図解 少子化対策は想像以上に難しそうなことが世界を見ると分かる
執筆者:杉山大志(キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹)
■本稿のポイント
・1970~2024年の217か国・地域のうち、216か国・地域すべてで出生率が低下、2024年には世界7地域中5地域で人口維持の目安である2.1を下回った。
・少子化は高所得国だけの現象ではなく、中国1.01、インド1.96、ブラジル1.61、タイ1.20など、2024年時点で所得と出生率がそろう中所得国のうち42か国が2.1を下回っている。
・少子化対策の成功例とされるフランスとスウェーデンも、出生率が一時的に回復した時期はあったものの、2025年にはそれぞれ1.53、1.42まで低下、支援制度をもってしても人口維持水準への回復・維持には成功していない。
児童手当の拡充や保育環境の整備が進む日本の少子化対策。しかし世界217か国・地域のデータを見ると、出生率の低下は先進国に限らず、手厚い家族政策を持つ国々でも食い止められていない普遍的な現象であることが分かる。3つの図をもとに、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志氏が世界の出生率の実態を読み解く。
◆すべての国・地域で低下した出生率――図1
少子化対策が日本の重要な政策課題となっている。児童手当の拡充や保育環境の整備が進められている[1]。子育ての負担が軽くなり、子どもを望む人が希望をかなえられるよう、うまくいくことを祈りたい。しかし、世界のデータを見ると、出生率の低下を食い止めるのは容易ならざる問題だと分かる。3つの図を作成してみた。
図1は、合計特殊出生率(TFR)(以下、単に出生率)である。これは、その年の年齢別出生率が続くと仮定した場合、女性が生涯に産む子どもの数に相当する。人口維持の目安は約2.1であり、これを下回る状態が続けば、移民による人口流入がない限り、長期的には人口は減少に向かう。

図:図1_世界の出生率の推移_600dpi 図解 少子化対策は
提供:筆者
注:細線は各国・地域、太線は各年の総人口で加重した国別TFRの平均。厳密な地域全体のTFRとは異なる。世界銀行の地域区分を使用し、「中東・北アフリカ等」にはパキスタンとアフガニスタンを含む。国により推計値を含む。出典:[2]。
図1には、1970~2024年の217か国・地域の出生率を描いた[2]。1970年代といえば、人口爆発が心配されていた時代だ。それから半世紀余り。両端の年を比較できる216か国・地域のすべてで、出生率は低下した。一時的な上昇はあるが、長期的な傾向は驚くほど共通している。
太線で示した世界7地域での人口加重平均も低下している。2024年には、東アジア・太平洋、欧州・中央アジア、中南米・カリブ、北米、南アジアの5地域で2.1を下回った。中東・北アフリカ等とサハラ以南アフリカはまだ上回っているが、そこでも長期的には低下している。各地域内には例外の国があるものの、少子化という現象は世界の広範囲に及んでいる。
◆所得が低い国でも進む少子化――図2
図2は、横軸に1人当たり所得、縦軸に出生率を取り、人口が多い国ほど円を大きくしたものだ。所得には世界銀行の1人当たり国民総所得(GNI)を用いた[2]。

図:図2_所得と出生率_600dpi 図解 少子化対策は
提供:筆者
注:所得は1人当たりGNI(Atlas方式、名目米ドル、対数目盛)。円の面積は同年の総人口に比例。198か国・地域は2024年、白抜きの9か国・地域は最新の過去年であり、現在の水準を表さない。所得が欠測の10か国・地域は除外。出典:[2]。
少子化は高所得国だけの現象ではないことが分かる。中国は1.01、インドは1.96で、ともに2.1未満だ。ブラジルは1.61、タイに至っては1.20である。2024年の所得と出生率がそろう中所得国において、42か国が2.1を下回る。
いまでも、所得と出生率には相関がみられる。図2では、所得の低い国ほど出生率が高い。だが、もはや少子化は先進国だけのものではない。
中所得国以上になると経済的水準があまり出生率に関係しないとなると、いま日本でもやっている、少子化対策として給付金などの金銭支援をすることには、いったいどの程度の効果があるのか、疑問も生じる。
金銭支援の効果について、35の研究を検討したベルグスヴィクらのレビューでは、現金給付の増額による出生増は、一時的なものになりやすいと報告している[8]。家計への支援は役に立つとしても、それだけで出生率の長期的な傾向を変えるとは限らないようだ。
◆成功例とされたフランス・スウェーデンも回復せず――図3
では、子育て支援を充実させ、少子化対策の成功例とされてきたフランスとスウェーデンはどうだろうか。図3に日本を加えた3か国の推移を示す[3–5]。

図:図3_フランス・スウェーデン・日本の出生率_600dpi 図解 少子化対策は
提供:筆者
注:フランスは海外県を除く本土、日本は国内の日本人(1972年以前は沖縄県を除く)。フランスの2023~2025年は暫定値、日本の2025年は概数。政策変更年は主要なものを抜粋しており、図自体は政策の因果効果を推定したものではない。出生率の出典:[3–5]。政策介入年の出典:[6–7]。
両国とも、確かに出生率が回復した時期がある。フランス本土は1993年の1.66から2010年には2.02へ上昇した。スウェーデンは1990年に2.14となり、その後の低下を経て、2010年には再び1.98まで戻った。ところが、2025年にはフランス本土が1.53、スウェーデンが1.42へ低下した。日本の1.14よりは高いが、人口維持の目安である2.1からは遠ざかっている。
図には政策変更の時期も書き込んだ。スウェーデンは1974年に両親が使える有給育児休業を導入した。1980年には次の子を24か月以内に産むと従前の休業給付額を保障する制度を設け、1986年には対象の出産間隔を30か月へ広げた。フランスも1985年の育児親手当導入、1994年の第2子への拡大、2004年の乳幼児関連給付の再編などを進めてきた[6–7]。
こうした政策に効果がなかったということではない。国連人口基金の報告は、両国の包括的な家族政策が比較的高い出生率を支えた要因と考えられてきたことを紹介している[7]。政策効果を検証した研究のレビューでも、保育や育児休業の拡充には、生涯出生数を増やす持続的な効果も認められている[8]。ただ、それでも人口を維持できる水準へ回復させ、保ち続けることには成功していない。
政策評価にはもう1つ難しさがある。支援によって出産の時期が早まると、その年の出生率は上がっても、生涯に産む子どもの数はあまり変わらない場合がある。スウェーデンの1980年代の上昇には、出産間隔の短縮が大きく寄与したとされる[7]。ゲルーソとスピアーズの2026年の論文も、年間の出生率への効果と生涯出生数への効果を区別する必要を指摘している[9]。
本稿の3つの図が示すことは、少子化が日本に特殊な問題ではなく、世界各地に共通する普遍的な現象だということだ。所得水準が日本より遥かに低い国々でも出生率は下がり、手厚い支援制度を築いた国も、少子化という趨勢を持続的に反転させることには成功していない。子供を設け育てる政策が実を結ぶことを願う一方で、そう簡単に目に見えた成果が出るものでもないことを、世界のデータは教えてくれる。
【よくある質問(FAQ)】
Q1:「合計特殊出生率(TFR)」とはどのような指標ですか?
A:その年の年齢別出生率が今後も続くと仮定した場合に、1人の女性が生涯に産むと見込まれる子どもの数を表す指標です。人口を長期的に維持するための目安はおおむね2.1とされています。
Q2:「人口維持の目安(2.1)」とはどのような意味を持つ数値ですか?
A:出生率がこの水準を下回る状態が続くと、移民による人口流入がない限り、長期的には人口が減少に向かうとされる目安の数値です。
Q3:「1人当たり国民総所得(GNI)」とはどのような指標ですか?
A:一国の国民が1年間に得た所得の総額を人口で割った指標で、その国の経済的な豊かさを測る目安の一つです。
(本稿のポイント、中見出し、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)
トップ写真:パリで若い家族の写真素材
出典:spfoto / GettyImages
参考文献とデータ出典
[1] こども家庭庁「こども未来戦略」。
https://www.cfa.go.jp/resources/strategy
[2] World Bank, World Development Indicators。合計特殊出生率、1人当たりGNI、総人口。図1・2は2026年9月23日取得の国別データから作成。
https://data.worldbank.org/indicator/SP.DYN.TFRT.IN
https://data.worldbank.org/indicator/NY.GNP.PCAP.CD
https://data.worldbank.org/indicator/SP.POP.TOTL
[3] INSEE(2026)La situation démographique en 2025 et en séries longues, NAIS3。フランス本土の系列。
https://www.insee.fr/fr/statistiques/8999017?sommaire=8999231
[4] Statistics Sweden(SCB)。1970~2024年は年齢別出生率表、2025年は人口統計総覧(1.42)。
https://www.scb.se/pressmeddelande/fortsatt-lagt-barnafodande/
[5] 厚生労働省「令和7(2025)年人口動態統計月報年計(概数)の概況」第2表。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai25/index.html
[6] 政策変更年の資料。Duvander and Håkansson(2025)“Parental leave in Sweden”; Hoem(1993)“Public Policy as the Fuel of Fertility,” Acta Sociologica, 36(1), 19–31; DREESの育児親手当および2004年家族給付に関する資料。
https://pub.norden.org/temanord2025-547/parental-leave-in-sweden-.html
https://doi.org/10.1177/000169939303600102
[7] Sobotka, T., A. Matysiak and Z. Brzozowska(2019、2020年修正)Policy responses to low fertility: How effective are they? UNFPA Working Paper No. 1。特にp.43(Box 3)、pp.72–73(Box 9)。
[8] Bergsvik, J., A. Fauske and R. K. Hart(2021)“Can Policies Stall the Fertility Fall? A Systematic Review of the (Quasi-) Experimental Literature.” Population and Development Review, 47(4), 913–964。
https://doi.org/10.1111/padr.12431
[9] Geruso, M. and D. Spears(2026)“The Likelihood of Persistently Low Global Fertility.” Journal of Economic Perspectives, 40(1), 3–26。特にpp.7–9、19–20。
https://www.aeaweb.org/articles?id=10.1257/jep.20251463
[10] 関連する論説:Pielke Jr., R.(2026年2月23日)“Does Peak Population Mean Peak Energy?” The Honest Broker。末尾のFurther Readingで文献[9]を紹介。
https://rogerpielkejr.substack.com/p/does-peak-population-mean-peak-energy
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この記事を書いた人
杉山大志キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
【学歴】
1991年 東京大学 理学部物理学科卒業
1993年 東京大学大学院 工学研究科物理工学修士了
【職歴】
1993年~2017年 財団法人 電力中央研究所
1995年~1997年 国際応用システム解析研究所(IIASA)研究員
2017年~2018年 一般財団法人キヤノングローバル戦略研究所 上席研究員
2019年~ 一般財団法人キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
2019年~ 慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 特任教授

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