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.政治  投稿日:2026/3/19

流動化する沖縄政治(上)高市津波と「オール沖縄」の迷走


 執筆:目黒 博(ジャーナリスト)

目黒博のいちゃり場

 

本稿のポイント

・高市人気で自民党が全選挙区を制覇し、「オール沖縄」は比例復活もゼロ。

・立民と公明が結成した「中道」の迷走で、「辺野古」反対派「オール沖縄」は失速。

・社民党本部が沖縄での選挙に介入し、「オール沖縄」関係者が激怒。

  

20262月の衆院選で、高市首相の「サナエブーム」と「中国ファクター」により、自民党が沖縄全選挙区を制覇。「オール沖縄」は「中道」との迷走や社民党本部の介入で分裂し、全敗した。高市政権は経済・外交に難題を抱え、「オール沖縄」は秋の県知事選を前に陣営内の亀裂修復が急務となっている。(Japan In-depth編集部)

 

2月28日午前(現地時間)に米軍とイスラエル軍がイランを攻撃し、最高指導者ハメネイ師を殺害したが、イランは徹底抗戦の構えだ。今や世界は大荒れだ

一方、日本国内では、高市自民党が2月の衆院選で圧勝した。平和主義が根強い沖縄でも、高市人気は高く、自民党が革新系を中心とした「オール沖縄」を圧倒した。

この記事では、国内の政治情勢を念頭に置きつつ、沖縄での選挙結果の意味を考える。

 

自民大勝の要因は、高市人気・「オール沖縄」の迷走・中国ファクター

今回の総選挙は、前回(2024年10月)とはすっかり様変わりした。

前回は、国政与党と野党がきっ抗したが、今回は、小選挙区4議席を自民が独占する。一方の野党系「オール沖縄」は小選挙区で全敗、比例復活もならず、「中道改革連合(以下「中道」)」の公明系が、比例単独で1議席を確保するにとどまった。

極端な選挙結果をもたらした主な要因は3あった。

まず、第一に、自民関係者が「高市津波」と呼ぶほど、高市首相の人気が高かったことだ。第二に、突然結成された「中道」が迷走し、「オール沖縄」も分裂したことである。第三に、高市氏を狙い撃ちした中国の対日強硬策が、沖縄県民の中国に対する反発を招き、高市政権の支持を高めたことだ。

 

サナエブームが沖縄県内に広がり、自民党を一挙に押し上げた

菅、岸田、石破と、「煮え切らない」総理が3代続いた後、高市氏は「選挙で負ければ退陣する」と決意を表明し、断言調の「強い」メッセージを繰り出した。

「女性初の総理」だけに、女性の支持は高かったが、彼女の「覚悟」に感心する男性の声も多く聞かれた。高市氏の歯切れの良さは、選挙連敗後も辞任を渋った石破茂前総理とは対照的で、効果てきめんだったと言える。

写真)高市早苗首相 
出典)首相官邸ホームページ

さらに、暫定税率廃止によって、昨年末からのガソリン価格低下は、極端な「車社会」の沖縄では特に歓迎された。高市政権の実行力への期待が高まり、本土同様に県内でも「サナエブーム」が広がった。

興味深い点は、高市政権と参政党の支持層が重なることだ。現状に不満を抱き、昨年の参院選では参政党に投票した有権者の多くが、総選挙で「強さ」をアピールする高市自民党を支持したが、沖縄でも同様の現象が見られた。

 

順風満帆に見える高市政権を多くの難問が待ち構える

強固な政権基盤を築き、期待を集める高市内閣だが、その先行きは不透明だ。

たとえば、円安は生活物資の高騰を招くが、輸出中心の自動車産業などが円安を望む以上、政権は手をつけにくい。不動産価格の高騰には投機マネーがからむ。しかし、不動産業界は自民党の有力な支援業界であり、投機を止められない。自民の重要な票田を抱えるJA(農協)にも配慮せざるを得ず、高い米価を放置している。

写真)JAビル
出典)筆者撮影

そのため、中小企業が多く、所得水準の低い沖縄では、「強い経済を作る」というサナエノミクスに、「大企業寄り」の姿勢を感じる人もいる。株価が高値をつける一方で、中小企業と庶民の苦境が続き、政権への疑念を生んでいる。

「女性初の総理」である高市氏は、女系天皇制と選択制夫婦別姓を拒否するなど、伝統的な男性中心の社会観にこだわる。女性たちが支持し続けるどうかは不明だ。

外交面はさらに厳しい。イラン戦争により、石油価格の急騰に加え、トランプ大統領から無理難題を要求される可能性もある。悪化する日中関係も改善の目途が立たない。高市政権に、この難局を切り抜ける知恵があるのかどうか。

 

「中道」と「オール沖縄」の迷走

選挙直前に急遽結成された「中道」は、政策面での十分な調整ができないまま、選挙になだれ込み、党内に遠心力が働いた。沖縄では、公明系を含む「中道」が、まるごと「オール沖縄」に参加することになったが、公明は長らく自民党と協力関係にあり、この陣営と対立してきたため、「中道」と他の政党との連携はスムーズには進まなかった

その典型例は、沖縄本島北部の名護市長選と総選挙への取り組みである。

1月25日までは公明系は自民とともに保守系現職市長を応援した。しかし、その2日後には総選挙が告示され、「中道」の一翼を担って、つまり「オール沖縄」に参加して、総選挙に入った。曲芸に近い転換を余儀なくされた末端の運動員は、どう思ったか。

「辺野古問題」に関する「中道」幹部の不用意な発言もまた、陣営関係者を困惑させた。

「オール沖縄」内の革新系の一部は、公明系を含む「中道」を「保守」と断定して敵視した。他方の公明系の支持層にとって、スキャンダルを抱えたり、左派色の強い「オール沖縄」候補者たちを応援しにくかった一部の票は自民党に流れたという。

 

社民党本部の暴走が、「オール沖縄」に亀裂を生んだ

「オール沖縄」をさらに揺るがしたのは、社民党県連の分裂と同党本部の暴走である。
発端は、昨年11月に、社民党唯一の衆議院議員(本島中部の2区選出)、新垣邦男氏が離党したことだ。

写真)新垣邦男前衆議院議員 
出典)新垣クニオホームページ

新垣氏は、本島中部の北中城村の村長を4期務めた実務派で、平和運動を軸とする党の体質になじめず、離党は時間の問題だった。「オール沖縄」は過去の実績を評価し、「中道」公認で出馬する新垣氏を統一候補とする。

ところが、新垣氏の「中道」入りに反発した社民党県連の一部が、別の人物の擁立に動き、党本部が党公認を出してしまう。多くの関係者の、共倒れを懸念する声にも耳を貸さず、同党は公認を撤回しなかった。「社民党の旗」を立てることを優先したのだ。

結局、両者とも落選し、比例復活もならなかった。両候補の合計得票数が自民の当選者の票を上回っただけに、陣営内に大きなしこりが残った。

ゆるやかに連携する「オール沖縄」と、硬直した「社民党本部」の沖縄への介入

「オール沖縄」に関しては、故翁長雄志知事が「地元の民意」を掲げ、「腹八分、腹六分」を唱えて発足した経緯がある。多くの陣営関係者の目には、社民党本部が「オール沖縄」の精神を「ないがしろ」にしたと映った。

写真)福島みずほ社民党党首 
出典)社民党ホームページ

沖縄には本土からの介入を嫌う傾向がある。沖縄の事情を無視する社民党本部に絶望して、県連の有力党員たちが集団離党してしまう。さらに、社民党の「党利党略」に対する陣営内の怒りはおさまらず、同党を排除すべしとの声が強まっている。

硬直した古い体質の左派政党が、沖縄で生き残るのか。そして、本年秋の県知事選を控え、陣営内の亀裂が修復できるのか。「オール沖縄」は難しい局面を迎えている。

高市自民圧勝をもたらした最大の要因と見られる中国ファクターや、中国が日本や沖縄を理解しない背景などについて、(下)で考察する。

 

沖縄政治をもっと詳しく紐解くためのFAQ

Q1: 沖縄で「本土からの介入」が強く嫌悪される歴史的背景は何ですか?

A: 沖縄は、第二次世界大戦における激しい地上戦の舞台となり、戦後、本土復帰(1972年)まで約27年間アメリカの施政権下に置かれました。この歴史的経緯から、沖縄の意思が本土(日本政府)によって一方的に決められてきたという認識が根強く、地元・県民の意思を尊重しない「本土からの介入」に対する不信感や強い抵抗意識があります。

Q2: 沖縄の「過重な基地負担」とは、具体的にどのような状況を指しますか?

A: 在日米軍専用施設のおよそ70%が、日本の国土面積の0.6%に過ぎない沖縄県に集中している状態を指します。これにより、騒音や環境汚染、事件・事故のリスクが他都道府県と比較して極めて高く、この不均衡な状態が「オール沖縄」が辺野古移設に反対する最大の根拠となっています。

Q3: 沖縄における「革新系」と「保守系」の定義は、本土とどう異なりますか?

A: 本土ではイデオロギー(思想・主義)が中心ですが、沖縄では「基地問題へのスタンス」が最も重要な線引きです。基地移設反対派が「オール沖縄」を中心とする革新系、移設容認・推進派が自民党を中心とする保守系とされる傾向が強く、本土で保守系の公明党の一部が基地問題へのスタンスから「オール沖縄」に加わるなど、本土とは異なる複雑な政治構造を持っています。

Q4: 沖縄経済は基地問題によってどのように影響を受けていますか?

A: 基地が存在することで、地代収入や基地関連事業による雇用・所得が発生しており、これが沖縄経済の一部を支えている側面があります。しかし、同時に経済の自立を妨げる要因ともなっており、基地頼みの経済からの脱却を目指す地元経済界と、基地に依存する一部の住民との間に、複雑なジレンマを生じさせています。

Q5: 記事で言及されている「故翁長雄志知事」は、どのような経緯で「オール沖縄」の求心力となったのですか?

A: 故翁長氏は、もともと保守系の政治家(那覇市長)で、自民党に所属していました。しかし、辺野古移設を巡る政府の強硬な姿勢に反発し、自民党を離党。辺野古反対を掲げて2014年の知事選に当選し、立場を超えて連携する「オール沖縄」の精神的かつ政治的なリーダーとして、陣営を一つにまとめ上げました。

 

シリーズ・アーカイブの紹介

 本連載は、国内外の政治や安全保障、社会の動きを独自の視点で読み解く目黒博による「いちゃり場」シリーズです。個別のトピックを超えて読み進めることで、複雑に絡み合う現代の論点を立体的に理解することができます。

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トップ写真)国会議事堂 
出典)筆者撮影




この記事を書いた人
目黒博ジャーナリスト

1947年生まれ。東京大学経済学部(都市問題)卒業後、横浜市勤務。退職後、塾講師を経て米国インディアナ大学に留学(大学院修士課程卒)。NHK情報ネットワーク(現NHKグローバルメディアサービス)勤務(NHK職員向けオフレコ・セミナー「国際情勢」・「メディア論」を担当)、名古屋外国語大学現代国際学部教授(担当科目:近現代の外交、日本外交とアジア、英文日本事情)、法政大学沖縄文化研究所国内研究員などを歴任。主な関心分野:沖縄の「基地問題」と政治・社会、外交・安全保障、日本の教育、メディア・リテラシーなど。

目黒博

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