カメラワークから見る各政党や報道機関の意図:ポジティブな演出は民主主義にどう影響を与えるか
中川真知子(ライター/インタビュアー)
連載:中川真知子のシネマ進行
【まとめ】
・今回の選挙では、報道や政見放送でヒロイックなカメラワークが多用され、親しみや説得力、リーダー像が演出されている点に違和感がある。
・映像技法は、視聴者の感情や印象を操作しやすく、政策の曖昧さや説明不足を目立たなくする危うさを持つ。
・カメラワークは有権者の認識に影響を与えうるため、発言内容だけでなく映像表現そのものも批判的に見る必要がある。
今回の選挙は、いつになく国民が真剣に候補者や政党を選んでいるように感じる。
筆者の周囲でも選挙の話題が増えたし、筆者自身、普段はほとんどテレビを見ない生活を送っているが、「テレビを見る人たちはどのような情報に触れているのか」が気になり、朝の情報番組や政見放送を見るようになった。
そこで、ある違和感を覚えた。カメラワークがやたらとヒロイックなのだ。
■ ヒロイックなカメラワークは何を生み出すのか
最初にその違和感をはっきりと意識したのは、高市早苗総理による衆議院解散表明記者会見だった。NHKの放送を見ていたのだが、解散理由を語る場面で、カメラがゆっくりとズームインし、さらに横からわずかにローアングルで表情を捉えていた。
こうしたカメラワークは、親しみやすさや説得力、そしてリーダーシップを強調したいときに用いられる典型的な手法である。
今回、突然の解散が発表され、国民の多くが高市政権に対して複雑、あるいは否定的な感情を抱いた。視聴者は、納得できる解散理由が語られることを期待して会見を見ていたはずだ。しかし、その説明は十分とは言い難く、言い訳の羅列のように聞こえる場面もあった。
にもかかわらず、映像から受け取る印象は妙に親しみやすく、「もっともなことを言っている」ように演出されていた。筆者はハリウッドで映像を学んだ経験があり、授業の一環としてカメラワークが観客や視聴者の心理に与える影響を分析してきた。その記憶がよみがえり、正直なところ、少し恐ろしく感じた。
高市政権に対する危うさは、首相官邸SNSの運用からも感じていた。静止画より動画を多用し、オンとオフを巧みに切り替えながら、あえて人間味を強調して親しみやすさを演出する。一方で、演説や会議、会談前に歩く姿は凛々しく、頼もしさが際立つように撮られている。発足当時の高揚感を煽る投稿の数々を見て、映画『アベンジャーズ』のヒーロー像を意識しているのではないか、と感じたほどだ。
高市早苗総理が誕生したこと自体は、歴史的にも意義のある出来事だと思う。だが、エンタメに寄せたSNS表現を見れば見るほど、人々の判断力を知らず知らずのうちに奪ってしまうのではないか、と、民主主義にもある種の影響を与えかねないと不安が募った。
そして選挙期間に入り、各党がSNS戦略に一層力を入れる中で、本来は中立であるべき報道の場においても、カメラワークによる演出の差が目につくようになった。
ここで、いくつか代表的なカメラワークと、その効果を整理してみたい。
■ ポジティブな印象を与えるカメラワーク
まず、政見放送における理想的なカメラワークは、腹から胸あたりまでを収めたミディアムショットで、目線の高さを保った定点撮影、編集を入れないワンカットである。候補者は画面の向こうにいる視聴者に語りかけるように、レンズを見て話す。この構図が意図するのは「中立」だ。背景は無地、もしくは極めて控えめであることが望ましい。有権者が求めているのは判断材料であり、それ以外の情報ではない。
一方で、演出意図を帯びたカメラワークも存在する。たとえば、ミディアムショットからわずかに寄ると、親しみやすさが増す。ゆっくりとした寄りは気づかれにくいが、今回の政見放送や報道の中でも頻繁に確認できた。
また、目線より少し下から撮ることで、威圧感を抑えつつ、頼もしさやリーダーシップを感じさせることができる。政治家の選挙ポスターや演説を撮影した動画に、斜め上を見つめる構図が多いのも、同じ心理効果を狙ったものだ。
ゆっくりとしたズームインは、「ここが重要だ」と無言で示す手法であり、集中を促したいときに使われる。映画では物語が転換する場面で多用されるが、解散表明記者会見でも同様の使われ方をしていた。
さらに、編集によってカットを切り替えることで、視聴者の印象はより操作しやすくなる。表情のアップで共感を誘い、引きの画で冷静さを取り戻させる。こうして感情に緩急をつけることが可能だ。加えて、短時間で多くの映像情報を処理しようとするうちに、視聴者の意識は話の中身から離れやすくなる。結果として、政策の曖昧さや具体性の欠如が目立ちにくくなるという側面も否定できない。
なお、高市内閣発足時に話題となった「ダッチアングル(傾斜ホライゾン)」は、水平に慣れた人間の視覚を逆手に取り、緊張感を生む技法だ。政見放送で意図的に使われることはまずないが、それほどまでにカメラワークは強い心理的影響力を持っている。
ここで紹介したのは、ポジティブな印象を与える代表的なカメラワークであり、実際に演説やSNS、政見放送で確認できるものだ。許容範囲と見ることもできるだろう。しかし、カメラワークの力を過小評価すべきではない。それは有権者の認識そのものを変えうる。
だからこそ、政党選びや候補者選びに迷っているなら、判断材料のひとつとして、「どのような映像の作り方をしているのか」を、こうした視点から改めて見直してみてほしい。
トップ写真:衆議院解散について会見する高市首相
出典:ⓒ首相官邸




























