高市・トランプ連隊の中国抑止効果とはその4 中国を後退させた。
執筆:古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
■本稿のポイント
・ 表面上は伏せられているが、高市・トランプ首脳会談の真の狙いは「対中抑止」での完全一致にある。
・ 高市首相が掲げる「力による平和」はトランプ大統領の安保政策と合致し、二国間同盟を超えて地域全体の安全保障に寄与すると考えられる。
・米国の戦略家たちは、高市首相を「特別な政治指導者」と評価し、日米連帯による国際秩序の回復を確信している。
本稿は、国際ジャーナリスト古森義久氏による日米中関係集中連載の完結編である。2026年4月の訪中を突如延期したトランプ大統領と、強固な防衛意識を持つ高市首相。両者の会談がもたらす「対中抑止」の実態とは何か。ベネズエラやイランを舞台にした米国の軍事行動が、いかに中国の覇権主義を押し戻し、日米同盟を世界規模の抑止力へと進化させるのか。ワシントンの知性たちの分析を交えて詳報する。(Japan In-depth編集部)
■高市・トランプ首脳会談に隠された「対中抑止」の本音とは?
トランプ政権のこうした対中姿勢は今回の高市首相との会談でも大きな底流となっていた。アメリカと日本とが一致団結して中国の抑止にあたるという底流である。トランプ政権が日本の首相との会談にのぞむ公式の姿勢では当然ながら、「中国」とか「対中抑止」という要素は表面には出されていなかった。だが実態というか、本音という部分ではその中国は実は大きな要素だった。そんな現実の一端は前述のウィルソン議員の言葉でも映し出されていた。日米両国の中国への姿勢はともに強固だという認識の反映だといえる。
この認識からはトランプ政権のベネズエラ攻撃も、イラン攻撃も実は中国の膨張を抑える意図がひそんでいるという実態が浮かんでくる。中国はベネズエラに対しても軍事、経済両面での支援を拡大してきた。イランに対してももっと大規模な軍事支援を進めてきた。イランがアメリカやイスラエルに対して発射する地対空ミサイルや無人機も中国製が多かったのだ。そのう中国は年来、イランの石油を大量に購入し、イランの対アメリカ、対イスラエルの戦闘の資金に寄与してきた。
こんな構図のなかでのアメリカがベネズエラやイランを攻撃した。しかも中国は具体的になんの反撃もしなかった。あるいはできなかった。そんな展開は明らかにアメリカが中国の国際秩序への挑戦を後退させた。そしてそのアメリカの動きの背景には高市首相が示したアメリカとの連帯が存在したのである。中国がアメリカ主導の国際秩序を破壊しようとする動きを日米両国がより強く団結して阻むというわけだ。中国が支援する反米枢軸勢力への対抗と呼んでもよいだろう。
■日米同盟は「二国間」から「多国間」の抑止力へ進化するのか?
このあたりの現実をトランプ政権の対中政策や対日政策に詳しい共和党国際派のルイス・リビー氏が説明してくれた。リビー氏は第二代ブッシュ政権で大統領補佐官や国防総省高官を務め、現在はワシントンの大手外交研究機関の「民主主義防衛財団」(FDD)の特別研究員を務める。ハドソン研究所の副所長をも歴任した。
「トランプ政権のベネズエラ攻撃、イラン攻撃のいずれもアメリカにとって当面の脅威や危険を除去するという戦術的な目的の背後に、中国の軍政の膨張を抑えるという戦略的目的があることは明白だ。現に反米を長年、露骨に宣言し、実際に米側に多々の害を与えてきたベネズエラ、イランの両国に対して、中国は経済だけでなく軍事の支援をも与えてきた。反米の同志国という実態だ。だからこの両国への攻撃は中国への反撃という要素も強いのだ」
リビー氏の解説によれば、いまのアメリカ政府にとってはとくにイランへの攻撃や抑止に日本が同調してくれれば、結果として米日共同の中国への抑止につながる。そして日米同盟は二国間の団結だけでなく、米側主導の国際秩序の回復という点で多国間、さらには国際的な効用をも発揮する、というのだ。
■トランプ大統領が訪中を延期した真の意図
なるほどトランプ大統領は今回のイラン攻撃の激化とともに、四月に予定していた中国訪問をあっというまに延期してしまった。「戦争の当事国の大統領が自国内に留まることは当然だ」という簡単な説明だけでの決定だった。日本側の一部の識者たちが「トランプ政権の対中政策の軟化への大修整」の象徴であるかのように位置づけていた中国訪問を単なる一外交日程のように扱う大統領の姿勢がそこには表れていた。中国をあくまで自陣営とは異なる対岸の存在として扱う態度だともいえた。
なお日米同盟の国際拡大についてはアメリカ側では他の識者もその意義を強調していた。国際戦略の重鎮でハドソン研究所の特別研究員のウォルター・ラッセル・ミード氏だった。ウォールストリート・ジャーナル紙に昨年12月に寄稿した論文だった。
「日本が特別の政治指導者を得た」と題する高市首相の登場への前向きな期待を述べた論文だった。そこでミード氏は次の骨子を述べていた。
「高市新首相は対外的に『力による平和』の基本を信奉しているようにみえる点で、トランプ大統領の基本政策と合致するだろう。その合致によって高市首相は従来の日米同盟を単に2国間の防衛協力の強化だけでなく、将来はその抑止効果を地域各国や同志諸国の安全保障に寄与するように発展させることも可能だろう」
アジア地域の諸国の安全保障への寄与となれば、当然ながら中国の軍事脅威への抑止ということにもなる。この点は前記のリビー氏の言とも合致してくるわけだ。つまりは日米連帯による中国の危険な膨張への抑え、ということである。今回の高市・トランプ首脳会談にはこうした意味が含まれているわけだ。
(終わり.その1,その2,その3)
#この論文は月刊雑誌の『正論』2026年5月号に掲載された古森義久氏の論文の転載です。
トップ写真:2017年に中国で演説を行ったトランプ大統領
あわせて読みたい
この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

執筆記事一覧




























