食料品1%減税はなぜ小さな店を追い込むのか 参政党・安藤裕氏に聞く
【本稿のポイント】
・食料品1%減税は、外食店にとっては仕入れの控除が減るため実質的な増税になる、と安藤裕氏は指摘する。
・安藤氏の試算では、正直に値下げした持ち帰りの食品店は、還付金を受け取る前に資金が尽きかねない。
・値下げできない小さな店ほど「便乗値上げ」と見られる構図が生まれる、と安藤氏は警鐘を鳴らす。
食料品の消費税を1%に下げる政府の方針は、飲食店や小さな食品店をかえって追い込む――。参政党幹事長で税理士の安藤裕参議院議員は、2026年9月16日配信のJapan In-depthチャンネルで、「愚策中の愚策」と即答した。減税がなぜ現場の重荷になるのか。安藤氏の試算から読み解く。
本編動画:https://www.youtube.com/live/WB09gSscvhc
食料品1%減税とはどんな制度なのか?
2027年(令和9年)4月1日から2年間、軽減税率の対象となっている飲食料品の消費税率を、8%から1%(国・地方合計)に下げる制度だ。政府は2026年8月5日、「給付付き税額控除」の制度導入の基本方針を閣議決定し、この引き下げを盛り込んだ。
国税庁の「飲食料品に係る2年間の消費税率引下げに関するQ&A」によると、適用は2029年(令和11年)3月31日まで。外食やケータリングは対象外で税率10%のまま、テイクアウトや出前は1%になる。高市早苗首相は7月30日の会見で、ゼロではなく1%にした理由を「事業者のシステム改修の期間を短縮できる」ためと説明している。
税率を下げれば、食料品の値段は下がるのか?
安藤氏は、下がらないとみる。価格は税率ではなく、市場で決まるからだ。
政府側の見方は異なる。片山さつき財務相は8月5日の記者会見で、「8が1になった部分をきれいに変えるかどうかについては、それを我々は強制する法律をつくるつもりはありません」と述べた。一方で、多くの飲食料品が外税方式で表示されていることを挙げ、税率が8%から1%に変われば「そこで下がってくる確率がかなり高いと思います」との見通しを示した。値下げは義務づけないが、価格は下がるはずだという立場だ。
これに対し、安藤氏が挙げるのはコメの例だ。「お米の値段を見れば分かりやすい。去年はめちゃめちゃ上がったが、今年は暴落している」(4分19秒〜)。税率は変わっていないのに、である。電気・ガスや原材料の値上がり、円安も重なる。小さな店で自分で値段を決めて商売をしていれば、消費税を変えても値段は下げられないと分かるはずだ、と安藤氏は言う。適正な利益を乗せた価格に消費税がきちんと上乗せされているという思い込みを、安藤氏は「幻想」と呼ぶ。本当にそうなら、日本に赤字企業も低賃金の労働者も存在しないはずだ、というのである(5分19秒〜)。
生産者の側から見ても同じだ。安藤氏は2025年農林業センサスの数字をもとに、農家の8割は免税事業者にあたると推計する。免税事業者とは、基準期間の課税売上高が1,000万円以下で、消費税の納税義務が免除される事業者のことだ。「もともと消費税のやり取りをしていないのだから、1%にしたからといって値下げしなければならない義理はどこにもない」(20分14秒〜)。
安藤氏のモデルでは、売上864万円、利益215万円の兼業農家が7%値下げすると、利益は159万円に減る。値下げさせるなら補助金で穴埋めするしかないが、それなら「1%とは関係なく、今からでも農家に補助金を出せば食料品の価格は下がる」(22分33秒〜)というのが安藤氏の見方だ。
なぜ「減税」なのに、飲食店は増税になるのか?
店で出す料理の税率は10%のまま、仕入れる食材の税率だけが1%に下がり、差し引ける税額が減るからだ。
消費税の納税額は、売上にかかる税から仕入れにかかる税を差し引いて計算する。飲食店はこれまで食材の仕入れで8%分を差し引けたが、1%分しか引けなくなる。「食材の仕入れが7%きれいに値下がりすれば、その増税分はカバーできる。だが値下がりしなかったら、増税分は自分でかぶらなければならない」(28分43秒〜)。
さらに、店内で食べれば10%、持ち帰れば1%と、9ポイントの差がつく。資金力のある大手は、これを好機とみて持ち帰りの商品を充実させるかもしれない。だが安藤氏は言う。「街のラーメン屋さんは、持ち帰りなんかできない」(30分30秒〜)。たった2年のために飲食店に新しいメニューの開発を強いるのか。その問いかけは、ぜひ動画で聞いてほしい。
正直に値下げした店は、どうなるのか?
安藤氏の試算では、決算の時点で赤字に落ち込み、還付金が入る前に資金が尽きるおそれがある。
モデルは、弁当屋やケーキ屋、パン屋のように持ち帰りの食品を売る店だ。売上は1億800万円、消費税を納めると利益がゼロになる、ぎりぎりの経営を想定する。税率が1%になり、この店が正直に値下げすると、売上は1億100万円に減る。食材の仕入れがきれいに7%下がったとしても、消費税を納める前の段階で235万円の赤字になる。
理屈の上では、仕入れにかかった税の方が多くなるので、差額235万円の還付を受ければ収支はゼロに戻る。国税庁のQ&Aも、仕入れの税額が売上の税額を上回れば還付を受けられると説明している。だが安藤氏は、問題は時間差だと指摘する。「赤字ということは、このお店はもうその時点でお金がない。給料の支払いもできなければ、仕入れもできない」(35分52秒〜)。還付を待つ前に店が倒れる、というのだ。
値下げできない店は、なぜ悪者にされるのか?
資金力のある店だけが値下げに踏み切ることができ、値下げできない小さな店は「便乗値上げ」と見られてしまうからだ。
還付が後から確実に入るなら、体力のある店は先に値下げできる。すると「正直なお店」と評価される。一方、値下げすれば倒れる小さな店は、価格を据え置くしかない。安藤氏はこう表現した。「資金力のない小さなお店は値下げができないから、『お前は便乗値上げをしている汚いお店だ』、となる」(36分46秒〜)。
資金繰りのために融資を受けても、借りたお金はいずれ返さなければならない、と安藤氏は言う。そのうえで「邪魔をしているわけではない。これは絶対に失敗して経済が混乱するから、やめておいた方がいいと言っている」(38分43秒〜)と、高市内閣に再考を求めた。
本稿で扱ったのは配信の一部だ。中盤では、消費税を廃止しても「値段は下げないでください」という参政党の対案の中身や、財務省がこの政策をどう見ていたかという安藤氏の見立てについて、自身の資料を示しながら踏み込んで語っている。税理士ならではの試算の続きは、ぜひ動画で確かめてほしい。
動画:https://www.youtube.com/live/WB09gSscvhc
◆番組で語られたそのほかの論点
・消費税を本当に払っている人(10分34秒〜)
・廃止しても値段を下げない、参政党の対案(12分07秒〜)
・インボイス不要論(17分28秒〜)
・還付申告と「税理士難民」(24分07秒〜)
・付加価値税の意外な出自(43分28秒〜)
・財務省をめぐる安藤氏の見立て(44分39秒〜)
・参政党と他の野党との距離(57分30秒〜)
・統一地方選に向けた擁立目標(59分22秒〜)
【よくある質問(FAQ)】
Q.軽減税率制度とは、どんな制度ですか?
A.2019年(令和元年)10月1日、消費税率が10%に引き上げられたのと同時に始まった制度で、酒類と外食等を除く飲食料品と、週2回以上発行される新聞の定期購読に8%の税率を適用しています(国税庁 No.6102 消費税の軽減税率制度)。
Q.簡易課税制度を選んでいる事業者は、1%への引き下げでどうなりますか?
A.簡易課税制度は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者が届出によって選べる制度で、業種ごとの「みなし仕入率」を使って納税額を計算します(国税庁 No.6505 簡易課税制度)。国税庁のQ&Aによると、1%の対象となる飲食料品の売上については、その売上税額と同額の仕入税額を計上することとされています。
Q.減税が始まったら、値札はすぐに1%の税込価格に変わりますか?
A.国税庁のQ&Aによると、総額表示義務に直ちに対応することが困難な事情がある場合には、誤認防止措置を講じている場合に限り、税率8%による税込価格を表示することができるとされています。
関連リンク
トップ写真:参政党安藤裕幹事長 2026年9月16日
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。












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