中国の反日教育の実態その2 小学生が学ぶ「日本の残虐」
執筆者:古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」1103回
【本稿のポイント】
・中国の歴史教育が日本について教えるのは抗日の歴史だけであり、その教育は小学1年生の国語読本から始まる。
・読本第5章「屈辱の歳月」は「日本軍はわが同胞を何千万人をも殺し」と記し、「百人斬り競争」の記事写真、重慶爆撃の被害とされる写真、上海南駅の赤ん坊の写真の3枚を載せる。いずれも日本側の研究者から証拠や演出への疑問が出ている。
・同じ章の西洋列強の侵略は国名も被害写真もない穏健な扱いで、日本だけが特別に扱われている。
中国の反日教育は小学1年生の国語読本から始まる。6歳の児童が漢字を習う教材に「日本軍はわが同胞を何千万人をも殺し」と記され、「百人斬り競争」の記事写真や上海南駅の赤ん坊など、日本側の研究者から証拠や演出に疑問が出ている写真3枚が並ぶ。同じ章の西洋列強の侵略は国名も被害写真もない穏健な扱いで、日本だけが特別なのだ。国際ジャーナリストで麗澤大学特別教授の古森義久氏が、その読本の中身を報告する。
中国の歴史教育は日本について何を教えているのか?
中国の歴史教育では日本についての記述は驚くほど大きい。しかも日本関連部分のほぼすべては、日本がいかに中国を侵略し、中国がいかに日本と戦ったかという内容である。つまり抗日の歴史なのだ。日本については抗日の歴史しか教えないと総括しても間違いはないのである。
その抗日教育は量も質も現代の日本人が想像する域をはるかに越えている。日本が中国大陸でどれほど非道で、どれほど残虐だったかを繰り返し、繰り返し教えることが主眼のようになっている。しかも学校教育のきわめて早い段階から抗日歴史教育は始まるのである。
抗日教育は何歳から始まるのか?
中国の教育制度は日本に似ている。初等教育の小学校は6年制で、6歳から11歳まで、中学校(初級中学)は3年制で、12歳から14歳まで、となっている。小中学校の合計9年が義務教育である点も日本と同じである。
日本の「侵略」や「残虐」は小学校に入ってすぐ教わることとなる。しかもなまなましい視覚のイメージとともに教えられるのだ。
小学1年生の国語読本には何が書かれているのか?
その具体例は小学校低学年用の教科書の「わたしは中国を愛する」というタイトルの国語の読本である。6,7歳の幼い子供たちに中国語の読み書きを教えながら、祖国の偉大さ、すばらしさをも教えるという40ページほどの読本である。全ページにカラーのきれいな写真や絵が載り、その間に短い文章が詩のようなスタイルで記されていた。
この読本では文章の漢字のひとつひとつに発音記号がふられ、児童たちはそれをみて、字を習い、意味を学び、発音を覚えていく。ただ普通の国語の教科書とは異なり、文章に強烈な愛国心や政治意識を煽る内容が詰め込まれている。その意味では国語に社会や歴史を重ねあわせた教科書だともいえる。
この読本はもともと自国を愛することが最大の標題とされる。だから第一章の「わたしは中国を愛する」も、「アジアに雄々しくそそり立つ中華人民共和国」という言葉で始まる。その他の章も「国旗」、「民族大団結」、「共産党はすばらしい」、「社会主義はすばらしい」、「国防のための科学技術をたたえる」、「美しい山河」、「工業の大発展」というふうに中国を持ち上げる前向きのテーマばかりである。中国の偉大で魅力ある特徴の合計20の章が並ぶのだ。
ところがその流れのなかで冒頭に近い第5章では誇らしく明るい基調が突然、変わる。「屈辱の歳月」と題された章で、その内容は「日本軍の侵略」だった。その第5章の前半では旧中国が西洋の列強に財を奪われ、国土を割かれたことが記されていたが、章の後半では前半と同じ分量で「日本の侵略」だけを取り上げていた。以下のような総括だった。
「中国に侵略した日本軍はとても多くの凶悪なことをしました。放火や略奪の罪は天までとどくほどでした。日本軍はわが同胞を何千万人をも殺し、中国人民に泥にまみれ、火に焼かれるような苦しみを与えたのです」
小学1年生用の読み書きの授業に、こうした記述が出てくるのである。小学1年といえばわずか6歳である。北京在住の20代の青年にさりげなく尋ねてみると、「私も小学校に入ってすぐの国語の教育で、この読本の記述のように日本軍の残虐性について教わった記憶があります」と語ってくれた。
読本に載る3枚の写真は何なのか?
この同じ読本の上述の記述が掲載されたページにはしかも日本軍の残虐と中国側の被害の悲惨を示すための写真が3枚、掲載されていた。
その1枚は東京日日新聞(現在の毎日新聞の前身)に載った「百人斬り競争」の記事写真だった。「百人斬り」とは戦時の1937年12月に東京日日新聞が掲載した有名な、いや悪名高い報道である。その内容は「2人の日本軍将校が日本軍の南京攻略の際に「どちらが先に日本刀で中国側の敵100人を斬るかという競争をして、それぞれ106人と105人を倒した」という骨子だった。この2人は戦後、中国側の南京での裁判でこの記事だけが証拠とされ、死刑に処せられた。
だがこの記事は東京日日新聞の記者がただそういう話を聞いたというだけで、現実の証拠はなく戦意高揚のために書いたことが判明していた。しかも容疑者とされた両将校のうちの1人は実際には南京攻略の前線には加わっていなかったことまで証明された。だが中国の小学生用読本には両将校が軍刀を持って立つ記事写真が大きく掲載されたのである。
同じページの2枚目の写真は石段に中国人男女とみられる死体が多数、横たわっている光景だった。中国側はこの写真を他の場でも「日本軍の重慶への無差別爆撃の被害」として使ってきた。だが日本側の研究者からはこの写真は実は中国側の地下壕の扱いの不手際で圧死や窒息死をした被害者たちの姿なのだ、という指摘がなされていた。
さて3枚目の写真は以上の2枚よりも大きい、国際的にも有名となった上海南駅の線路上での赤ん坊の姿だった。日本軍の爆撃で破壊された上海南駅の鉄路にいたいけな幼児が1人、ぽつんと座り、泣いているという写真である。1937年10月、アメリカの有名雑誌のライフに掲載され、国際的な波紋を広げた。日本軍の非人道的な攻撃の象徴とされた。
ところがこの写真もまったく同じ赤ん坊が大人たちに囲まれ、同じ線路上に運ばれ、世話をされている写真も世に出てきた。日本側研究者からは当初の赤ん坊が1人ぽっちという写真が演出の産物だとする指摘が出た。
だがいずれにしても写真は3枚とも強烈なイメージだった。日本の侵略のむごたらしさがいやというほど映像化されていた。しかもそれらを見るのはみな6歳、7歳という中国側の子供たちなのだ。
中国の子供たちはこのように小学校に入ってすぐ国語の読み書きを習いながら日本軍の残虐や殺戮についても学ばされるのである。しかもその教材は日本側からみても、客観的にも疑問だらけなのだ。
西洋列強の侵略はどう扱われているのか?
ちなみに同じ読本の第5章の前半の「西洋の列強の中国への侵略」では、特定の国の名は書かれていなかった。記述は穏健だった。そこに掲載された3枚の写真も「日本の侵略」写真とは対照的に、外国軍隊の行進の光景であり、中国側の被害はなにもみせていなかった。要するに日本の扱いは特別なのである。
日本の侵略を詳述した第5章の次は「共産党はすばらしい」という章だった。その章では「人民に尽くす共産党は血を浴びながらも、ついに日本の賊どもを駆逐しました」と書かれていた。
(その3につづく。その1はこちら)
【よくある質問(FAQ)】
Q.中国の「愛国主義教育法」とは何ですか。
A.2023年10月24日に全国人民代表大会常務委員会で採択され、2024年1月1日に施行された全40条の法律です。第15条は、各級各種の学校が愛国主義教育を学校教育の全過程に貫き、その内容を各教科と教材に盛り込むよう定めています。第37条は「侵略戦争、侵略行為、虐殺事件を宣伝、美化、否定する」行為を禁じています(全国人民代表大会「中华人民共和国爱国主义教育法」)。
Q.中国の教科書は誰が決めているのですか。
A.中国の義務教育法は第38条で、教科書は国の教育方針と課程標準に基づいて編集すると定め、第39条で国が教科書の審定制度を実施し、審定を経ない教科書は出版・採用できないと定めています。審定の方法は国務院の教育行政部門(教育部)が規定します(中華人民共和国教育部「中华人民共和国义务教育法」)。
Q.上海南駅の赤ん坊の写真は、誰がいつ撮影したのですか。
A.ハースト系のカメラマン、H・S・ウォン(通称「ニュースリール・ウォン」)が1937年8月28日、日本軍機の爆撃直後の上海南駅で撮影しました。米誌ライフは1937年10月4日号102ページに掲載し、新聞・ニュース映画を合わせた潜在的な視聴者を1億3600万人と見積もっています(米ラファイエット大学 East Asia Image Collection)。
関連リンク
・中国の反日教育の実態その1 なぜ中国の教科書を調べるのか(Japan In-depth)
トップ写真:日本軍の爆撃後、上海南駅で負傷したとされる赤ん坊
出典:© CORBIS/Corbis via Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

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