米イラン停戦と日本のエネルギー危機──鈴木英敬氏が語る打開策
安倍宏行(Japan In-depth 編集長・ジャーナリスト)
【本稿のポイント】
・米イランがホルムズ開放と高濃縮ウラン放棄で原則合意。ただしトランプ氏は「交渉は完了せず」海上封鎖継続。
・中東依存94%、ナフサ国家備蓄なし、医療用グローブやエンジンオイル不足が現場で深刻化。
・鈴木英敬氏が「自分の最大テーマ」と明言する石油調達多角化への政策提言。
イラン情勢は2026年5月24日、大きな転換点を迎えた。ホルムズ海峡の開放と高濃縮ウラン放棄を巡って米イランが原則合意し、60日間の停戦延長で大筋一致した。一方、トランプ大統領は「交渉は完了せず」とSNSに投稿し、海上封鎖の継続を表明している。
Japan In-depthチャンネルでは、自民党・鈴木英敬衆議院議員(AZEC議員連盟事務局長、政調会長特別補佐、前三重県知事)を迎え、イラン危機の現状認識から日本のエネルギー安全保障の課題、そして「中国抜き」のパワー・アジア構想まで深く議論した。本記事では、米イラン停戦交渉の現在地と、日本国民の生活に届き始めたサプライチェーン危機を、鈴木氏の発言をもとに整理する。(Japan In-depth編集部)
➡️対談の全編動画はこちら:https://www.youtube.com/watch?v=J4cLDsfgVtk
◆米イラン交渉はなぜ長引いているのか
トランプ大統領は当初、2週間程度で決着すると見ていた。しかし戦闘開始から3カ月、交渉は今も続いている。
「イランはドローンをうまく使って攻撃を仕掛けている。革命防衛隊を始めとして、ハメネイ師が殺害されたこともあって、一体感を持って徹底抗戦という感じだ」と鈴木氏は指摘する。
それでも、5月24日に向けては「比較的、海峡の解放と核問題の双方がテーブルに上がっている」点で、これまでよりも合意に近づいているとの認識を示した。報道ベースではあるものの、イラン側も米国側も双方の議題を認めていることが、今までとの違いだという。
実際、トランプ氏は5月23日に「交渉ほぼ完了」とSNSに投稿し、24日には合意覚書について「大部分の交渉がまとまった」と表明。その一方で「合意を急がない」とも投稿し、海上封鎖を解除する条件として「合意が成立し、認証され、署名されるまで」と慎重姿勢を崩していない。
米政権高官によれば、イランは海上封鎖解除と引き換えに、ホルムズ海峡を開放し高濃縮ウランを処分することに「原則として」合意。最高指導者モジタバ・ハメネイ師も合意の大枠を承認したとされる。ただし、ウラン処分の方法、資産凍結解除、イスラエル・ヒズボラ問題など、具体的な詰めは残っている。
◆ナフサ不足はなぜ国民生活を直撃したのか
イラン情勢の影響は、すでに日本国民の手元に届いている。カルビーは製品パッケージを白黒化し、カゴメはケチャップの仕様変更を発表した。
「カルビーやケチャップは、今の必要量は確保されているが、今後いつ入ってくるか分からないから先手で対応している。供給不安が払拭されない状況だ」と鈴木氏は説明する。
問題の核心は、ナフサが輸入の74%を中東に依存し、しかも民間在庫が約20日分のみで国家備蓄が存在しないことにある。鈴木氏は、ナフサの国家備蓄が1993年に廃止された経緯を踏まえ、こう問題提起する。
「1993年に民間負担が大きいということでナフサの国家備蓄をやめたが、こういう事態が起こりうると当時は想像が及んでいなかった。今、政治がやるべきは、ナフサ備蓄を復活させるのか、別の供給確保の仕組みを作るのか、決着をつけることだ。次の世代に同じ不安をさせないのが政治の責務だ」
◆ナフサ以外で何が不足しているのか
鈴木氏が地元・三重で聞いた現場の声は、ナフサ以外にも広がる。
塗料は地元から早期に不安の声が上がり、現在実態調査が進む。医療用グローブは備蓄放出で歯科医院などは改善したものの、ホテル旅館の調理スタッフ、介護施設に給食を配送する事業者、肉屋などの狭い業種では依然として不足している。
エンジンオイルもとくに深刻だ。自動車整備業界、運送会社、特にトラック運送業の3次・4次下請けが苦しんでいる。
「下請けの方々は『元請けから言われた仕事はやりたいが、オイルがないとトラックの安全性に問題があり、仕事を受けられない』と。Amazonで3倍の価格のエンジンオイルが売られていて、それを買わざるを得ない不安を抱えている」(鈴木氏)
下請法の観点でも問題があり、Amazonでの転売疑惑についても鈴木氏は経産省に調査を要請したという。コロナ禍のアルコール消毒液の高騰を思わせる構図だ。
◆石油調達の多角化で何ができるのか
鈴木氏が「自分の中の最大のテーマ」と明言したのが、石油調達の多角化である。
歴史を振り返ると、第一次オイルショック時の中東依存度は85%。その後、インドネシアなど多様な調達先を開拓し、1987年には67%まで下がった。しかし石油業法廃止により調達が完全に民間任せとなり、結果として2024年には94%まで上昇している。
「民間は合理的に動くから、中東は資源が枯渇しない、ペルシャ湾は大型タンカーが入る、掘るのが安いとなる。すると日本の精油所は中東のオイルに合うものしか作らなくなる」と鈴木氏は指摘する。
これに対し、鈴木氏は3つの政策パッケージを提案する。
第一に、精油所の設備更新支援。中東以外のオイルにも対応できる設備への投資を国が支援する法整備が必要だ。第二に、長期契約への政府関与。現在の調達はスポット市場価格を目安にしているため割高で、電気代に跳ね返る。政府がコミットして長期契約を担保する仕組みが要る。第三に、ナフサ備蓄を含む制度設計の見直しである。
さらに鈴木氏は危機感を込めて、韓国の状況を引き合いに出した。韓国はこの10年で中東依存度を85%から68%まで下げ、自国需要の倍規模の精製能力を確保し、輸出攻勢をかけている。日本でコストコなどの大手流通で売られている安価なガソリンは、実は韓国製である。
「韓国は今、輸出量も絞り始めている。日本も精油所を韓国のように大規模化し、自分たちの国でルートの多様化と精製能力を持たねばならない節目に来ている」(鈴木氏)
◆オイルショック50年で何が変わったのか
1973年の第一次オイルショックから50年。当時と今では危機の構造が決定的に異なる。
「50年前のオイルショックとの違いは、複数のあらゆる分野でサプライチェーンが繋がりまくっていることだ。エネルギー調達も含めて、日本だけではなく、みんなで答えを出していく方向に持っていかないといけない」と鈴木氏は強調する。
つまり、原油輸入の確保だけでなく、その先のナフサ、エチレン、プラスチック包装、医療用品、エンジンオイルに至るまで、複数国に絡み合った川中・川下のサプライチェーン全体を地域全体で守る必要があるということだ。
それこそが、高市総理が4月15日のAZEC+オンライン首脳会合で提唱した「パワー・アジア」構想の本質である。約100億ドル(ASEAN原油1年分相当)の金融協力を軸に、緊急対応(石油製品調達・サプライチェーン維持)と構造的対応(備蓄・重要鉱物・エネ源多様化・産業高度化)の2本柱で、アジア16カ国とのエネルギー安全保障の枠組みを構築する。
そして5月に入り、日越(5月2日「初案件」としてニソン製油所への支援)、日豪(5月4日)、日韓(5月19日「原油・石油製品・LNGの相互融通」)と、3つの首脳外交を通じて構想は急速に具体化が進んでいる。
◆本編動画で語られた他の主な論点
本記事では、米イラン停戦交渉とサプライチェーン危機の現在地、そして鈴木氏の石油調達多角化政策を中心に整理した。動画では、他にも以下のテーマを詳細に議論している。
・マルコス会談で議論された4つの論点(18分〜23分):共同備蓄体制、SMR(次世代型革新炉)導入、化石燃料からの現実的移行、パワー・アジア構想の4論点を、ガリン・エネルギー大臣との会談内容とともに解説
・SMR(次世代型革新炉)に対する日本の戦略(26分〜33分):フィリピン5電力会社のコンソーシアム、米国80兆円投資への日本の貢献、原子力規制委員会の「規制のための規制」批判、中小電力会社の経営問題
・フュージョン(核融合)への期待(33分〜35分):高市総理が命名した「フュージョン」、京都フュージョニアリング等の日本発スタートアップ、エネルギーシステム輸出国への転換ビジョン
・日本のエネルギー外交の3つの未来像(54分〜57分):①AZEC・パワー・アジアの進化(中国抜きの枠組み)、②ASEAN+EU+日本(CPTPP活用)、③脱ホルムズ(中東・中央アジア・豪州への多角化)
「ピンチをチャンスに変える」エネルギー外交の全容、そして経産省出身・前三重県知事である鈴木氏が描く日本のエネルギーシステム輸出国への転換ビジョンを、ぜひ動画でご覧いただきたい。
動画はこちら:https://www.youtube.com/watch?v=J4cLDsfgVtk
■よくある質問(FAQ)
Q. ナフサとは何か。なぜ国家備蓄がないのか。
A. ナフサは原油を蒸留して得られる留分で、エチレンやプロピレンなど基礎化学品の原料となる。プラスチック包装、塗料、合成繊維、医療用手袋、薬包装など、身近な製品の出発点である。日本では1993年に民間負担軽減を理由に国家備蓄が廃止され、現在は民間在庫の約20日分のみ。原油の国家備蓄が約250日分あるのとは対照的な状況だ。
Q. ホルムズ海峡を封鎖されると日本に何が起きるか。
A. 日本の輸入ナフサの74%が中東依存(2024年)で、ホルムズ海峡封鎖は原油・LNGの供給ルートを直撃する。実際に2026年3月のナフサ価格は1トン600ドル台から1,100ドル前後へ2週間で約2倍に高騰、中東輸入量は前年比40%減となった。包装材・塗料・医療用グローブ・エンジンオイルなど製造業4.7万社に影響が及ぶ。
Q. AZEC(アジア・ゼロエミッション共同体)とは何か。
A. 2023年に岸田文雄総理(当時)が提唱した、日本とASEAN諸国+豪州を中心とする多国間枠組み。「エネルギー安全保障」「経済成長」「脱炭素化」の3つの同時達成を目指す。岸田・石破・高市の3代の総理にわたって継続されており、2026年4月15日のAZEC+オンライン首脳会合では、新たに「経済・エネルギー強靱化の視点を加えて進化させていく」方向性が打ち出され、パワー・アジア構想が立ち上がった。鈴木英敬議員はAZEC議員連盟事務局長を務める。
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・米イラン停戦難航とQuad再結束、プーチン訪中で露わになった中露非対称性
■関連リンク
・中東情勢を踏まえた燃料油・石油製品の安定供給確保及び重要物資の安定的な供給確保の対応状況(2026年5月21日 経済産業省)
・中東情勢を踏まえた燃料油・石油製品の安定供給確保及び重要物資の安定的な供給確保の対応状況(2026年4月30日 経済産業省)
・エネルギー強靱化に関するAZEC+オンライン首脳会合の開催(2026年4月15日 外務省)
・エネルギー強靱化に関するAZEC+オンライン首脳会合 議長声明仮訳(2026年4月15日 外務省)
・「アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ」に基づく現地企業への金融面での協力等について(2026年4月21日 経済産業省)
(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)
トップ写真:自民党鈴木英敬衆議院議員©Japan In-depth編集部
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。












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