無料会員募集中
.国際  投稿日:2026/7/8

米国独立250周年の今、世界はどこへ向かうのか ──米国内の変化と中南米・欧州・宗教界の動揺を読む


執筆:宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問) 

          宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2026#27

                     2026年7月6-12日

 

【本稿のポイント】 

・今週の国際情勢は中東に限らず、米国内政の変容や中南米、欧州、宗教界など多方面で重要な動きが相次いでおり、「ツッコミどころ」に満ちている。

・とりわけ米国では、建国250周年を迎える中で、かつて存在した「多様なアメリカの共存」という感覚が失われ、社会の分断と極端化が一層深まっている。

・中南米の政治動向やBrexit後の欧州、バチカンの異例対応など、各地域の変化は今後の国際秩序にも影響を及ぼし得る重要な兆候を示している。

 

米国は独立250周年を迎えたが、半世紀前の建国200周年当時と比べ、社会の分断ぶりは際立つ。他にもベネズエラの大地震、ペルー大統領選、高市首相のインド訪問、Brexit10周年、バチカンでの大量破門など、目まぐるしく回る世界情勢について、キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問の宮家邦彦氏が解説する。(Japan In-depth編集部) 

米国独立250周年の今、社会の分断はなぜ深まったのか? 

今週は「ツッコミ」どころ満載である。まずは、米国の独立記念日に合わせて(?)なのかもしれないが、イラン国内で故ハーメネイ最高指導者の葬儀がある。となると今回は意外に「停戦」が守られる可能性も高いので、イラン情勢に関する詳しい話は来週に回すこととし、今週は中東以外で気になったことを順不同で書いてみたいと思う。

第一は、米国内政。先週末の4th of Julyすなわち7月4日はアメリカ独立記念日にあたる。今年は独立250周年となるが、たまたま先週も筆者は、半世紀前と同様、米国内に滞在する機会があった。という訳で、ここでは、あくまで筆者の個人的感覚ではあるが、50年前と今の米国内の雰囲気の違いを断片的ながら描いてみよう。

1976年、筆者はミネソタ州のミネアポリス・セイントポール両市に跨るミネソタ州立大学の留学生だった。1976年は米国建国200周年(バイセンテニアル)ということで、米国社会がそれなりに結束していた頃だ。今から50年も前の話にはなるが、その頃の「アメリカ」は、随分、今とは雰囲気が違っていたように思う。どう形容すれば良いかは分からないが、誤解を恐れずに言えば、当時はまだ「古き良き」時代の米国の「記憶」が残っていたような気がするのだ。大学キャンパスは、良くも悪くも、リベラルな雰囲気に満ちてはいた。だが、それでも社会全体としては、新しい健全な常識と保守的な価値・風土がうまく共存していた、良き時代だったと思う。

勿論、当時から米国社会の分断は顕著だった。だが、それでも当時の米国人たちは、老いも若きも、男も女も、白人も非白人も、「それぞれの」建国200周年を祝っていた。ところが今はどうだ?あれから50年も経った訳だが、今申し上げたような「それぞれの、それぞれなりの、各種「アメリカ」の共存」という感覚は薄れてしまった。

どれもこれも、極端化し、両極化し、対立が深まり、社会の分裂・分断が広がった。この50年を振り返ると、建国200周年と250周年の違いに、今更ながら、驚きを禁じ得ない。ちなみに、1976年の200周年の際、東京の友人から手紙が届いた。当時はEメールなどなかったが、だからこそ逆に、今でも良く覚えているのだろう。

その友人は「今年のアメリカは建国200周年ということで、君のいるミネソタ大学でも、さぞかしお祝いムードが高まっていることでしょう」と書いてきた。これに対し筆者は「いや、それはそうなんだけど・・。実はこれ建国当時の東部13州だけの話で、今ミネアポリスで騒ぐのは建国200年「記念セール」だけなんだよ」と返事を認めた。

二百年前の1776年当時、ミネソタ州は「州」ですらなく、広い意味での西部開拓時代にあった。ミネソタの人々からすれば、200周年というのは東部州の記念日であって、自分たちはあまり関係がない、というか、少なくとも当事者意識が薄いのも当然だろう。このギャップは建国250周年の今も構造的に全く変わっていない。

各国の気になるニュース

おっと、米国の話ばかりになってしまった。これ以外で今週筆者が気になったニュースを幾つか取り上げよう。例えば、

  • ベネズエラの大地震は多くの犠牲者を出したようだが、同国市民は、年始から自国大統領が拉致連行された挙句、今度は自然災害という「踏んだり蹴ったり」である。この種の自然災害が中南米の内政を左右することも少なくないだけに、今後のベネズエラ情勢がとても気になる。

 

  • 近隣国のペルーではあの「日系フジモリ大統領」の娘「ケイコ・フジモリ」が大統領選挙で僅差ながら勝利を収めたようだが、父親と同じ轍を踏まないよう頑張ってほしいものだ。それにしても、中南米諸国の多くは、何だかんだ言いながら、民主的な選挙で政権が交代しているのだから、大したものではないか。

 

  • 先週は高市首相のインド訪問があった。米印関係が微妙になりつつある今、こうして日印関係が順調に発展していることは喜ばしい。ちなみに米軍関係では、これまで「インド太平洋軍」と呼ばれていた地域軍の名称を旧名の「太平洋軍」に戻したそうだ。だが、どう呼ばれようと、この地域軍は昔からインド洋を管轄していたのであり、任務や能力も基本的に変わらない。筆者には「再改名」の意味が全く分からない。

 

  • 先週は英国のEU離脱(Brexit)10周年だそうだ。振り返ってみれば、今も欧州諸国で吹き荒れている「民族主義的ポピュリズム(便宜的にこう呼ばせてもらう)」の始まりはBrexitだったのかもしれない。あの頃、「Brexitは間違いだ」と主張していた英国の識者たちは正しかったのだが、それがわかるのに10年を要したということか。

 

  • バチカンで「超保守・伝統主義者」の聖職者が多数破門されたそうだ。あのバチカンで「破門」とは穏やかでないが、現法王の不退転の決意が感じ取れる。この数百年ぶり(?)とも言われる厳しい措置がローマカトリックの将来にどのような影響を与えるのか、大いに気になるところだ。

 

欧米外交専門家が注目する今週の国際イベントとは? 

続いては、いつもなら吉岡明子主任研究員によるロシア関連コーナーだが、掲載再開は来週となる予定なので、今しばらくお待ち願いたい。次に、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

7月7日 火曜日 NATO首脳会議(トルコ、2日間)

 仏大統領、シリア訪問終了(2日間)

7月8日水曜日 インド首相、豪州訪問(3日間)

 カナダ首相、サウジアラビア訪問(3日間)

7月9日 木曜日 全イラン最高指導者の埋葬

 英労働党の党首選び始まる

最後はガザ・中東情勢だが、イラン問題は来週に回そう・・・。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

【よくある質問(FAQ)】

Q1. バイセンテニアル(Bicentennial)とは?  

A1.米国建国200周年を記念する年。1976年に全米で祝賀行事が行われた。

Q2. ポピュリズムとは?  

A2.既存エリートへの反発を背景に「民意」を強調する政治潮流。欧州で民族主義的形態が拡大。

Q3. Brexitとは?  

A3.英国のEU離脱。2016年国民投票で決定し、欧州政治に大きな影響を与えた。

Q4. 太平洋軍(Pacific Command)とは?  

A4.米軍の地域軍。名称変更はあったが、インド洋を含む広域を管轄する点は変わらない。

(本稿のポイント、リードの文責:Japan In-depth編集部) 

シリーズ紹介・バックナンバー

宮家邦彦の外交・安保カレンダー バックナンバーはこちら 

トップ写真:ニューヨーク市で開催された独立記念日の花火大会

出典:Photo by Roy Rochlin/Getty Images

 




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."