中国の反日教育の実態 その4 虚偽の上の反日、抗日
執筆者:古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」1105回
【本稿のポイント】
・読本「南京大虐殺」の記述に添えられた日本刀を掲げる写真は、アイリス・チャン著『レイプ・オブ・南京』やニューズウィーク誌にも掲載され論議を呼んだもので、日本側研究者からは人物の足の位置や服装に関する疑義が指摘されている。
・読本の冒頭メッセージは「祖国を熱愛」することを教育の目的として掲げつつ、それを中国共産党の指導への熱愛と一体のものとして説いている。
・読本第4章では日中戦争の主役を一貫して共産党軍として描き、実際に日本軍と戦った主力であった国民党軍の役割をほぼ無視している。
中国の小学生向け読本「小学生が知らねばならない中国の10の話」に掲載された「南京大虐殺」関連の写真には、真正性を疑う指摘が日本側の研究者から出されている。さらに読本は、愛国心を共産党への忠誠と結びつけ、日中戦争の主役を共産党軍として描くなど、歴史の歪曲を伴う構造を持つ。国際ジャーナリストで麗澤大学特別教授の古森義久氏が、反日教育の実態を検証する連載第4回。
◆疑義だらけの「南京大虐殺」写真
中国の小学校高学年用の読本「小学生が知らねばならない中国の10の話」の紹介を続けよう。この教科書のなかに中国側がまったく一方的に断定する「南京大虐殺」の主張がふんだんにあることを伝えてきた。その主張は客観性に欠け、疑義も多々あるのだが、そのままに小学4年生の頭に叩きこまれるのである。
この読本の写真掲載にも問題がある。「南京大虐殺」の記述の2ページ目には日本軍人が後ろ手に縛られた中国人の首を切ろうとして日本刀を振り上げている写真が載っている。その写真には「日本軍が中国人を虐殺しようとする」という説明がつけられていた。
この写真は1997年にアメリカで出版された中国系アメリカ人女性のアイリス・チャン著の書「レイプ・オブ・南京」にも掲載され、論議を呼んだ。さらに同署の内容を報道したアメリカの大手雑誌ニューズウィーク誌にも使われた写真である。この写真はもちろん中国政府による使用が最初だったが、日本側研究者からは「日本刀を構えた人物の足の位置が力学上の原理とは逆になっている」という指摘が出た。「日本軍人とされるその人物が着たソデなしのチョッキは当時、日本軍では一切、使われていなかった」という指摘もあった。そんな疑問のある問題写真だったのだ。
写真といえば、この読本には巻頭に合計16ページにもわたるグラビア部分があり、そこにはカラー写真も含めて合計74枚の写真が掲載されていた。そのうちの4枚が南京関連だった。さらにそのなかの1枚が読本の本文のなかに掲載された前述の写真だった。他の1枚が「南京大虐殺の一幕」というキャプションだった。これもまた日本側で疑義が提起された「中国人生き埋め」の写真だった。要するに掲載写真は疑問だらけなのである。
しかし「南京大虐殺」の教えはこの国語や社会の教科書ともいえるこの読本ではまだまだ序の口だった。同じ小学校レベルでも歴史の教科書でさらに詳しく南京を教えていた。さらに中学でも同じテーマをさらに念を入れておしえていくのである。
◆「祖国を熱愛する」ことと共産党への忠誠
一方、いま紹介している「小学生が知らねばならない中国の10の話」は中国での歴史だけでなく、教育そのもののあり方についても、おもしろい特徴を示していた。読本の冒頭ではその教科書を作った編著者から読者である小学4年生以上の児童たちへの直接のメッセージが記されていた。この読本を学ぶことの意義の説明だった。そこには中国の教育の基本姿勢があからさまに示されていた。
「祖国はわたしたちを母親のように育ててくれます。わたしたちは自分の祖国を熱愛します。でもみなさんは自分の祖国のことをよく理解していますか。祖国が5千年の輝かしい文化を持ち、領土が広く、資源が豊かであることなどを、この本は小学生がその祖国について知っておくべきことを教えます」
教育の目的の基礎はあくまで明らかに愛国心や自国へのプライドを高めることなのである。そのためにいろいろ学ぶうえでの重要な諸点が説かれていた。
「わたしたちが決して忘れてならないのは、中国共産党の指導の下に人民は土地革命戦争、抗日戦争、解放闘争を経て、新中国を建設できた、ということです。さらに忘れてならないのは、共産党の指導の下にわたしたちは社会主義建設と改革開放を進め、光り輝く成果をおさめた、ということです」
「わたしたちは祖国についてよく学べば、これまでにもまして祖国を熱愛できるようになります。中国共産党をさらに熱愛し、社会主義をもっと熱愛できるようになり、中国民族を栄えさせることへの重い責任を理解するようにもなります」
こんな記述の信の意味は、いまの中国は共産党によってのみ築かれ、栄えてきたのだから愛国心とは共産党を愛することになる、という大前提である。愛国心と共産党への忠誠は分けがたい単一のパッケージなのである。学校教育もこの連結を子供たちの頭に早い段階から刷り込むことが主眼だといえよう。
◆「抗日」という接着剤――歴史から消された国民党の役割
このパッケージの接着剤となるのが「抗日」、つまり反日の教えなのである。この読本でも抗日の多くが「共産党がなければ、新中国もありません」という題の第4章におさめられているのがその例証だろう。実際の日中戦争では日本軍と戦った主力は一貫して国民党軍だったのに、第4章では「蒋介石を追いつめ、日本と戦う」という項目などで共産党の軍隊こそが主役だったように記される。
要するにいまの中国の教科書では1937年から1945年までの日本と中国との全面戦争では中国側の主役は一貫して共産党軍だとされ、実際の主役だった国民党政権の役割はほぼ無視なのである。この点や実際の歴史をみれば、すぐに虚偽であり、誇張である。重大な歴史の歪曲であることがわかる。中国共産党政権の歴史教育での反日は、そんな虚偽の上に築かれてきたともいえるのだ。
(その5につづく。その1はこちら その2はこちら その3はこちら)
【よくある質問(FAQ)】
Q1:「レイプ・オブ・南京」とはどのような書籍ですか?
A:1997年にアメリカで出版された、中国系アメリカ人女性アイリス・チャンによる著書です。南京事件を扱った本で、記事で紹介されている日本刀を掲げる写真もこの書籍に掲載され、論議を呼びました。
Q2:写真の真正性についてどのような疑義が指摘されていますか?
A:日本刀を構えた人物の足の位置が力学上の原理と逆になっていることや、その人物が着ているソデなしのチョッキが当時の日本軍では使われていなかったものである、といった点が日本側研究者から指摘されています。
Q3:国民党軍とはどのような組織ですか?
A:蒋介石が率いた中華民国政府の軍隊です。記事によれば、実際の日中戦争で日本軍と戦った主力は一貫してこの国民党軍だったとされています。
Q4:「抗日戦争」とはどのような戦争を指しますか?
A:1937年から1945年まで行われた日本と中国との全面戦争を指す中国側の呼称です。記事では、この戦争における中国側の主役が実際には国民党軍であったにもかかわらず、読本では共産党軍が主役として描かれている点が指摘されています。
(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)
トップ写真:Chinese Prisoners Being Buried Alive
出典:Bettmann / 寄稿者 / GettyImages
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

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