も認識しておくべき記録である。

(終わり。上、中)

#この記事は雑誌「月刊 正論」2026年1月号に掲載された古森義久氏の論文の転載です。

写真)靖国神社に参拝する高市早苗衆議院議員 2014年8月15日

出典) Atsushi Tomura/Getty Images




copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."