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スポーツ  投稿日:2026/9/21

「地上波」が消えるアメリカと動揺する日本 ニールセン調査 米ストリーミング視聴48.6% 


執筆:松永裕司(Forbes Official Columnist)

【本稿のポイント】

・ニールセンの2026年5月分「The Gauge」で、米テレビ総視聴時間に占めるストリーミングの比率は48.6%と過去最高を更新。地上波19.2%とケーブル20.4%を合わせても及ばない。

・YouTubeは13.8%で3カ月連続の首位、Amazonプライム・ビデオはNBAプレーオフなどライブスポーツの配信で過去最高の4.5%を記録した。

・日本ではワールドカップ中継が視聴人数の上位を占め、地上波が主役の座を保つ。ただし、スポーツ配信権の行方、シニア層の世代交代、広告費のCTVへの移行という三つの変数次第で、米国型への移行は加速しうる。

米国のテレビ視聴は、ストリーミングが地上波とケーブルの合計を上回る構造に定着した。ニールセンが2026年7月28日に発表した5月分の「The Gauge」で、その比率は過去最高の48.6%に達した。日本では地上波が主役だが、WBCのNetflix独占配信に象徴される変化は始まっている。Forbes Official Columnist・松永裕司が、日本のメディア産業の変化を予測する。

ニールセンが2026年7月28日に発表した「The Gauge」の2026年5月分リポートは、米国のテレビ視聴構造が、もはや後戻りできない地点に達した事実を改めて示した。The Gaugeは、テレビ画面を通じた地上波・ケーブル・ストリーミングの総視聴時間の内訳を毎月示すニールセンの調査である。

2026年5月、米テレビ総視聴時間に占めるストリーミングの比率は48.6%に達し、前月から1.0ポイント上昇した。例年4月から5月にかけては視聴時間全体が2〜4%落ち込む“季節の谷”があるが、26年はその減少幅が、わずか1%にとどまった。ストリーミングが視聴の主戦場になりつつある証と見て取れる。

この数字の重みは、過去のデータと並べるとさらに際立つ。

25年5月、ストリーミングはすでに地上波とケーブルの合計(44.2%)を上回る44.8%を記録。初めてストリーミング単独が線形(リニア)放送全体を凌駕する歴史的な転換点を迎えた。

ニールセンによれば、2021年5月から25年5月にかけてストリーミングの利用は71%増加し、視聴シェア1%を超えるプラットフォームの数も、当初の5つ(Netflix、YouTube、Hulu、Prime Video、Disney+)から11に拡大している。48.6%という数字は、その延長線上にある“さらなる変革”だ。

■主役はYouTube、ライブスポーツを飲み込むAmazon

とりわけ象徴的なのは、YouTubeが単独プラットフォームとして過去最高の13.8%を記録し、3カ月連続で全ディストリビューター(メディア企業)中トップに立った点だ。月間シェアの伸びも+0.4ポイントと、ストリーミング勢とメディア企業の双方で最大だった。もはやYouTubeは「動画共有サービス」ではなく、地上波・ケーブルを含めた全テレビ視聴の中で最大シェアを握る、いわゆる「放送局」に等しい存在だ。

Amazonプライム・ビデオも過去最高の4.5%(+0.3ポイント)を獲得した。原動力は二つある。

一つはオリジナルドラマ『ザ・ボーイズ』の最終エピソードで、視聴時間は50億分に達し、5月に最も視聴されたストリーミング作品となった。もう一つはNBAプレーオフ12試合、WNBA6試合、NASCARカップ・シリーズ2レースを含む20件のライブスポーツ配信で、合計75億分の視聴を生み出した。

18〜24歳層の同プラットフォーム視聴も18%増加した。これまで地上波・ケーブルの最後の牙城とされてきたライブスポーツという領域が、ストリーミングに侵食され始めている。

その他の動きも見逃せない。Netflixはメディア・ディストリビューター・ゲージ(メディア企業単位の視聴シェア)で4位に返り咲き、8.0%(+0.2ポイント)。買い付け作品『ラ・ブレア』(視聴時間40億分超)が牽引した。

The Roku Channelは3.1%(+0.1ポイント)と過去最高を更新した。Paramount Streamingは2.3%(+0.2ポイント)まで上昇し、前月比7%増とストリーミング勢の中で5月最大の伸び率を記録した。新作オリジナル『Dutton Ranch』の初回エピソードと、『スポンジ・ボブ』などのライブラリ・コンテンツが後押しした。

■崩れゆく地上波・ケーブルの牙城

一方、地上波は19.2%、ケーブルは20.4%まで縮小し、合わせて39.6%と、ストリーミング単独の48.6%に及ばない。

ディズニー傘下のESPNはNBAプレーオフ中継に牽引され視聴が16%増加し、5月のケーブルテレビ番組トップ6を独占したが、これはむしろ「スポーツ以外にケーブルを支える柱がない」という構造的な脆さの裏返しだ。

実際、ケーブルニュースの視聴は16%も落ち込み、NBAプレーオフによるスポーツジャンルの下支えをもってしても、その減少を補いきれなかった。

NBCU+Versantはディストリビューター3位(8.4%、+0.2ポイント)を守り、ケンタッキーダービー(視聴者1,800万人超)とNBAウェスタン・カンファレンス・ファイナル第7戦(1,200万人超)という地上波トップ2番組を擁したものの、地上波ドラマは13%減、シットコムは10%減と、シーズン終了の影響を色濃く受けた。

「テレビをつける」という行為そのものが、事実上「ストリーミングを開く」と同義になりつつある。

■日本はなぜ、地上波が主役なのか

この構図を日本に置き換えると、景色はやや異なる。ビデオリサーチが2026年7月10日に発表した2026年上半期の全国推計視聴人数ランキングでは、全ジャンルの1位・2位をFIFAワールドカップ2026の日本×スウェーデン戦、日本×チュニジア戦が占め、上位10番組のうち6本がスポーツ中継だった。

米国でライブスポーツがストリーミングへ流出しつつあるのとは対照的に、日本では国民的関心の高いスポーツイベントは依然として地上波が最も強い牽引力を持つ。

理由は複数重なる。第一に、日本の地上波キー局は依然として高いコンテンツ制作力とブランド力を維持し、ニュース・バラエティ・ドラマで競争力を保っている。第二に、TVerやNHKプラスといった無料の見逃し配信サービスが、視聴者を有料のSVOD(定額制動画配信)へ完全に流出させる前の受け皿となっており、米国のような「ストリーミング一辺倒」とは異なる独自のハイブリッド型進化を遂げている。

第三に、スポーツ中継権の構造だ。日本ではプロ野球やJリーグの主要試合がDAZNなど専業配信に限定される形が多く、YouTubeやAmazonのような「総合プラットフォーム」がスポーツ視聴の主導権を握るには、まだ至っていない。加えて、視聴時間の長いシニア層の人口比率の高さも、地上波中心の視聴習慣を下支えしている。総務省が2026年6月26日に公表した「令和7年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」でも、世の中のできごとをいち早く知るために最も使うメディアは、10代から50代がインターネット、60代と70代はテレビだった。

■日本は同じ方向へと流されるのか

もちろん、日本が米国と同じ道を歩むとは限らない。

米市場は1980年代、MTVなどケーブルテレビの登場により、ケーブルパッケージの中に地上波が組み込まれるという潮流が起こり、各家庭にケーブルが行き渡ったという過去がある。日本ではほぼこの流れを踏襲しなかった。

ただし、若年層に限れば、日本でもすでに動画視聴の主役はYouTubeやTikTok、Netflixに移っている。TVerの月間ユーザー数は2026年1月に4,470万ユニークブラウザと2カ月連続で過去最高を更新し、コネクテッドTV(CTV=インターネットに接続されたテレビ)の普及に伴い、広告付き無料ストリーミング(FAST)も存在感を増している。

ビデオリサーチが2024年4月に関東地区でコネクテッドTVやPC・モバイル端末での動画配信利用を測る「STREAMO」の提供を始め、2025年10月に全国32地区へ広げたこと自体、業界が視聴率の定義そのものを見直す必要に迫られている事実の表れだ。日本は、米国が数年前に通過した「地上波からストリーミングへ」という移行の初期段階を、独自のスピードとハイブリッド構造で歩んでいると見るべきだろう。

今後注目すべき変数は三つある。

一つ目はスポーツ配信権の行方。プロ野球やJリーグの主要カードがDAZNやAmazon、あるいはYouTubeのようなプラットフォームへさらに流れれば、米国で起きたのと同じ「最後の牙城の崩壊」が日本でも加速するのか。

二つ目はシニア層の世代交代。今後10年で視聴習慣の異なる世代がテレビ視聴の中心を担うようになれば、構造変化は不可避的に進む。三つ目は広告市場の移行速度だ。広告主がCTV広告への予算シフトを進めれば、地上波の経営基盤そのものが揺らぎ、コンテンツ制作力の維持が難しくなる可能性がある。電通のような広告代理店が現状、これをせき止めているとの見方もあるが、果たしてダムの崩壊はあるのだろうか。

日本でも2026年3月のワールドベースボールクラシック(WBC)は、Netflixが日本国内の独占配信権を取得し、地上波では中継されなかった。これを受けてスポーツ庁は2026年5月に「スポーツを観る機会の確保及びスポーツ放映に関する検討会」を設け、諸外国のユニバーサル・アクセス制度を参照しながら、国民的関心の高いスポーツを観る機会をどう確保するかの議論を始めている(9月10日に第4回を開催)。

ニールセンが示す米国の数字は、単なる対岸の火事ではない。日本のメディア産業・広告産業が今後10年で直面するであろう変化の先行指標として読み解くべきだ。

地上波が消える将来はないとしても、視聴の主導権がどこにあるかという意味で、日本もまた確実にストリーミング前提の世界へと近づいている。日本では地上波が、どのようなストリーミング戦略を打つのか、そこに放送の未来が隠されている。

【よくある質問(FAQ)】

Q1:ニールセンの「The Gauge」とは何か
A:ニールセンが2021年5月分から毎月公表している、米国でテレビ画面を通じて視聴された地上波・ケーブル・ストリーミングの総視聴時間の内訳(シェア)である。2024年4月からは、メディア企業単位で集計する「メディア・ディストリビューター・ゲージ」も加わった。広告取引に使う視聴率とは別の指標で、広告付き・広告なしの双方の視聴を含む(ニールセン「The Gauge」)。

Q2:ユニバーサル・アクセス(権)とは何か
A:国民的関心の高いスポーツ行事を、有料サービスに加入しなくても無料放送などで視聴できる機会を確保するという考え方・制度で、英国などで導入されている。日本では2026年のWBCがNetflixの独占配信となったことを受け、スポーツ庁の検討会が諸外国の制度と最新動向を参照しつつ議論している。

Q3:FASTとは何か
A:Free Ad-supported Streaming TVの略で、広告を見る代わりに無料で視聴できるストリーミングサービスを指す。米国ではThe Roku Channel、Tubi、Pluto TVなどが代表例で、ニールセンのThe Gaugeでは2025年5月にこの3社の合計が全テレビ視聴の5.7%を占めた。

Q4:コネクテッドTV(CTV)とは何か
A:インターネットに接続され、YouTubeやNetflix、TVerなどの配信アプリを直接視聴できるテレビ受像機、またはストリーミング端末をつないだテレビのこと。CTVの普及により、テレビ画面で見られる映像が放送番組に限られなくなったことが、視聴率の測り方の見直しにつながっている。

(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)

【関連リンク】

・Nielsen: Streaming Embarks on Annual Summer Ascent in Nielsen’s May 2026 Gauge Reports(2026年7月28日)

・Nielsen: Streaming Reaches Historic TV Milestone, Eclipses Combined Broadcast and Cable Viewing For First Time(2025年6月17日)

・Nielsen: The Gauge(データセンター)

・ビデオリサーチ:2026年上半期テレビ番組視聴人数ランキング(2026年7月10日)

・ビデオリサーチ:『STREAMO』提供開始(2024年1月23日)

・ビデオリサーチ:『STREAMO』を全国32地区で10月より提供開始(2025年7月16日)

・総務省:「令和7年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」の公表(2026年6月26日)

・TVer:2026年1月の月間ユーザー数 過去最高の4,470万MUBを記録(2026年3月17日)

・Netflix:WORLD BASEBALL CLASSIC INC.とNetflixが、2026年ワールドベースボールクラシックの日本における独占パートナーシップを発表

・スポーツ庁:スポーツを観る機会の確保及びスポーツ放映に関する検討会

トップ写真:New Turkish Law Allows Government Control Of Media Outlets And Internet Content

出典:Chris McGrath / スタッフ / GettyImages




この記事を書いた人
松永裕司Forbes Official Columnist

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 「あらたにす」担当/東京マラソン事務局初代広報ディレクター/「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。


出版社、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験から幅広いソリューションに精通。1990年代をニューヨークで、2000年代初頭までアトランタで過ごし帰国。

松永裕司

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