無料会員募集中
スポーツ  投稿日:2026/7/13

森保ジャパンが掲げた「目標」マネジメントの意味~日本経済をターンアラウンドする!37


執筆:西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

 

【本稿のポイント】

・森保ジャパンは「優勝」を掲げたが、目標未達成でも責任追及がなされていない。

・世界の強豪国は「建前としての優勝」と「現実的なベスト8」など二階建てで目標を設定。

・達成指標を伴わない曖昧な目標は、日本組織特有の検証回避とマネジメント不全を招く。

ワールドカップで、森保ジャパンは「優勝」を目標に掲げたものの、ベスト32で敗退。目標未達成に対する批判が少ない現状を受け、NPO法人日本公共利益研究所代表の西村健氏が、強豪国における目標設定と比較しながら、日本組織に共通する「検証回避の構造」と目標マネジメントのあり方を読み解く。(Japan In-depth編集部) 

韓国と違って優しい日本人は森保ジャパンを「お疲れ様」と評価し、サッカー代表の目標未達成を批判する動きも少ない。しかし、優勝するって目標を掲げた以上、その責任追及は必要なことなはずだろう。各場面で代表選手たちが「優勝」という主張をして、それを否定するのもなんだし、修正するのもモチベーションにかかわるし、いったん乗っておくか、というのが森保さんの本音でもあり、関係者の一致した見方だったのだろう。

サッカー指導歴が長く、一般財団法人葛飾区サッカー協会前代表理事の松村龍雄さんに話を聞いた。堂安さんがブラジル戦後のインタビューで、「優勝を目指さないとファンがついてこない」と彼が発言したことは興味深いと松村さんは指摘する。松村さんによる「目標」についての意見は、もともと選手から出た思いが優勝であって、協会や森保一さんはそれに乗っかったのではないかと推論している。

松村さんは「森保さんも代表チームとして(優勝を)目指すという趣旨の発言をしています。今後は何十年かかろうとこの目標はおろしてはならない」と語る。日本サッカー協会(JFA)の中長期目標は2030年までにベスト4、2050年までに優勝でもあるわけで、優勝を目指すというのは、サッカーの現場で働く人たちの心からの共通認識なのだろう。

【出典】サッカー場にて松村さん

確かに、森保一さんが「優勝は目標」と言った目標設定の裏事情は、そうだったのかもしれない。しかし、目標に対してあまり議論が起きないこの現状は日本政治や日本社会・文化などにも通じるものがあると思って今回改めて考えてみた。

各チームの目標は?

(日本代表の目標は)「ざっくりしすぎ」「世界のチームは2つの目標タイプがある」

こう語るのは群馬県明和町の医師である草野亮祐さんの言葉である。草野さんは私の高校サッカー部の先輩であり、サッカー評論のアドバイスをしてもらっている人である。彼と議論していくと日本代表は「優勝を目標に掲げる」としつつも、当初、国内メディアや識者の分析では「現実的なターゲット」としてベスト8到達が目標として繰り返し論じられていたことがまず論点に上がった。

【出典】草野さんと筆者

しかし、森保一監督は「ベスト8ではなく、優勝・世界一を目指す」とあるタイミングで明言して、そこから一気に変化してしまった。

つまり、

・公的・象徴的目標:優勝(世界一)

・実務的・現実的目標:ベスト8到達

・意味:「新しい景色」=過去最高成績更新

といったところがリアルであったのだろう。

サッカーメディアを常時ウオッチしている草野さんによると、組み合わせによって、大きく変わってしまったことが指摘された。グループリーグにおいてもオランダ、スウェーデンといった強豪が入る組になってしまい、トーナメントでもブラジルとモロッコ、フランスとベスト32であたる可能性が大きくなったからだ。それでノルマは予選リーグ突破、理想の目標はベスト8に現実的な修正が行われたと指摘する。

さて、草野さんとともに、世界のチームはどうだったか?を調べてみた。

多くの協会では、中期的な強化計画や監督人事と連動して「W杯でベスト8」「○大会以内に優勝争い」といった政治的スローガンが掲げられ、それがメディア上では「チームの目標」として流通している。

①アルゼンチン:前回王者であり、「連覇」「タイトル防衛」を明確な目標(AFA)

②ブラジル:「2002年日韓大会以来となる24年ぶり通算6回目の優勝を目指す」(CBF)

③フランス:「2018年ロシア大会以来となる優勝(2大会ぶり3度目の世界制覇)」、デシャン監督も明言

④イングランド:「1966年大会以来となる優勝(悲願の2度目の世界制覇)」(FA)、トゥヘル監督も明言

⑤スペイン:「史上2度目のワールドカップ優勝を目指す」(RFEF)、ただしデ・ラ・フエンテ監督は「予選を突破すれば、本大会では優勝のために戦わなければならない」「フットボールは複雑で、何かの王者になるのは難しいが、それでも優勝を目指す」と、目標としての優勝は明言しつつ、結果保証を拒む慎重な言い回しをしている(FIFAインタビューなど)

⑥オランダ:常に「優勝を目指す」としつつ、公の場では「ベスト4以上」を現実的ラインとして語られることが多い

⑦ポルトガル:「決勝進出を“最低ライン”としつつ、初優勝(世界王者)を狙うこと」(FPF)であるが、世代交代期にあり、「ベスト4」「タイトル挑戦」が主要メディアの掲げる目標レンジと理解されていた

⑧クロアチア:過去の準優勝・3位の実績から、「再びメダル圏(ベスト4)」が目標

⑨ウルグアイ:南米強豪として「優勝争いに加わること」「少なくともベスト8」が目標

これらの上位層グループは、建前の目標は「優勝」、現実的ラインは「ベスト4 or ベスト8」という二階建て構造が多い。

中堅国・ダークホース候補だと

⑩モロッコ:前回大会でベスト4に進んだことから、「再びベスト8以上」「決勝進出への挑戦」が目標レンジ

⑪セネガル:アフリカ勢の代表として「ベスト8以上」の目標

⑫メキシコ:開催国として、「グループ突破とベスト8」が世論・メディア上の目標

⑬アメリカ:開催国かつ成長市場として、「少なくともベスト8」「理想はベスト4」が目標レンジ

となるようだ。

初出場国や実績の少ない国、ランキング的に中堅以下の国の多くは「まずはグループ突破」が明確な目標になっている。その意味で、カーボベルデなど今回初出場の国々は「W杯での初勝利」「決勝トーナメント進出」を大きな目標を掲げ、目標達成したと言える。

目標マネジメント

組織目標の専門家として言わせてもらうと、具体的ではない「遠い目標」は、組織にとってプラスとマイナスの両面があり、運用を誤るとマネジメント上の負荷や形骸化を招きやすいことが言われている。

・目標が曖昧だと、何をどこまでやればよいかが分からず、努力量や継続性が落ちる

・「どうせ達成できるのか分からない」「達成イメージが湧かない」状態は、現場の意欲を削ぎやすく、長期的には業績悪化につながる

・「やらされ感」の増幅とエンゲージメント低下

・抽象的な遠い目標に対して、背景や意味が伝わらないと、「何のためにやっているのか分からない」という感覚が強まり、仕事が義務感・ノルマ化

・目標が自分事化されず、目標管理そのものが「評価のための儀式」と感じられ、制度への不信感・離反につながりやすい

まさに、これは政治・行政機関によくみられる組織目標の事例である。政府の目標未達成でも政治家は偉そうにしているし、誰も責任を取らない(政治責任論は過去の記事参考)。

責任追及はされないし、政治はいろいろな利害調整でもあり、なかなか目標達成は限界がある。そもそも目標が理想的なキャッチフレーズなのだから責任追及というのは難しいし、現実的に野暮なものだということが共通認識されている。そのため、なぜ政策が目標達成できなかったのか、の真摯な振り返りや分析・検証ができない。その結果、公共政策のマネジメント・改善サイクルがうまく機能しない(私が代表しているNPO日本公共利益研究所の政策検証活動参考)。

達成指標を伴わない「大きな山」のような目標は、長期ビジョンとして組織のマンネリ化防止や方向性の共有に寄与することも確かである。ただし、動機づけやアイデンティティの源泉として位置づけると機能しやすいのでその点、つまりチャレンジ目標としての心理的効果を森保さんは期待したのかもしれない。「達成可能だが挑戦的」な水準であれば、行動意欲と成長を促すことが目標設定理論や実務解説で繰り返し強調されてもいる。その意味で森保のマネジメントは成功した。しかし、理想の目標は「ベスト8」、現実の目標は「ベスト16」くらいに設定しておくべきだったのかもしれない。

適切な目標マネジメントを

しかし、今回の森保一さんの組織マネジメントを賞賛し、「日本企業の森保一さんの組織マネジメントを!」というのは前回記事(記事参考)の指摘はおいておいて、目標マネジメントについて言うと、そう思えない。

本音は、ベスト8、メンバーが優勝を目指すというので、それにいちゃもんをつけても……という形で目標は優勝と言う言葉が独り歩きしたのだろう。そして、だれも責任を取らない、うやむやにする。まさに日本組織の目標マネジメントの検証回避の構造がそこにはある。

・本音と建前のギャップを皆が「空気」として共有・皆がわかっている

・なので、目標未達成など結果が出なくても、メディアも追及しない

・責任を取らない構造

・振り返り・検証は組織内でするものの、甘くなりがち

・その結果、目標マネジメントが機能しない

この構造である。

結局、日本の「失われた30年」や組織文化に典型的な、同じような責任追及のうやむやさと「頑張ったこと」への賞賛という結果だけ残ってしまった。テレビで晴れやかな表情を見せる森保さんは優勝を本気で目指していたのだろうか?そこを追求する記者もいなかった(筆者はいつか会見に行ってみようと思っている)。

短期であるが続投することになったと聞く。森保さんの目標マネジメントは別として、一体感の組織マネジメントは今回成功した。今後も頑張ってほしい。

【よくある質問(FAQ)】

Q1. 森保ジャパンが掲げた目標とは何でしたか?

A.2026年ワールドカップ北中米大会において、森保一監督は「優勝・世界一」を目標に掲げて大会に臨みましたが、結果はベスト32敗退でした。

Q2. 日本サッカー協会(JFA)の中長期目標は何ですか?

A.JFAは公式な中長期目標として「2030年までにワールドカップでベスト4、2050年までにワールドカップで優勝すること」を掲げています。

Q3. 世界の強豪国のワールドカップにおける目標設定の傾向は?

A.アルゼンチンやフランスなどが「優勝」を明確に掲げる一方、多くの強豪国は建前の目標を「優勝」としつつ、現実的なラインとして「ベスト4」や「ベスト8」を設定する「二階建て構造」をとる傾向があります。

Q4. 日本の組織に見られる目標マネジメントの課題とは?

A.目標が曖昧で「理想的なキャッチフレーズ」になりがちであり、未達成時の責任追及や真摯な分析・検証がうやむやにされるため、改善サイクルが機能しにくいという構造的な課題があります。

シリーズ紹介・バックナンバー

日本経済をターンアラウンドする バックナンバーはこちら

(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)

トップ写真:W杯ブラジル戦で指示を出す森保一監督 2026年6月29日・米ヒューストン

出典:Photo by Etsuo Hara/Getty Images




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."