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.社会  投稿日:2026/3/18

MUFGスタジアムは何を変えるのか?:「KOKURiTSU NEXT」が示す共創型ビジネスと“社会のOS化”の全貌


松永裕司(Forbes Official Columnist)

 

■ 本稿のポイント

・MUFGスタジアム:従来の「ハコモノ型ビジネス」から脱却し、「社会のOS」としての進化を目指す

・「KOKURiTSU NEXT」:スタジアムを共創型プラットフォームへ転換するプロジェクト

・スタジアム運営は「勘と経験」にたよる属人性から脱却し、データ駆動型へ移行する。

・スタジアムは、完成された施設としての「ハコ」を超え、共創を通じて進化し続けるプラットフォームを目指す。

 

2026年3月16日、MUFGスタジアムで開催された「KOKURiTSU NEXT」記念式典において、JNSEの竹内社長は、国立競技場を「社会のOS」として再設計する構想を示した。赤字構造や従来のハコモノ型ビジネスから脱却するため、テクノロジーとデータを活用し体験価値と稼働率を向上させるとともに、地域連携やCSVを通じた持続可能な共創モデルへの転換を図る。この取り組みは、スタジアムを進化し続けるプラットフォームへ変えることを目的とする。(Japan In-depth編集部)


さらば、ハコモノビジネス:MUFGスタジアムが提示する共創型ビジネス「KOKURiTSUはOS」となる未来

3月16日、MUFGスタジアム(国立競技場)で開催された「KOKURiTSU NEXT(コクリツ・ネクスト)」の記念式典にて、株式会社ジャパンナショナルスタジアム・エンターテイメント(JNSE)の竹内晃治代表取締役社長が壇上で語ったプレゼンテーションは、MUFG国立という巨大な物理空間を、自律的にアップデートし続ける「社会のOS(オペレーティング・システム)」へと作り変えるハッキングの宣言のように思われた。

式典では来賓のスポーツ庁河合純一長官、公益財団法人日本スポーツ協会遠藤利明会長、東京都小池百合子知事(ビデオメッセージ)から挨拶があり、その期待の大きさを窺わせた。

写真)スポーツ庁 河合純一長官
出典)筆者撮影


昨年10月、「MUFGスタジアム」の呼称発表の際は、「国立は国立のままのほうがよい」という反発の声が聞こえてきたのも事実だ。しかし、こうした無責任な感情論は、国立競技場の16億円という赤字になんら手を差し伸べる意見ではなかった。

国立競技場は競技の場にとどまらず、文化・経済・地域・社会とつながる未来型スタジアムへと進化せざるをえない。そこでMUFGスタジアムは、これまで「イベントが行われる日しか価値を生まない」とされてきた巨大施設・ハコモノの常識を問い直し、新たなビジネスモデルの提示へと動き出した。

日本のスポーツビジネスは長らく、不動産業の延長線上に位置づけられてきた。デベロッパーが施設を建設し、主催者に場所を貸し出し、周辺地域は大規模な人の移動による混雑を受け入れる。「ハコモノ行政」とまで揶揄されたモデルだ。こうした従来のエコシステムに対し、「KOKURiTSU NEXT」は全く異なるアプローチをとる。式典での竹内社長のプレゼンテーションから紐解き、最先端のスタジアムビジネスの深層と、共創プラットフォームとしての可能性を探ってみたい。

「体験価値の再設計」とは?:物理空間の制約をテクノロジーで乗り越える

スタジアム運営において、体験価値の向上や施設稼働率の引き上げを阻む構造的な課題がある。それはスポーツの舞台として常に脚光を浴びる「芝生」の保護問題だ。国立競技場も芝生の育成のため、特徴的な屋根を掲げているのは、ご存じの通りだ。竹内社長は、この制約に対してテクノロジーとオペレーションの観点から具体的な解決策を示した。
「芝生の上の新しい演出の幅。素早く敷けて、素早く撤去できる養生シートを導入する。」
この言葉の裏には、緻密な収益性(ROI)の計算がある。これまでグラウンドの養生に長時間を要していたプロセスを極限まで短縮することで、サッカーやラグビーのハーフタイムといった限られた時間内に、大規模なステージ演出やアーティストのパフォーマンスを組み込むことが可能になる。

加えて、空間演出のハードウェアもアップデートされる。3層のリボンビジョンと大型ビジョンの統合制御に加え、竹内社長は「一気に暗転できる。表現できる色の幅を増やす。チームカラーも含め、標準でできる状態を増やす」と語った。物理的な時間の制約と空間の制約を同時に緩和し、新たなエンターテインメントの余白を生み出す。これは単なる設備投資ではなく、スタジアムの稼働率と付加価値を根本から引き上げる戦略的な一手と言えるだろう。

属人性の排除:データで稼働する“運営OS”

スタジアムビジネスにおけるもう一つの課題は、「勘と経験」に依存した属人的な運営からの脱却だ。巨大イベントの動線設計や混雑緩和、顧客満足度の向上は、長らく現場のノウハウに依存してきた。「KOKURiTSU NEXT」が4つの柱のひとつとして掲げる「イノベーションを生み出すハブ機能」は、この課題に対する明確なアプローチである。
竹内社長は、データ統合の重要性をこう語る。
「デジタルコミュニティやスタジアムアプリ、公式サイトのデータ。そしてドコモデータやMUFG様をはじめとするパートナー企業のデータ。こうした複数のデータを組み合わせて、スタジアムの見え方を変えていく。」


ここで注目すべきは、集積されたビッグデータの活用目的が極めて実務的である点だ
「難しい分析ではなく、なぜ来たのか、なぜ来ないのか。何が来場の決め手になるか。どこで迷ったか、どこで止まったか、何が不満だったか。」
高度なAIによる予測分析を喧伝するのではなく、来場者のカスタマージャーニーにおけるペインポイントの特定にデータを活用する。客観的な行動データに基づき、アジャイルに改善のサイクルを回し続ける。さらに、LIMINAL SUITE(リミナルスイート)を実証ラボとして提供し、次世代光通信構想IOWNを用いた同時多地点ライブでコンテンツを遠隔地へ拡張する。この「自律的に学習し、進化し続ける仕組み」こそが、JNSEが目指すスタジアムの「運営OS化」の核心だろう。

地域連携はどう実現するのか?:熱狂を街と共有する「プラグイン化」

数万人規模のメガイベントで生み出される熱気も、スタジアムのゲートを出れば分断されがちだ。「KOKURiTSU NEXT」の第2の柱である「地域の日常との接続」は、この境界線をなくす試みである。


同社長が語る「毎回ゼロから作らないための共通プログラム」という構想は、いわば地域連携の「プラグイン化」。駅からのラストマイルに寄り道したくなる動線を作り、イベント限定のアイテムが周辺店舗で購入できるような体験をデザインする。


これまでは、イベント主催者が変わるたびに単発の施策を企画・実行する必要があった。しかし今後は、「国立ホームタウン」というプラットフォーム上に、どの主催者でも容易に導入できる地域連携プログラムをパッケージ化して提供する。スタジアム内で生まれた熱狂を周辺地域へと広げることで、非稼働日も含めた持続的な経済効果を生み出す。特定の興行に過度に依存せず、地域全体を潤す新たな都市開発のモデルケースとなることが期待される。

持続可能なCSVの設計:「誰かの無理」に依存しない

社会課題に対するリアリストとしての視点も見逃せない。第3の柱である「未来を担う次世代の育成」では、学びのプログラム「国立NEXTアカデミー」の創設や、防災訓練を含めた防災拠点化、インクルーシブ・スタジアムツアーの実装など、公共財としての役割強化が掲げられている。

しかし、これらについて同社長は本質的な課題を指摘した。
「社会にとってより良い取り組みを、善意だけで終わらせない。誰かが無理をしてやらなければいけない形で終わらせない。」
これは、企業が陥りがちな持ち出しの社会貢献(CSR)を明確に見直し、持続可能な共有価値の創造(Creating Shared Value:CSV)へ転換するという意思表示だ。「まずは90分の実証プログラムを1つ作り、近隣の学校と試しながら改善する」という地に足の着いたアプローチも、その姿勢を裏付けている。社会にとって必要な取り組みを、スタジアムの価値向上とパートナー企業のビジネス価値向上へと結びつける。利益を生み出しながら社会をアップデートする仕組みの構築こそが、MUFGスタジアムの描くサステナビリティの形である。

賛同ではなく共創のフェーズへ

プレゼンテーションの最後、同社長から会場のパートナー企業やステークホルダーに向けられた言葉は、このプロジェクトがオープンイノベーションであることを強く示していた。

「賛同ではなく、一緒に動かすテーマを一つ持ち帰っていただきたい。どんな連携ができるか、どんな価値を残していきたいか、具体的な会話を始めましょう。」MUFG国立は、完成された「箱」ではなく、多様な企業や組織が接続し、自らの技術やデータを実装することで進化していく「社会のOS」へと歩みを進めている。その進化のプロセスを体験する最初の機会が、4月4日~5日に開催される新たな音楽フェス「docomo presents THE MUSIC STADIUM 2026 organized by ONE OK ROCK」となる。

 

■未来を紐解くFAQ:「KOKURiTSU NEXT」の目指す価値創造

Q: 「KOKURiTSU NEXT」とは何か?

A:  国立競技場を単なる施設から、企業や地域が連携する「共創型プラットフォーム(社会のOS)」へ転換するプロジェクト。

Q: なぜ従来の「ハコモノビジネス」は限界なのか?

A: 従来はイベント開催日しか収益を生まない不動産型モデルで、赤字や地域効果の断片化が課題だった。「KOKURiTSU NEXT」は、スタジアム自体が継続的に価値を生む共創型モデルへの転換を図る。

Q: 体験価値の再設計はどのように行われるのか?

A: 芝生保護や時間制約をテクノロジーで克服。養生シートやリボン・大型ビジョン統合制御で短時間に演出可能とし、試合の合間でも大規模演出やアーティストパフォーマンスを実現。稼働率と付加価値を同時に高める。

Q: 「運営OS化」とは具体的に何を指すのか?

A: 来場者データや外部データを統合し、勘や経験ではなくデータに基づいて運営改善を継続する仕組み。

 

写真)MUFGスタジアム(国立競技場)

出典)gettyimages

 




この記事を書いた人
松永裕司Forbes Official Columnist

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 「あらたにす」担当/東京マラソン事務局初代広報ディレクター/「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。


出版社、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験から幅広いソリューションに精通。1990年代をニューヨークで、2000年代初頭までアトランタで過ごし帰国。

松永裕司

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