無料会員募集中
.政治  投稿日:2017/12/31

「いずも」空母化を恐れる中国


文谷数重(軍事専門誌ライター)

【まとめ】

・中国の空母保有への対抗措置として防衛省はF-35B導入を検討。

軽空母いずも」「かが」へのF-35B搭載で対中海軍力の劣勢を一挙に改善できる。

・F-35B導入コストはさほど大きくない。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真の説明と出典のみ記載されていることがあります。その場合はhttp://japan-indepth.jp/?p=37695で記事をお読みください。】

 

F-35Bの導入検討が報道された。共同通信によれば防衛省には「来年後半に見直す「防衛計画の大綱」に盛り込むことも想定」した検討が進められているという。

JB171230montani01

▲写真 米海兵隊写真 F35B Photo by April L. Price

これはF-35Bを搭載した軽空母を作る話である。空自導入中のF-35Aの一部を軽空母用のB型に改める。それを現在ヘリコプターを運用している海自軽空母「いずも」、「かが」で運用しようとする検討である。

JB171230montani02

▲写真 DDH-184 ヘリコプター搭載護衛艦「かが」 出典:海上自衛隊

なぜ、日本は軽空母を作ろうとするのか?

簡単にいえば中国への対抗である。日本は中国海軍力の成長に脅威を感じている。中でも日本が持たない空母を中国が保有した。これは日本にとってショックとなった。海軍力競争で日本が完全劣位に転落したことを意味するからだ。

JB171230montani03

▲写真 中国 001A型航空母艦 Photo by GG001213

それに対抗するためには日本も空母を持つしかない。それがF-35Bの「いずも」型搭載検討である。

さらにいえば、F-35B軽空母は対中海軍力の劣勢を一挙に改善できる力を持つ。

なぜなら

1 中国空母を陳腐化

2 中国艦隊戦力の更新強要

3 中国潜水艦戦力の更新遅滞

を引き起こせるからだ。

 

 中国空母の陳腐化強要

軽空母導入により日本は海軍力の劣勢を改善できる。

その第1の理由は、日本導入により中国空母を旧式兵器化させられるためだ。

日本がF-35B搭載の軽空母を作ると中国の正規空母は建造中を含めて全て旧式化する。

艦載機の性能で圧倒的劣勢に陥るためだ。中国空母が搭載しているJ-15戦闘機は第4世代戦闘機である。第5世代のステルス戦闘機F-35には手も足もでない。レーダ探知できないF-35Bに対し中国のJ-15は一方的劣勢の立場に転落する。

実運用の差はさらに広がる。

現用の中国空母はカタパルトを持たない。このためJ-15戦闘機は発進時に重量制限が掛けられている。性能上は最大離陸重量33トンだが実際には28トンでの発艦も厳しい。しかも滑走路を長く取らなければならない。このため発艦の間隔も相当に間延びする。

日本軽空母にはそれはない。F-35Bはカタパルト無しでも満載重量で発艦できる。しかも着艦帯との取り合いもないため連続発進が可能となる。

結果、中国空母は日本軽空母に勝てない二線級装備となる。

なお、これは平時にも効く。プレゼンスにおいても中国空母は旧式扱いされる。日本軽空母と並べられた場合「中国空母は日本空母に敵わない」印象を与えられる。

JB171230montani04

▲写真 J-15 出典:Garudtejas7

 

■ 中国艦隊戦力の更新強要

第2の理由は艦隊戦力更新を強要できる点だ。

日本軽空母登場により中国艦隊は日本に対して質的劣位に陥る。それは第1で述べたとおりだ。

対米劣勢に加え対日劣勢にも陥る。結果、中国は自国艦隊戦力を今以上に近代化しなければならなくなる。

これは駆逐艦以下にも及ぶ。空母にカタパルトを付け、ステルス艦載機を開発するだけではない。空母を護衛する055、052C/D、054Aといった駆逐艦・フリゲートもF-35によるステルス攻撃に対抗しなければならない。

特にJSM対艦ミサイルの登場は護衛艦に厳しい。かろうじてレーダで探知できる、いままでの対艦ミサイルよりも強力だからだ。ステルス性能が高いため正面からではレーダに映らない。ミサイル側はレーダを使わない画像誘導のため逆探知も効かない。その上、従来ミサイル同様におそらく高度2.5m程度の超低空を飛んでくるのだ。

JB171230montani05

▲写真 JSMのモックアップ Photo by Strak Jegan

中国駆逐艦は探知できず迎撃もできない。もともと超低空対艦ミサイル迎撃には熱心ではない。ステルス化したJSMには全く対処はできない。

まず探知できない。軍艦のレーダで波の乱反射の中を飛んでくる対艦ミサイルの探知は難しい。その上、高ステルス性のJSMではミサイル反応が乱反射ノイズよりも小さくなるのだ。

仮に探知できても迎撃できない。中国迎撃ミサイルは基本的に陸上転用型である。米国製とは異なり海面乱反射対処や超低空目標対処能力は高くはない。一部の光学誘導あるいは電波・光学複合誘導タイプを除けばロックオンできないのだ。

結果、中華イージス以下のシステムも一気に役立たずとなり更新を迫られるのである。空母、艦載機、駆逐艦の更新の結果どうなるか?

中国海軍の数的増勢は難しくなる。90年代建造の旧式艦更新もままならなくなることからすれば、今後は艦隊規模は縮小することになる。

JB171230montani06

▲写真 中華イージス 052D型「昆明艦」 出典:海防先锋

 

■ 中国潜水艦の更新遅滞

第3の効果が中国潜水艦の増強・更新の妨害だ。

JB171230montani07

▲写真 中国 人民解放軍海軍 039A型潜水艦 出典:United States Naval Institute News Blog

日本軽空母導入は中国に空母、艦載機、駆逐艦の更新を迫る。それにより中国海軍の成長を抑制し、縮小方向に進める。これは述べたとおりだ。

これは一番厄介な中国潜水艦の更新増強を邪魔することにもつながる。これも軽空母導入の利益である。

中国空母は海軍力競争では脅威ではある。

しかし、実際の戦闘ではさほどの脅威ではない。日米は日本本土周辺なら容易に沈められる。所詮は艦載機30機未満の空母に過ぎない。搭載している早期警戒機もヘリコプターのZ-18AEWでしかない。

本当に面倒な敵は中国潜水艦である。性能向上は大幅に進んでおり、近いうちには探知不能となる。実戦ではその対処に苦労することになる。どこに潜っているのかわからない。その中国潜水艦に対処するため日米海軍力はバラマキ配備を強要されるのだ。

それからすれば潜水艦への資源配分を妨害できる点もメリットだ。空母建艦競争等は日米にとって素晴らしい話だということだ。中国は空母機動部隊1つを作るために最新の通常潜水艦10隻と原潜2隻を諦めるのだ。これは日米にとって良い取引である。

 

■ コスト負担はさほどではない

防衛省がF-35Bを導入したいと考える理由はこのようなものだ。日本は導入と軽空母運用により中国との軍事力積み上げゲームを有利にできるのである。

導入コストはどの程度となるか?

さほどではない。

F-35Bそのもののコストは大したものではない。もともと計画されている空自F-35Aの一部をF-35Bに改める形である。もちろん1機あたりの取得コストが20億円程度上昇する。エンジン等一部部品の集積を行う必要も生まれる。だが新規巨大事業ではない。

空母もすでに準備されている。「いずも」「かが」はそのまま使える。最初から各部寸法はF-35Bに合わせて作ってある。格納庫も無理に詰め込めば14機は入る。短距離離陸のためのスキージャンプは必須ではない。微速・無風でもF-35Bは軽量状態で100m未満で発進可能である。20ノット(約40km)、向かい風10mもあれば満載状態でも100mで発進できる。

あるいは中古コンテナ船を改修してもよい。90年代末に建造された4000TEUクラスはただ同然で入手できる。経済性低下と排ガス規制でスクラップ処理がはじまっているからだ。全長300m、25ノット(約50km)出せる優良船だ。飛行甲板を貼るだけでF-35B母艦として運用できる。

JB171230montani08

▲図「いずも」型は格納庫に14機収容できる 出典: 文谷数重作図(写真からの割出)

 

■ 『F-35Bは正規空母を滅ぼす』

なお、この中国空母陳腐化ほかは筆者発行の『F-35Bは正規空母を滅ぼす』で詳細に述べている。

●入手先

冬コミ(コミックマーケット93)

3日目/2017年12月31日(日)東地区 ”テ” ブロック 03b 隅田金属

●委託先

とらのあな 

メロンブックス

 

JB171230montani09

トップ画像:DDH-183ヘリコプター搭載護衛艦「いづも」 出典 海上自衛隊


この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター

1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。

文谷数重

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."