トランプ、宥和路線に転換か?銃撃事件で、保守・リベラルの団結たたえる
執筆者:樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)
■本稿のポイント
・トランプ米大統領を狙ったとみられる銃撃事件の現場は1981年にレーガン大統領(当時)が撃たれた時と同じホテルだった。
・45年前の事件は、女優の気をひこうとした若い男の犯行だったが、今回は政治的な動機といわれる。
・事件の舞台は変わらずとも、犯行の態様は様変わり、米社会の分断が遠因と指摘されるのは、時代の流れというべきだろう。
2026年4月25日、ホワイトハウス記者会主催の夕食会でトランプ大統領を狙ったとみられる銃撃事件が発生した。現場は1981年のレーガン大統領狙撃事件と同じワシントン・ヒルトン。個人的動機による過去の事件とは異なり、今回の犯人は「連邦暗殺者」を自称する反トランプ活動家とみられ、米社会の深刻な分断を背景とした犯行と指摘される。事件後、トランプ大統領は珍しく抑制的な姿勢で保守・リベラル双方の団結を称えた。宥和路線への転換となるか、その真意を元産経新聞論説委員長の樫山幸夫氏が読み解く。(Japan In-depth編集部)
■ ホワイトハウス記者会夕食会とは?大統領が毎年スピーチを披露する場
4月25日の銃撃事件については、日本のメディアでも大きく報じられているので詳細は避ける。トランプ大統領ら政府高官がいずれも無事だったのは不幸中の幸いだった。
犯行の機会となった夕食会は毎年4月末の土曜日、ホワイトハウス記者会の主催で開かれる。
時の大統領らが招待され、その演説が〝呼び物〟。難しい話は敬遠され、ユーモアたっぷりの〝時事解説〟、毒を含んだ表現で政敵、ライバルをなで斬りにし、自らをネタにした自虐的なスピーチが飛び出すこともある。
人気があったのはオバマ大統領(2009年ー17年在任)。
トランプ氏が当選した2016年のスピーチでは、すでに共和党の有力候補だった氏をさかなにして辛らつなジョークを飛ばした。
「ドナルドは外交経験がないといわれるが、彼はもう何年も世界各国の代表と顔を合わせている。ミス・スウェーデン、ミス・アルゼンチン、ミス・アゼルバイジャンらだ」―。
トランプ氏が一時、ミス・ユニバースのコンテストの主催にかかわっていたこと、多くの女性と浮名を流したことへのあてこすりだが、2人の遺恨はそれ以来といわれている。
一部を除き米メディアとの関係が険悪であり、揶揄された不快な経験もあってか、トランプ大統領はこれまで夕食会への出席を渋ってきたが、ことし初めて招待を受けたところで、銃撃事件が起きてしまった。
■なぜ同じホテルで?1981年レーガン大統領狙撃事件との共通点と相違点
事件があったワシントン・ヒルトンは1980年3月31日、当時のレーガン大統領が銃撃された現場でもある。
労働組合の総会での演説を終え、市民に手を振りながらホテルを後にしようとしていたところを撃たれた。現場からほど近いジョージ・ワシントン大学病院に搬送されて緊急手術を受けたが直後は生命も危ぶまれるほどの深刻さだった。
シークレット―・サービス警護員によって大統領が専用車に押し込められて急発進する様子、拘束された犯人の近くで捜査官が軽機関銃を構えている映像は当時、世界に衝撃を与えた。
犯人の25歳の青年は、大ファンだった俳優、ジュディ・フォスターの注目を浴びようと、大胆な犯行におよんだという。信じがたい動機だが、精神を病んでいたために罪に問われることはなく、長期間の入院生活を送った。
レーガン暗殺未遂事件は犯人の個人的な動機であって、政治的背景はなかった。まして政治哲学や政策をめぐる路線対立、世論分裂などとは無縁だった。
ほかの事件をみても、1963年のケネディ大統領のケースは、マフィアの犯行、CIA(中央情報局)の関与などいまもって、様々な見方がなされているが、真相はいぜん明らかになっていない。
人種差別撤廃に生涯をささげたマーチン・ルーサー・キング牧師の暗殺(1968年)は、政治的動機というより、人種差別による犯行の可能性が強かったし、同じ年のロバート・ケネディ上院議員(ケネディ大統領の実弟)の暗殺も、イスラエル寄りの外交政策に反発するパレスチナ青年の犯行だった。
■犯人の動機は何か?「連邦暗殺者」を自称する反トランプ活動家の背景
今回、犯行を企てた31歳の青年は、自らを「連邦暗殺者」と呼び、政権幹部を標的にするというメモを所持していたという。トランプ大統領への抗議デモにも参加したことがあるというから、トランプ支持、反トランプの対立、分裂が背景にあるのは間違いない。
トランプ氏は、これまでも何度か危機にさらされている。
2期目をめざしていた24年7月13日、ペンシルベニア州で演説中、近くのビルの屋根に潜んでいた犯人から銃撃を受け、右耳を負傷した。容疑者は現場で射殺された。
その2カ月後、フロリダ州のゴルフ場でプレー中、銃を持った男が近くの茂みから銃撃しようとしたところを警護員に見つかり未遂に終わった。「トランプ氏暗殺の試みだった」と、殺意を告白するメモを残していた
一連の事件はいずれも、反トランプ勢力、二分された国論の一方による犯行というべきケースだ。
■なぜトランプは穏やかだったのか?事件後に見せた異例の宥和姿勢
トランプ大統領は、銃撃事件で夕食会が中止になった後の4月25日深夜、ホワイトハウスで記者会見、「会場には共和党員、民主党員、リベラル派、進歩派がいた。途方もない愛と団結があった」などと、出席者全員の冷静な行動、警備陣の勇気をたたえた。
こうした機会に激しく反対勢力を攻撃する日ごろとは打って変わって抑え気味、穏やかな語り口だった。
身柄を拘束された31歳の男の動機などは明らかになっていないなかで、反対勢力を批判すれば、国内の分断がいよいよ激しくなると警戒、めずらしく理性を働かせたのかもしれない
トランプ大統領がこれを契機に、自らと異なる主張に寛容となり、ライバルを口ぎたなく罵倒することをやめ、宥和路線に転じるなら、まさに「災い転じて福となす」だが、はたしてどうだろう。
【よくある質問(FAQ)】
Q1:ホワイトハウス記者会(WHCA)とはどのような組織か?
A:ホワイトハウスを取材する記者たちで構成される団体で、1914年に設立されました。大統領への取材アクセスの調整や、報道の自由の擁護を主な目的としています。毎年春に開催する年次夕食会(ホワイトハウス・コレスポンデンツ・ディナー)は「報道界の社交の場」として広く知られ、著名人も多数招待されます。
Q2:ロナルド・レーガンとはどのような大統領だったか?
A:アメリカ第40代大統領(1981〜1989年在任)で、もともとハリウッド俳優出身です。「強いアメリカ」を掲げた保守主義の象徴的存在で、減税・規制緩和を柱とした「レーガノミクス」と、ソ連との対決姿勢で知られます。トランプ氏も「強いアメリカ」路線の先人として、しばしばレーガンと比較されます。
Q3:ジョディ・フォスターとはどのような人物か?
A:アメリカの著名な女優・映画監督で、子役から活躍し『タクシードライバー』(1976年)などで世界的に知られました。
Q4:シークレットサービスとはどのような組織か?
A:アメリカ大統領や副大統領などの要人警護を専門とする連邦政府機関です。財務省傘下で1865年に設立され、現在は国土安全保障省の管轄下にあります。大統領の警護に加え、通貨偽造の捜査も主要業務の一つです。
Q5:「宥和路線」とは政治的にどういう意味か?
A:対立する相手に対して強硬姿勢をとらず、譲歩や融和によって関係改善を図る外交・政治姿勢を指します。歴史的には1930年代のヒトラーに対する英仏の宥和政策が有名で、現在では「対立を避けすぎる姿勢」として否定的な文脈で使われることもあります。
(リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)
写真)Security Scare at The White House Correspondents’ Dinner with President Trump
出典)Andrew Harnik / スタッフ / GettyImages




























