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.政治  投稿日:2026/6/25

森雅子議員が問う、検事正事件と第三者委員会 


安倍宏行(Japan In-depth 編集長・ジャーナリスト)

【本稿のポイント】

  • 元大阪地検検事正による部下女性検事への準強制性交事件をめぐり、森雅子参院議員は「検察から独立した第三者委員会の設置を強く求める会」会長として、刑事裁判とは別に検察組織の検証を求めている。
  • 森氏の立論の核心は「刑事責任と行政監督は別」という点にある。上司・部下の地位関係下での性的行為は、有罪・無罪以前に国家公務員法や検察の倫理に反する行政上のルール違反だと指摘する。
  • 検察側は「公判中」「守秘義務」を理由に慎重だが、防衛省・法務省には刑事手続と並行して第三者委員会・特別防衛監察を実施した前例があり、森氏は「拒む理由の方が、ほとんどない」と訴える。

 

検察トップの一人だった元検事正が、部下の女性検事への性加害を問われている。刑事裁判はなお続くが、その傍らで「検察という組織そのものを検証すべきだ」という声が国会から上がっている。元法務大臣の森雅子参院議員だ。森氏が求めるのは、刑事責任とは切り離した「行政監督」としての第三者委員会の設置。なぜ刑事裁判の決着を待たずに組織検証が必要なのか、なぜ「内部」ではなく「第三者」でなければならないのか。森氏に聞いた。(Japan In-Depth編集部)

 

👉 対談の全編動画はこちら:https://www.youtube.com/live/flTtJkVSrQY?si=8pwpTdNuwMJC8VwC

 

元大阪地検検事正の北川健太郎被告は、部下の女性検事への準強制性交罪に問われ、2024年7月に起訴された。北川被告は同年10月の初公判で起訴内容を認めたものの、その後一転して無罪を主張している。もっとも、森氏が問題にするのは、この刑事裁判の行方そのものではない。森氏が見すえているのは、加害を問われた側と、被害を訴えた側の、あまりに対照的な「その後」である。

森氏によれば、検事正の側は、処分を受けないまま退職金を得て退職した。一方、被害を訴えて告発した女性検事は、職を追われた。同僚による誹謗中傷など、二次被害にもさらされたという。森氏はその辞職を「無念の辞職」「泣きながらの辞職」だったと語る。

「他人に甘くて自分に厳しい組織。とんでもないですね」。森氏は検察という組織のありようを、そう評する。

森氏が会長を務めるのは「検察から独立した第三者委員会の設置を強く求める会」だ。では、刑事裁判が進行するこの局面で、なぜあえて第三者委員会なのか。

森氏の説明の核心は、刑事責任と行政監督はまったく別の問題だ、という点にある。性加害が有罪か無罪かは「司法の世界ですから、司法の独立。これを守らなきゃいけないので、そこには私たち国会議員は立ち入らないんです」。刑事裁判には「タッチできないし、タッチしない」と森氏は明言する。

 

図)刑事裁判と行政監督

ⓒJapan In-depth編集部

 

問題は、その隣にある行政監督だ。「検察庁というのは行政機関です。法務省という行政機関の一部です。だから法務大臣が上司なのです」。検察が適正に機能しているかは法務大臣が監督し、さらに立法府の国会議員もチェックする。「三権、互いにチェックし合う、抑制と均衡で成り立ってますから」。刑事裁判の行方とは切り離して、行政組織としての検証が要る ── これが森氏の立論である。

しかも、と森氏は続ける。上司と部下という地位関係のもとでの性的行為は、刑事上の有罪・無罪以前に、行政上のルールに反する。国家公務員法、人事院規則、検察の倫理 ──「同意があったとしてもですよ。これはもう行政上……ルール違反なんですね」「アウトなんですよ」。だからこそ刑事の結論を待つまでもなく、組織のガバナンスを検証する必要がある、という。

ではなぜ「第三者」でなければならないのか。森氏は、内部調査では膿は出せないと言い切る。委員が組織内部の職員であれば本音は語れない。「自分の昇進がかかってますからね」。左遷や不利益な人事への懸念がある限り、調査は形だけに終わる、というわけだ。

そして森氏が繰り返し強調するのが、前例の存在である。「どこもみんな作ってるんですよ」── フジテレビ、ジャニーズ、防衛省、自治体のハラスメント案件。いずれも第三者委員会が設置されてきた。「法務省・検察だけが」設置しない、というのが森氏の問題意識だ。

この主張には、事実の裏づけがある。防衛省は、元自衛官の性被害申告を機に、2022年9月から全自衛隊を対象とする特別防衛監察を実施し、翌年8月に結果を公表した。被害申告は1325件に上った。加害者の刑事手続と並行して、組織としての監察が走ったのである。

法務省自身にも前例がある。名古屋刑務所で刑務官22人が受刑者3人に暴行・不適正処遇を繰り返した事案で、法務省は2022年12月に第三者委員会を設置。2023年6月、当時の齋藤健法相に再発防止の提言書が提出された。刑事手続と並行して、組織の検証が進められた格好だ。森氏はこの例を念頭に、刑務所の独居房の映像という「最もプライバシーが高い」情報まで第三者が確認し、それでも守秘は守られた、と指摘する。

これに対し検察側は、二つの理由で慎重姿勢を崩していない。公判中であること、そして被害者のプライバシー(守秘義務)である。

森氏はいずれにも反論する。公判中については、防衛省も法務省も、刑事手続と並行して組織の検証を行った前例がある。刑事裁判の確定を待っていては「最高裁まで争って、何年かかるかわからない」。それでは「みんな忘れちゃいますよ」。

守秘義務についての指摘は、さらに鋭い。密室で起きたことを知るのは、当事者と取り調べに当たった検察官だけのはずだ。にもかかわらず、その内容はすでに全国の検察に流れていた、と森氏は言う。「検察が一番、守秘義務違反してるでしょう」。守るべき側がすでに守れていない以上、それを拒否の理由にはできない、というわけだ。

結局のところ ── と森氏はまとめる。「拒む理由の方が、ほとんどないんですよ」。

刑事と行政、二つの監督をどう切り分けるか。この事件が突きつけているのは、起訴権限を独占する強大な権力組織に、自浄作用が働くのかという問いそのものである。

 

本稿で触れられなかった主な論点

・検察の権限の強大さと有罪率99.99%(37:16〜40:16)
森氏は、検察が起訴するかしないかを独占的に決める権限を握り、起訴されればほぼ確実に有罪となる日本の刑事司法の特異性に言及した。かつては治安の良さや検察の優秀さの証とされたこの数字が、いまや冤罪を生む構造でもあるのではないか、という問題提起である。

・16歳少女の事案と「人質司法」(41:30〜42:51、56:04〜58:21)
障害福祉事業所で働いていた当時16歳の少女が暴行容疑で逮捕・勾留され、接見禁止のなかで自白を迫られた末に不起訴となり、その後体調を崩して亡くなった事案。森氏自身、再審法改正の国会審議のさなかにこの問題に言及し、悔しさをにじませた。

・再審法(刑事訴訟法)改正の争点(46:37〜51:19)
折しも国会で審議が進む再審法改正をめぐり、検察官による不服申し立て(抗告)をどこまで制限するか、証拠開示をどう進めるか、といった論点が議論されている。森氏は、改正案に残された例外規定の曖昧さや、証拠の目的外使用を禁じることが報道の萎縮を招く懸念を指摘した。

👉 対談の全編動画はこちら:https://www.youtube.com/live/flTtJkVSrQY?si=8pwpTdNuwMJC8VwC

 

よくある質問(FAQ)

  1. 準強制性交罪とはどのような罪ですか。
    A. 飲酒や睡眠などで抵抗できない状態(抗拒不能)を利用して性交等を行った場合に問われる罪でした。2023年の刑法改正により、現在は「不同意性交等罪」に統合・改称されています。本件は改正前の事案として準強制性交罪で起訴されています。
  2. 第三者委員会とは何ですか。
    A. 不祥事などが起きた組織が、外部の弁護士や有識者を委員に迎えて事実関係や原因を調査し、再発防止策を提言する仕組みです。日本弁護士連合会は「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」を公表しており、組織から独立した立場で調査することが要件とされています。
  3. 検察庁は司法機関ではなく行政機関なのですか。
    A. 検察庁は法務省に置かれる行政機関です。検察官は刑事事件の捜査・起訴を担いますが、組織としては行政府に属し、法務大臣の指揮監督を受けます(検察庁法)。裁判を行う裁判所(司法機関)とは区別されます。
  4. 特別防衛監察とは何ですか。
    A. 防衛省・自衛隊の業務の適正性を点検するため、防衛大臣の指示に基づき防衛監察本部が実施する監察です。2022年、元自衛官の性被害申告を機に全自衛隊を対象とした特別防衛監察が行われ、翌2023年に結果が公表されました。

 

関連リンク

 

写真)元法務大臣 森まさこ参議院議員

 

 




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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