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スポーツ  投稿日:2026/6/20

楽天、ウォリアーズのユニフォーム終了 ── 旧来型スポンサーシップへの「目覚まし」 


執筆者:松永裕司(Forbes Official Columnist)

【本稿のポイント】

・楽天は2026年6月19日、ゴールデンステート社とのパートナーシップを更新、2017年以来約9年続いたウォリアーズの「ユニフォーム・パートナー」を終了。ファンエンゲージメントと地域貢献型へ転換。

・ウォリアーズ、Gリーグのサンタクルーズ・ウォリアーズ、WNBAヴァルキリーズと包括連携。コミュニティ財団へ1,200万ドル以上を支援し、米「Rakuten Rewards」では10%以上のキャッシュバックで自社経済圏への送客狙う。

・ロゴ露出による「認知」から購買「行動」を生む「アクティベーション」への移行であり、露出に固執する旧来型スポンサーシップへの示唆がある。

 

楽天グループは2026年6月19日、NBAゴールデンステート・ウォリアーズなどを運営するゴールデンステート社とのパートナーシップ更新を発表した。注目すべきは、2017年から約9年続いた「ユニフォーム・パートナー」の終了である。胸ロゴによる露出から、自社経済圏への送客へ──。楽天が次に賭けるのは、認知を購買行動へと変換する「アクティベーション」だ。ロゴ露出に一喜一憂する旧来型のスポンサーシップに、本契約は何を突きつけるのか。Forbes Official Columnist・松永裕司が解説する。

日本企業が、まだまだ理解しておらず、活用しそこねている取り組みのひとつにスポーツへのスポンサードが挙げられる。

テレビやDAZNなどのOTTにおいて、もしくはスタジアムやアリーナのLED看板などに企業ロゴが大きく露出されている事実には多くのファンがお気づきだろう。しかし、この看板に企業ロゴが掲出され、それがメディア価値換算されると「露出価値○億円」というビジネスは30年以上前、つまりすでに過去のビジネスモデルだ。

いまだに自社のロゴがテレビ・スクリーンに映し出されると「おお、映った、映った」と喜ぶ経営者を目の当たりにすると、内心呆れ返っている自分がいる。デジタルマーケティングが高度に発達し、あらゆる投資対効果(ROI)が厳しく可視化される現代において、名称を売るだけの巨額投資は、ステークホルダーの理解を得ることすら難しくなっているのが現実だ。

21世紀は、スポーツへのスポンサードを、いかに自社ビジネスに直結させるのか、そのアクティベーションが基礎である。ロゴによる単なる企業認知から、企業理解へと深化している点を、現代の企業経営者は理解しておくべきだろう。

楽天グループ株式会社(以下「楽天」)は19日、NBA「ゴールデンステート・ウォリアーズ」(以下「ウォリアーズ」)などを運営するGolden State Group(以下「ゴールデンステート社」)との、複数年にわたるパートナーシップ更新を発表した。

ロゴ露出からの脱却と単純認知の臨界点

スポーツビジネスの観点から注目すべき点は、楽天が2017年から約9年間にわたって務めてきたウォリアーズの「ユニフォーム・パートナー」を終了させた事実にある。

この決断を理解するには、過去9年間で楽天がいかに認知を獲得したかを振り返る必要がある。2017年の契約締結以降、ウォリアーズはNBAの歴史そのものを塗り替えた。その中心は、現代最高峰のスーパースターのひとり、ステフィン・カリーだ。かつては得点源であったフープ下のペイントエリアを嘲笑うかのように、常識を覆す超長距離のスリーポイントシュートでゲームを支配するカリーの姿は、世界中のメディアとSNSで無限に拡散された。そして、カリーを中心に8年間で4度のNBA制覇という「王朝」を築き上げた歓喜の瞬間、選手たちの左胸には常に楽天のロゴが輝いていた。

カリーという圧倒的なアイコンとチームの黄金期に伴走し、同社は米国市場におけるブランド認知を高めた。世界最高峰のスポーツにおいて、絶頂期のチームとブランドイメージをこれほど長期間シンクロさせた事例は珍しいだろう。楽天の名称だけをアピールするフェーズは、臨界点に達したと見る向きは理解できる。

チームの勝利に依存しない「共感と行動」の創出

しかし、プロスポーツにおいて永遠に勝ち続ける組織は存在しない。全盛期を支えたコアメンバーの高齢化や新世代の台頭により、ウォリアーズもまた新たなチーム作りの過渡期を迎えている。2025-26シーズン、ウォリアーズはプレーインで敗退、プレーオフ進出を逃した。

チームの戦績に依存する「露出」という受動から、どれだけチーム状況が変化しても揺るがない「共感と行動」という能動へ。アクティベーションの本質であり、楽天がユニフォームの胸ロゴから姿を消す理由のひとつのはずだ。

その新戦略の象徴が、2025年にWNBA参入を果たした新チーム「ゴールデンステート・ヴァルキリーズ」との包括的な連携強化と、多角的な地域社会への投資だろう。

現在、欧米の女子スポーツ市場はかつてない熱狂に包まれている。欧州においてその中心はサッカーだが、米国ではバスケだ。視聴者数やアリーナの観客動員数は右肩上がりであり、スポンサー企業にとっても極めて魅力的な成長市場へと変貌を遂げている。世界最大級コンサル・ファーム、デロイトが発表した2026年4月のリポートによれば、世界の女子エリートスポーツの年間収益は2026年内に30億ドル(約4,800億円)を突破する見込みであり、単なる社会貢献(CSR)の枠を超え、確実なリターンが見込める巨大なビジネス市場へと急成長を遂げている。

欧米では、女性アスリートのエンパワーメントは、すでに社会全体の大きな関心事となっている。楽天は、ヴァルキリーズの基盤を支える長期的なパートナーとして名乗りを上げた。

さらに、ゴールデンステート・コミュニティ財団が推進する教育の公平性や地域貢献活動に対し、1200万ドル(約19億円)以上という巨額の支援を行う。次世代リーダーの育成プログラムや女性エンパワーメント活動の継続は、同社の「イノベーションを通じて人々と社会をエンパワーメントする」という企業理念を、サンフランシスコ・ベイエリアという巨大なコミュニティの心臓部でアクティベートさせる試みである。

スポーツの熱狂を自社経済圏の還流促進へ

そして、優れたビジネス・アクティベーションの仕掛けが、米国における主軸事業「Rakuten Rewards」との強固な結びつきだ。

楽天は、サンフランシスコ・ベイエリアのマイノリティデザイナーと協業、かつて自社のロゴが掲出されていた過去のウォリアーズのユニフォームを再利用したアップサイクル・グッズを展開する。栄光の歴史が詰まった旧ユニフォームを解体し、サステナブルな新たな価値を与えてファンに還元するクリエイティブな施策は、それ自体が新たなエンゲージメントを生む。

その上で、同社はウォリアーズの熱狂的なファン層「ダブ・ネーション」を自社のキャッシュバック経済圏へと直接的に誘導する。チーム公式ショップでの購入時に10パーセント以上という高還元率のキャッシュバックを提供し、会員限定の特別な体験やグッズ購入権を付与するのだ。

スポーツの感動やチームへの忠誠心という無形の熱狂を、自社のロイヤリティプログラムにおける具体的な購買行動へと変換。一度きりの購買で終わらせず、強固なファン心理を利用して継続的なサービス利用へとつなげることで、顧客生涯価値を劇的に高める狙いが透けて見える。

これは楽天が日本でも展開している楽天ポイント、楽天カードなどに形成される「エコシステム」を米国でも構築、完成させようとするモデルの一環だろう。

新型コロナ以前、米スポーツビジネスカンファレンスに足を運ぶと、楽天がブースを出展。楽天ロゴの入ったFCバルセロナやウォリアーズのユニフォームを展示し「我々は日本のAmazonです」とアピールに勤しんでいた。だが、単に名称をアピールするのみの時代は終わった。

今後、グローバル企業に求められるのは、獲得した認知をテコに社会課題を解決、同時に自社のビジネス・エコシステムを力強く回していくダイナミックな実行力だ。「認知からアクティベーションへ」という現代マーケティングの最重要テーマを、高い次元で体現した今回の契約更新は、いまだにロゴの露出度に一喜一憂する旧態依然とした経営者たちに、目覚まし時計の音として響くのか。

単なるスポンサー“タニマチ”という旧来の枠組みを取り払い、社会とビジネスの双方に利益をもたらす「パートナー」への昇華を目指した今回のケース、楽天とゴールデンステートの取り組みが、今後どこまで深化し、どこまで発展を遂げるのか。それとも進軍ラッパとしての役割に過ぎないのか、非常に気になる取り組みだ。

よくある質問(FAQ)

Q1:楽天はゴールデンステート社とのパートナーシップを解消したのですか?
A:解消ではありません。複数年契約を「更新」したうえで、形態を転換しました。これまでのユニフォームへのロゴ掲出(ユニフォーム・パートナー)を終了し、ファンエンゲージメントや地域貢献を深める内容へと移行しています。

Q2:新しいパートナーシップで楽天は何に投資しますか?
A:ゴールデンステート・コミュニティ財団の教育の公平性・地域貢献活動に1,200万ドル以上を支援するほか、WNBAのゴールデンステート・ヴァルキリーズなど女子バスケットボールと地域コミュニティへの投資、米国「Rakuten Rewards」での10%以上のキャッシュバックなどを行います。

Q3:スポーツマーケティングにおける「アクティベーション」とは何ですか?
A:スポンサーシップを単なるロゴ露出(認知)で終わらせず、自社の商品・サービスの利用や購買といった具体的な行動・成果に結びつける取り組みを指します。本記事は、楽天の今回の転換をその典型例として位置づけています。

Q4:女子スポーツ市場はどの程度の規模ですか?
A:デロイトが2026年4月に公表したリポートによれば、世界の女子エリートスポーツの年間収益は2026年に少なくとも30億ドルに達する見込みで、2022年比で340%の増加とされています。

トップ写真:ゴールデンステート・ウォリアーズのステフィン・カリー選手が、チェイス・センターで行われたヒューストン・ロケッツ戦の第2クォーターに出場する(カリフォルニア州サンフランシスコ 2026年4月5日)出典:Eakin Howard /GettyImages




この記事を書いた人
松永裕司Forbes Official Columnist

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 「あらたにす」担当/東京マラソン事務局初代広報ディレクター/「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。


出版社、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験から幅広いソリューションに精通。1990年代をニューヨークで、2000年代初頭までアトランタで過ごし帰国。

松永裕司

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