金正恩、9期2回党総会で日本を名指し批判
執筆者:朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
■本稿のポイント
・金正恩総書記は党総会で日本を「軍国主義大国」と批判し、核戦力強化を改めて表明した。
・この演説は、中朝会談の核心が台湾有事を巡る戦略的連携にあることを裏付けている。
・習近平訪朝を「朝ロ牽制」とする分析は的外れであり、日本の安保政策を誤らせる恐れがある。
6月20〜22日に開催された朝鮮労働党中央委員会第9期第2回総会において、金正恩総書記は日本を「軍国主義大国を目指している」と公然と名指し批判した。この発言は、6月8日の習近平国家主席との会談での合意を踏まえたものであり、中朝首脳会談の核心が台湾有事を巡る戦略的連携にあったことを改めて浮き彫りにした。朝鮮半島の政治・安全保障を長年にわたり研究してきたコリア国際研究所所長・朴斗鎮が、党総会での金正恩演説の意味を解説する。(Japan In-depth 編集部)
朝鮮中央通信は6月23日、朝鮮労働党中央委員会第9期第2回総会が20〜22日に開かれたと伝えた。この党総会での金正恩総書記発言で注目すべきは、先に行われた中朝(朝中)首脳会談での習近平主席発言に合わせた金正恩の国際情勢認識発言だった。金正恩は習近平との合意を踏まえ、「日本が軍国主義大国を目指している」として、日本を名指して公然と批判した。
◆党総会での金正恩の日本批判演説
金正恩は6月8日の習近平国家主席との会談で、高市首相の「台湾有事発言」と「防衛力強化政策」に反発する習近平主席に歩調を合わせ、「一つの中国支持」を再闡明し「(日本が)戦争国家へと変貌していることは、国際社会の強い反発と深刻な懸念を呼び起こしている」と日本を牽制していた。
今回の党総会において、金正恩はその部分を一層踏み込んで次のように演説した。
第2次世界大戦後、その前例のない覇権勢力の白昼強盗さながらで無制限の地政学的貪欲と力の乱用により、世界的範囲で普通の概念と常識では想像できない途方もない事件と出来事が後を絶たず、戦争と流血、政治・経済的不安定事態が普遍化されて自主勢力と支配勢力との陣営対決が加熱しているのが、極めて先鋭で可変的な現在の国際情勢の特徴である。
米国の無差別な強権行為がその追随勢力に非常に危険な影響を与え、その結果、欧州と中東の流血的な情勢が一層悪化する中、アジアの敗戦国である日本が現在の混乱した局面を軍事大国化を制限するあらゆる足かせを解く絶好のチャンスとし、公然と戦争国家へと変身していることによって国際社会の強力な反発と深刻な憂慮を掻き立てている。
米国第一主義とシオニズム、ウクライナのネオナチズムと日本軍国主義のような現代版の国粋主義が一層横行し、結託し合って全世界が戦争と流血惨劇に巻き込まれた一世紀前の残酷な状況を連想させる国際的な不安定事態をもたらし、国際法の上で特定国家の独断と専横がものを言う今日の現実は、われわれの全ての政策的選択と歩んできた道程がどれほど正しいのかを今一度確認させている」(朝鮮中央通信)。
そして金正恩は「自衛的な抑止力」を強化する考えを表明。「核戦力を絶えず強化し、核保有国としての地位を行使することこそが唯一の道だ」との方針を確認した。
この金正恩演説によって、先の中朝(朝中)首脳会談の核心が「台湾有事」であったことが一層明確に証明された形となった。
中国官営新華社通信によると、金正恩総書記は中朝会談で「朝中関係を国家の最も重大な第1戦略事業」と規定し、「北朝鮮は今後も変わらず一つの中国原則を堅持し、中国が核心利益を守護するために取る政策と立場をしっかり支持する」と述べ、「台湾、チベット、新疆(しんきょう)ウイグル自治区など核心的利益に関わる問題で引き続き中国の立場を固く支持する」とした。
一つの中国原則を堅持し中国の核心的利益を擁護するとの立場をこれまでよりもさらに明確にしたのである。それはそのまま習近平の台湾戦略に同意するものであった。
しかし、日本と韓国の一部北朝鮮ウオッチャーは、習近平訪朝を「朝ロ蜜月を牽制し、北朝鮮を中国側に引き戻してロシアとのバランスを取るものであった」などと頓珍漢な分析を行った。深刻なのは、日本の安全保障研究機関研究者までが、そのような分析を行っていたことだ。
◆元駐北朝鮮英国大使「習近平訪朝の核心は台湾有事」と指摘
この点については、元駐北朝鮮英国大使ジョン・エバラード氏も韓国中央日報に寄稿した「習近平中国国家主席の訪朝が残したもの」とのコラムで次のように指摘した。
「中国の習近平国家主席が{6月}8~9日に平壌を訪問した。多くの専門家は、今回の訪朝の目的について、最近急速に接近した北朝鮮とロシアの蜜月関係をけん制するためのものだと分析した。もちろん、中国は昨年、北朝鮮が開催した行事に高官を派遣せず、「朝中友好の年」閉幕式を省略し、無愛想な公式書簡を送るなど、金正恩国務委員長とウラジーミル・プーチン大統領の蜜月関係への不快感を示してきた。しかし、外交において不快感を示すことと実際の行動との間には大きな隔たりがある。中国が朝ロ関係を本当に懸念し、けん制しようとしていたのであれば、もっと以前から断固とした措置を講じていたはずだ。しかし、中国はそうしなかった。
今回の習主席の訪朝は、朝中同盟そのものを大々的に祝う場でもなかった。同盟強化が最大の目的だったのであれば、「朝中友好協力相互援助条約」締結65周年を迎える来月11日に日程を合わせ、祝賀ムードの中で訪朝を行っていたはずだ。習主席と金委員長は首脳会談を行ったにもかかわらず、共同声明を発表しなかった。先月のプーチン大統領の北京訪問とは対照的だった」。
「習主席が平壌を訪れた決定的な理由はロシアではなく、「域内情勢」、すなわち台湾問題にあるとみるべきだ。中国は昨年11月、高市早苗首相が衆議院で「台湾侵攻時には集団的自衛権を行使できる」と発言したことに、今なお強い怒りを抱いている。台湾統一を悲願とする習主席にとって、日本の介入は致命的だ」(中央日報日本語版6/25(木) 11:08)。
◆金正恩演説後朝鮮中央通信が日本を猛烈に批判
今回の党総会で金正恩が公然と日本批判を行うや、6月29日朝鮮中央通信は「再侵の好機を狙う戦敗国の無謀な妄動」との論評を掲げ、日本の陸上自衛隊が米海兵隊と実施中の大規模実動訓練「レゾリュート・ドラゴン」について、「2021年から始まり毎年強行されている「レゾリュート・ドラゴン」は徹底的に実戦を想定した戦争演習であり、日本はこれを通じて侵略能力を不断に高めている」とし、「再侵略の好機を狙っている敗戦国の無謀な妄動だ」と非難した。
その上で「日本が米国との軍事的一体化を深める目的は他にはない。地域の敵国、競争国を制圧して覇権野望を実現しようとする主人(米国)の不良行動によって醸し出された今日の混乱した国際情勢を機会に戦争国家への変身を正当化し、一時も早く“アジアの盟主”に乗り出そうと目論んでいるのが日本軍国主義者たちの本心だ。もともと大きな国を背負って自分の侵略的目的を達成するのは日本の体質的悪習だ」とし「日本は世界最大の戦争商人に仕え再侵略の走路を疾走すれば悲惨な結末をもたらすということを肝に銘じ、軽挙妄動してはならない」と警告した。
中国が再び北朝鮮とのイデオロギー的共通性を強調し「戦略的連携」の強化を明言して北朝鮮を引き込んでいる状況について、単に「中国がロシアとのバランスをとるための外交」などと呑気な分析を行っていると日本の安全保障政策に大きな穴を開けることになるだろう。
【よくある質問(FAQ)】
Q1:「自衛的な抑止力」とはどういう意味ですか?
A:北朝鮮が核・ミサイル開発を正当化する際に用いる公式表現です。「外部の脅威に対する自衛のための手段」と位置づけることで、国際社会からの批判をかわしつつ、核保有の継続・強化を正当化する論理として使われています。
Q2:「シオニズム」とは何ですか?なぜ金正恩演説に登場するのですか?
A:ユダヤ人国家の建設・維持を目指した思想・運動です。北朝鮮はこれをイスラエルの軍事行動と結びつけて批判的に用います。金正恩は「米国第一主義」「日本軍国主義」などと並べることで、現在の国際情勢を「帝国主義勢力の結託」として描き、自国の核保有を歴史的に正当化する文脈で使用しています。
Q3:「ネオナチズム」とは何ですか?
A:第二次世界大戦後にナチズムを復活・継承しようとする極右思想・運動です。金正恩演説では「ウクライナのネオナチズム」という形で登場し、ウクライナを敵視するロシアの立場に同調しながら、欧米主導の国際秩序を批判する文脈で用いられています。
Q4:「陣営対決」とはどういう意味ですか?
A:「自主勢力(北朝鮮・中国・ロシアなど)」と「支配勢力(米国・日本・欧米など)」が対立するという、北朝鮮が国際情勢を二項対立的に捉える際に用いる概念です。この枠組みを使うことで、中朝連携や核開発を「対帝国主義闘争」として位置づけます。
Q5:「核心的利益」とはどういう意味ですか?
A:中国が外交において「絶対に譲れない」「他国からの干渉を一切認めない」と定義している国益の最上位項目です。主に台湾、チベット、新疆ウイグル自治区の問題などが含まれます。北朝鮮がこの「核心的利益」を支持するということは、中国の国内問題や台湾戦略に対して北朝鮮が政治的・軍事的に同調する姿勢を示したことになります。
(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)
■シリーズ・アーカイブの紹介
本連載は、朝鮮半島の政治・外交・安全保障を専門とするコリア国際研究所所長・朴斗鎮によるコラムです。北朝鮮の内部構造や権力体制の変遷を独自の視点で読み解くことで、日本のメディアでは見えにくい朝鮮半島の実像に迫ります。
トップ写真)重慶で高齢の住民たちが戦勝記念日のパレード中継を視聴する
出典)Photo by Cheng Xin/Getty Images
あわせて読みたい
この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長
1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統

執筆記事一覧



























