ハーバード大学元教授が国家反逆?中国の軍事関連機関に就職
執筆:古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
■本稿のポイント
・ハーバード大教授だったチャールズ・リーバー氏が、中国国営の頭脳研究機関i-BRAINの所長に就任したことが判明した。
・同氏は中国の人材募集事業「千人計画」に加わり、脱税や虚偽証言の罪で米司法機関から有罪判決を受けていた。
・i-BRAINは人民解放軍との結びつきが深く、BCI技術による「スーパー兵士」創出を狙うとされ、反逆行為だとの批判も出ている。
■ 中国の頭脳研究機関トップに就いた元ハーバード教授
アメリカのハーバード大学に籍をおきながら中国政府の学者募集の秘密組織に加わり、米国司法機関により起訴され、有罪判決を受けた著名なアメリカ人学者が最近、中国の国営の頭脳研究機関の所長として就職していたことが判明し、ワシントンの国政舞台でも波紋を広げるようになった。このアメリカ人学者が勤める中国側の研究機関は人民解放軍との絆も深く、中国軍将兵の戦時の頭脳の働きの効率をよくすることも研究目的にしているという。中国政府の年来の米側学界への果敢な介入や人材募集の実例としても注視されている。
このアメリカ人学者はハーバード大学化学学部で長年、教授を務めてきたチャールズ・リーバー氏で、2021年12月にアメリカ司法機関により脱税や虚偽証言の罪で起訴され、有罪の判決を受けた。リーバー氏は同大学で人間の頭脳への外部からの刺激などについての研究を重ね、同大学での正規の給料のほかに連邦政府などからの研究費として合計800万ドルもの公的資金を受けてきた。だがその一方で中国政府が諸外国の優秀な学者を高額で採用して、自国の科学研究に充てる秘密の「千人計画」にも採用され、年間75万ドルの給料をも受け取っていた。
リーバー氏はこの容疑で有罪判決を受けて5万ドルの罰金を払ったが、自身への刑罰としては数日間の刑務所での服役と半年間の自宅拘禁を受けただけで、釈放され、ハーバード大学からは解雇された。この事件はアメリカでもエリート学府とされる同大学の優秀とされた人材が中国政府にひそかに徴用されていた事例として、米側の議会やメディアでも大きく取り上げられた。
■ リーバー氏が加わった「千人計画」とは?
なおこの「千人計画」とは中国政府が2006年から開始した世界各国の優秀な科学の技術者、研究者の募集事業で、中国の軍事をも含む国力増強に外国のトップレベルの頭脳を取り込むという趣旨だとされた。高額の報酬を提供して各国の人材を集めるという方針で、その実態はほとんど秘密となってきた。中国政府はその触手を日本にも伸ばし、一時は合計44人もの日本人の科学者が「千人計画」にかかわったとも報道された。
■ 中国の脳研究機関「i-BRAIN」所長に就任
このリーバー氏の近況が 米側ではさらに衝撃的な波紋を広げることとなった。ニューヨーク・ポストやロイター通信という米欧の大手メディアの5月末までの報道によると、リーバー氏は中国政府の主要研究機関の深圳医学研究員傘下の「脳研究・先端インターフェース・神経技術研究所(i-BRAIN)」の所長に任命された。この研究所は人間の脳と電子機器を結合させるインターフェースの研究を目的に中国政府によって創設された。
リーバー氏は人間の脳とコンピューターを直接つなぎ、脳からの信号を読み取って解釈・利用するためのインターフェース技術「ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)」の世界有数の研究者とされてきた。米国防総省によると、中国当局はこの人間の頭脳とコンピューターをつなぐBCIの技術を人民解放軍の将兵に適用し、将兵の頭脳の機敏性や状況認識能力を高めて、「スーパー兵士」を創り出すことを試みているという。
とすれば、この特定分野での米国の最高水準の専門家が将来、米軍と戦闘状態に入る可能性もある中国人民解放軍の将兵の戦闘能力を高める研究を推進することをも意味するわけだ。となるとアメリカ側からみれば、リーバー氏の行動は敵を利するという点でアメリカ国家への反逆行為だとする批判もすでに生まれている。
なおこの「スーパー兵士」の創出にはAI(人口知能)も含まれることになる。この点について米側のニューヨーク・ポスト紙はこの5月上旬の記事で「元ハーバード大学の共産主義傾斜の科学者が中国へと逃亡し、中国軍のAIのスーパー兵士部隊の創出を支援する」という見出しで、アメリカ側にとっての危険性を強調していた。
中国側の報道ではリーバー氏自身は「私のこんごの目標はこの深圳の研究所を脳のインターフェース研究では世界のリーダーにすることだ」と語ったという。
#この記事は日本戦略研究フォーラムのサイトに掲載された古森義久氏の論文の転載です。
トップ写真:ブレイン・コンピューター・インタフェースを備えた未来型実験室
出典:Photo by gorodenkoff/Getty Images
あわせて読みたい
この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

執筆記事一覧




























