角田裕毅「日本の技術力をモータースポーツで世界へ」——Red Bull Tokyo Drift 2026で語った本音
松永裕司(Forbes Official Columnist)
■本稿のポイント
・角田裕毅氏が、日本のモータースポーツ文化や自動車技術の高さを評価しつつ、それを十分に世界へ発信できていない現状に課題意識を示している。
・ドリフトに代表される日本発のカルチャーが世界的に高い評価を受ける一方で、国内では体系的なプロモーションや産業的活用が十分とは言えない実態が浮き彫りとなっている。
・F1日本グランプリを契機に、モータースポーツを観光・ブランド・技術発信を結びつける産業として再定義できるかが、日本にとっての重要な論点となっている。
レッドブルが主催したイベント「Red Bull Tokyo Drift 2026」に登場した角田裕毅が、日本のモータースポーツ文化と自動車産業の可能性について語った。スポーツとビジネスの交差点を鋭く切り取るForbes Official Columnist・松永裕司が現地取材し、世界を転戦する角田の目に映る日本の技術力と、その発信不足を読み解く。(Japan In-depth編集部)
耳をつんざくエキゾーストノートと、焦げたタイヤの匂いが会場を包み込む。
レッドブルは21日、モータースポーツイベント「Red Bull Tokyo Drift 2026」をESR横浜幸浦ディストリビューションセンター3にて開催。週末に控えたF1という大一番を前に、若者から往年のクルマ好きまで、多様な層を熱狂の渦へと巻き込む巨大なモータースポーツのデモンストレーションは、まるで日本GPの前夜祭のような熱気を帯びていた。
そんな大盛況のイベント会場において、現在はレッドブルのリザーブ・ドライバーを務める角田裕毅が、グローバルビジネスとしてのモータースポーツへの意気込みを超え、日本のモノづくりへの敬意や、異文化との邂逅について口を開いた。
■角田が語る「Red Bull Tokyo Drift 2026」の魅力
F1ドライバーとして世界中を転戦し、多様な文化に触れてきた角田の口から、まずは同社が主催する東京ドリフトイベントへの率直な感想を聞くことができた。

写真)囲み取材を受ける角田
出典)筆者撮影
「海外に住んでいるとよく分かるのですが、日本のカスタマイズカーやモータースポーツの素晴らしさは、まさに職人技として世界中から憧れの的となっています。その素晴らしいカルチャーを、レッドブルが先陣を切って再び日本に持ち帰ってくれたことは、日本人として非常に嬉しく思います。一方で、日本国内でもこうした素晴らしいカルチャーをもっと積極的にプロモートし、時代に合わせたやり方で守り続けていってほしいとも感じました」と、同イベントの意義を雄弁に語った。
実際に会場で助手席に乗り、ドリフトを体験した角田は、その迫力に舌を巻いた。「今回は助手席に乗りましたが、すべてが予想以上に速く、レスポンスの良さに驚きました。普段は自分で運転しているためクルマの動きは予測できますが、助手席で自らコントロールできない状態でのドリフトは予測不能で、怖さもありましたね。ただ、体感スピードはF1に近いものがあり、そのスピードのまま滑っていくのはかなりの迫力でした」。
自身の主戦場であるF1との違いについても、興味深い考察を述べている。「F1はいかに滑らせないかが重要なスポーツなので、やっていることはドリフトと全くの対極です。F1で滑ることはタイムロスやタイヤへのダメージに直結します。ただ、ボクも含めドライバーは皆ドリフトが大好きなので、F1でも雨などで滑った時は、内心少し楽しんでいる自分もいるんです。その意味で、ドリフトは『普段F1でやりたいけれど、やってはいけないこと』をすべてやりきれるスポーツだと思います」。
さらにプロの技について「凄まじいのは、コーナーに向けたクルマの角度作りやペダルワークの正確性。全くの異次元で、なかなかたどり着けない領域だと圧倒されました。会場には多くのファンが集まり、私たちも大いに楽しんでいます。ドリフトは日本が誇る特別なカルチャーです。今回、このイベントに参加できたことを本当に嬉しく思います」と絶賛した。
■日本特有のご飯の美味しさ」から考える海外との違い
高校卒業後、単身ヨーロッパへと渡った角田にとって、直面した最大の壁は言語やドライビングテクニックだけではなかった。それは「食」という、極めて日常的なカルチャーショックだった。
「一番苦労したのは『日本特有のご飯の美味しさ』がないことでした(笑)。最初は本当に、いい意味でも悪い意味でも苦戦しましたね。日本での食事に慣れてしまうと、海外に行った時に『どれだけ日本が凄いか』を痛感するんです。でも、そのおかげで逆に食生活に対して気を引き締めるようになりました。日本なら何でも揃いますが、海外ではなかなか理想の食事ができない。だからこそ、自分でしっかりと栄養管理をしようと前向きに捉えるようになりました」。
一方で、角田はヨーロッパのライフスタイルが持つ「豊かさ」にも強く惹かれている。お年寄りが昼から店の外のテラス席で陽光を浴びながらビールを傾ける穏やかな時間は、過酷な勝負の世界に身を置く彼にとって、精神的なバランスを保つための欠かせない要素となっているようだ。
「ボクは海外の文化がすごく好きなんです。日本には日本の素晴らしいカルチャーがありますが、海外のあのゆったりとした空気感……街を歩いているとみんな笑顔で、すれ違った時にしっかりと目を見る。そして、おじいちゃんやおばあちゃんが昼から外のテーブルで日向ぼっこしながらビールを飲んでいたりする。あの景色、最高じゃないですか。日本ではなかなか見られない、あのような豊かさや穏やかなカルチャーがボクは大好きです」。
■カテゴリーの垣根を越えた勝田貴元との絆
先日、世界ラリー選手権(WRC)で悲願の初優勝を果たした勝田貴元とは、角田がまだヨーロッパへ足を踏み入れるずっと前、7、8歳の頃から互いを知る存在。競技こそ違えど「世界で戦う日本人」という重責を共有してきた。
「勝田選手とは、ボクが7、8歳の頃からの知り合いです。ボクがヨーロッパへステップアップするずっと前から、半年に数回、応援のメッセージをくれていました。昔から知ってはいましたが、そこまで深い交流があったわけではありません。でも、最高峰の似たような過酷な場所で戦っている彼からの応援の言葉は、全く重みが違います。本当にお互いを応援し、感情を共有できる相手ができたことを心から尊敬しています」。
勝田の背中を見てきた角田は、最近になって直接再会を果たしたという。「彼が素晴らしい結果を残した時は、本当に凄いなと思いました。最近になって『久しぶりだね』と再会したんです。いつも来ていたLINEが去年くらいからパッタリ途絶えてしまって(笑)。だからまずは『連絡先を交換し直そう』と。そして改めて『本当におめでとう』と伝えました。ヨーロッパでの住まいも近いので、『戻ったらまた合流しよう』と、レース以外のプライベートな話でも大いに盛り上がりました」。 カテゴリーの垣根を越えた二人の絆は、日本のモータースポーツ界全体にとっての大きな財産である。
■日本の自動車産業とモータースポーツの未来へ
そして角田が最後に残したメッセージは、日本の産業界へのエールであり、提言でもあった。角田が初めてF1日本GPを走った2022年から現在に至るまで、観客動員数は目覚ましい増加を見せており、確実に新しい熱狂の波が押し寄せている。角田はこの勢いをさらに加速させたいと願っている。
「日本でももっとモータースポーツが普及してほしいと心から思っています。ボクが初めて走った2022年の日本GPから去年までで、鈴鹿に足を運んでくれる観客の数が格段に増えました。それは日本のレースの歴史においてすごく嬉しいことですし、この勢いでさらに大きなムーブメントになってほしい。日本には世界的に有名な自動車メーカーがたくさんあるじゃないですか。せっかくの素晴らしい技術力を持つこの国が、モータースポーツという舞台をもっと活かして、レースと共に日本の技術の素晴らしさをどんどん世界へ発信していけたらと願っています」。
日本のポテンシャルを信じ、世界を見据える角田の言葉は重い。
今週末、鈴鹿サーキットで響き渡るエンジン音は、単なるスポーツイベントの枠を超え、日本の職人技術、グローバル企業のブランド戦略、そして世界中から集まる何十万人ものファンの情熱が交差する巨大なビジネスと文化の祭典となる。トップドライバーたちがそれぞれの思いを胸に挑むこのF1日本GPは、日本のモータースポーツ産業が次なるフェーズへ向かうための、重要な試金石でもあるだろう。
■FAQ
Q1. 角田裕毅とはどのようなドライバーですか?
- 神奈川県出身のF1ドライバーで、ジュニアフォーミュラで急速に頭角を現し、短期間でトップカテゴリーに到達した日本屈指の若手です。2019年にF3、2020年にF2で好成績を収め、2021年にF1デビュー。現在はトップチームであるレッドブルのリザーブドライバーとして活動しています。小柄ながらもアグレッシブなドライビングと高い適応力が評価されており、日本人ドライバーとして久々に長期的な活躍が期待されています。
Q2. F1とドリフトは何が違うのですか?
- F1はサーキットでのラップタイムを競う競技で、グリップ(タイヤの接地)を最大限活かし、いかにロスなく走るかが重要です。一方、ドリフトは意図的に車を滑らせ、その角度やスピード、ライン取りの美しさを競う採点競技です。両者は「滑らせない競技」と「滑らせる競技」という対極にあり、求められる技術も大きく異なります。
Q3. モータースポーツはどの程度「ビジネス」として成り立っているのですか?
- F1はスポンサー契約、放映権料、開催権料などを主な収益源とする巨大なスポーツビジネスです。各グランプリ開催地は観光客誘致や都市ブランド向上を狙って多額の費用を投じており、国家レベルの経済戦略の一環として位置づけられることも少なくありません。
Q4. 日本の自動車産業とモータースポーツはどのような関係がありますか?
- 日本の自動車メーカーは、エンジン技術や空力、素材開発などの分野でモータースポーツを技術実証の場として活用してきました。また、レースでの実績はブランド価値向上にも直結します。ただ近年は、環境規制や電動化の流れの中で、モータースポーツの位置づけや投資のあり方が再定義されつつあります。
Q5. なぜF1日本グランプリは重要視されるのですか?
- 鈴鹿サーキットで開催されるこのレースは、世界中から数十万人規模の観客を集める国際イベントです。地域経済への波及効果に加え、日本の自動車技術やモータースポーツ文化を世界に発信する場でもあります。近年は観客動員も回復・増加しており、日本市場の再評価という側面でも注目されています。
■ シリーズ・アーカイブの紹介
本連載は、スポーツを切り口に、ビジネスやテクノロジー、社会構造の変化を読み解く松永裕司によるコラムです。個別の競技やイベントを超えて読み進めることで、現代社会におけるスポーツの意味と役割を立体的に理解することができます。
トップ写真)勝田と談笑する角田
出典)Red Bull Tokyo Drift 2026




























