横浜市にみる「首長ハラスメント」リスク〜日本経済をターンアラウンドする!39
執筆:西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
■本稿のポイント
・横浜市の山中竹春市長が第三者調査で「威圧的行為」「切腹発言」「銃撃を示すポーズ」「侮辱・人格否定」「時間外連絡」「市長室への出入り禁止」「人事権を背景とする圧迫」の7類型のパワハラを認定された。
・データサイエンスの研究者から市長になった経歴を持つ山中氏だが、研究者としてキャリアを積み上げる過程では組織マネジメント経験が不足していたとみられ、部下への高圧的なマネジメントスタイルが以前から常態化していたとの指摘がある。
・大統領に比肩される権力を持つ首長のハラスメントを市民社会が抑止する術は限られている。選挙段階で「人間力分析」「公共市民インデックス」等を活用した候補者診断の必要性が問われる。
横浜市の山中竹春市長が、第三者調査で「決して看過できない重大なパワーハラスメント」を認定された。人事部長の実名告発から始まった事件は、兵庫県知事、福井県知事に続く「首長ハラスメント」の連鎖として、地方自治体トップの絶対的権力の暴走という構造的な問題を浮き彫りにした。NPO法人日本公共利益研究所代表の西村健氏は、山中氏の経歴を辿りながら、研究者出身首長のマネジメント適性の見極めが困難だった構造、推薦者の説明責任、そして選挙前段階での「人間力」チェックの必要性を読み解く。(Japan In-depth編集部)
横浜市が揺れている。
山中竹春市長がパワハラをしていた問題。人事部長の実名告発を契機に第三者調査が行われ、市長の複数の言動が「決して看過できない重大なパワーハラスメント」に当たると認定された。兵庫県知事、福井県知事・・・・と地方自治体の首長が起こすパラハラ。なんでこんなに起こるのか?それは首長は絶対的権力者だからだ。大統領に比肩される権力とも言われる。この権力の暴走、今回は勇気ある「侍」の告発をきっかけに明らかになったが、市民社会においては防止する術を持たない。我々はどうするべきか?
◆横浜市の問題
2026年1月、当時の人事部長の久保田淳さんが、市長から受けた威圧的言動や侮辱的発言などを公益通報として実名で公表した。市長は当初、一部の不適切な発言を認めて謝罪する一方、容姿への中傷など一部は否定。それをきっかけに、県弁護士会の推薦を受けた外部弁護士3人が調査を行った。職員アンケート、情報提供窓口、57人へのヒアリング、メール等の資料確認、市長本人への計2回の聴取を実施。その調査報告書は、以下の7類型について市長のパワハラを認定した。
①威圧的な行為:市長室で職員を怒鳴る、感情を露わにして机を叩く、書類を机へ投げつける
②「切腹」発言:担当だった前人事部長に聞こえる形で「誘致できなかったら切腹だ」と発言
③銃撃を示すポーズ:「裏切ったらこれだからな」と言いながら、手で銃を向けるような動作をした
④侮辱・人格否「ポンコツ」「ダチョウ」「スペックが低い」「人間のクズ」等の発言を、人格否定・侮辱行為
⑤時間外連絡等:緊急性がないにもかかわらず深夜・休日を問わず業務連絡を常態化させ、私用メールアドレスへの送付を求め
⑥市長室への出入り禁止:特定幹部に対して対面説明を認めず、実質的に市長室への出入りを禁じた
⑦人事権を背景とする圧迫:「飛ばす」「粛清」など、人事上の不利益を想起させる発言を通じて職員を心理的に支配
山中市長は辞職はせず、市政の立て直しと信頼回復に取り組みたいとして続投の意向だそう。「生まれ変わり信頼回復できるよう努力したい」とまで述べたが、自民党・公明党・立憲民主党の横浜市議会3会派は市長に辞職を申し入れたように周囲の目はかなり厳しい。
◆山中さんの経歴
山中さんの経歴だが、1972年9月27日、埼玉県秩父市生まれ。早大本庄高校を卒業し、系列大学に進学。1996年に早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。1998年に早稲田大学 理工学部数学科卒業。2003年、博士号(理学)を取得。大学時代に理転して、大学院に進学し、研究職・学者としてキャリアを開始した。その後、キャリアを積み上げ、データサイエンスの専門家・大学教授になり、そこから市長になった人物でもある。
市政においても経験や勘に頼らず、数値や客観的根拠に基づく論理的な課題解決を重視していると言われ、市役所内ではナッジユニットの活動なども行われた。高校時代はラグビーに打ち込み、現在もジョギングやプログラミング、立ち食いそばの食べ歩きなど多彩な趣味を持っているそう。
◆タイミング検証
筆者が幾人かに取材をしたところ、人事権への過度の介入や「マイクロマネジメント」が度を超えていたと聞く。普通、社会人になると、指導されたり、「これはまずいな」と気づいたり、研修で学んだり、人事評価や面談などで是正されたりするのが普通だ。
そもそも、学者や博士号を持った先生はマネジメントの現場で上に立つことよりも専門職として扱われ、ポジションを渡り歩くため、企業のような組織内でチェックが効きづらい。経歴を見ているとハラスメント気質が治らなかった、気づかなかったタイミングがわかる。キャリアを俯瞰して見てみよう。
2000〜2004年:九州大学医学部附属病院 文部教官助手
2002〜2004年:アメリカ・国立衛生研究所(NIH)研究員
2007年度: 九州がんセンター, 臨床研究部・腫瘍統計学研究室, 室長
2007年度 – 2008年度: 国立病院機構九州がんセンター, 臨床研究部, 研究員
2008年度: 独立行政法人国立病院機構九州がんセンター, 臨床研究部・腫瘍統計学研究室, 研究員
2010年度: 九州がんセンター, 臨床研究部, 室長
2013年度: 独立行政法人国立がん研究センター, 生物統計部門, 部門長
2014年度 – 2015年度: 横浜市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授
2016年度: 横浜市立大学, 大学院医学研究科, 教授
2016年度 – 2018年度: 横浜市立大学, 医学研究科, 教授
2021年8月:第33代横浜市長に就任(1期目)
2025年8月:第34代横浜市長に再選(2期目)
【出典】KAKENより
28歳から32歳の間は研究員として生きていたが、35歳ごろになって国立病院機構九州がんセンター室長となる。医療データの分析や新薬開発を裏付ける「データサイエンスの専門家」として重要なプロジェクトを牽引する優秀なリーダーであったとされている。新しいがん治療薬などが「本当に効果があるのか」「副作用はどの程度か」を客観的なデータで証明するために、どのようなデータを集めてどう計算すべきかというルールの設計(臨床試験の計画)を指揮していたそう。
長年組織にいたわけでもない研究員がいきなり部門の室長になるということは、マネジメントの経験不足のまま就任したことがうかがえる。大学新卒とは違い、社会人経験年数が少ない点から、マネジメント面では経験不足と言える。
国立病院機構九州がんセンター室長に就任する方法としては、大学病院や専門機関で長年の臨床・研究経験を積む、論文発表や公的な研究費獲得などの実績を上げる、九州がんセンターに医師・研究員として着任し昇格、国立病院機構の事務職員として管理職としての能力が評価され、人事異動で配属・昇格するパターンがあるそうだが、研究者としてポジションに就いた。国立がん研究センター等ではデータサイエンス部のトップとして、大規模な医療データ分析拠点をまとめ上げ、国や大学を巻き込んだ共同研究プロジェクトを推進したそうだが、研究者のトップなので、会社組織とは違い、研究第一の世界である。その点、研究者としては有能だけど、マネージャーとしての能力は見極められなかったのかもしれない。ただし、市立大学に新しい大学院(データサイエンス研究科)を作ることを色々な人を集めて、実現したので仕事は有能という評価もある。
しかし、部下に対しては当時から非常に厳格かつ高圧的であり、のちの市長時代のパワハラ問題の芽となるような苛烈なマネジメントが行われていたとメディアでは指摘されている。
◆推薦した人の責任は?
過去には「部下に能力がない」と吐き捨てるように発言するなど部下を委縮させるマネジメントスタイルが常態化していたと週刊誌等の取材で告発されていた。そう考えると、なぜこの人が候補になったのか?という疑問があるだろう。
最初の選挙の争点はカジノ問題。「カジノ反対」という世論の動きがその背景があったことが作用した。カジノ反対を実現する上で、彼のような見た目がよくて、キャリアもあって・・・という人は良い「たま」である。しかし、身体検査のような調査は充分であったのだろうかが問われる。大学での直接の部下や過去の知り合いに確認すればどういった人物かわかるはずだが、どこまでできたのだろうか、疑問である。
選挙で支援した議員に対しても、選挙後は山中さんはなしのつぶてだったという声も聴いている。市長に推薦した人、過去に上司だった人などはある程度、山中さんをどうして推薦したのか、昇進を認めたのか、説明責任はあるだろう。説明責任を求めたい。
◆首長候補の多重チェックを
上から指導されたり、指導を受けたりする機会もあったのだろうが、是正されないままだったのが山中さんにとって可哀そうなところだろう。しかし、ハラスメント体質が見抜かれないまま、是正されないまま、権力者になった時点で市民はどうしようもない。特に市役所にとっては災難である。元人事部長は本当に勇気をだして告発してくれたが、市長のような絶対権力者を止めるのはなかなか難しい。相当に難易度が高いと言える。
やはり、こうした絶対権力者の暴走を予防するには、選挙段階で、筆者が作った「人間力分析」「公共市民インデックス」を活用して、政党が調査をしたり、メディアが質問したり、過去をチェックして「候補者診断」をしてもらうことが必要になる。

【出典】公共市民インデックス
特に選挙戦では「政策」がテーマになりがちだが、「人間力」についてもチェックされる機会が必要だろう。横浜市政が混乱と停滞を生んでしまったわけで、不倫や経歴詐称どころの問題ではない。大事なのは、勘違いをする政治家を作らない事が重要なのだ。
【よくある質問(FAQ)】
Q1. 山中竹春氏とはどんな人物か?
A. 1972年9月27日生まれ、埼玉県秩父市出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、同大学理工学部数学科でも学び、2003年に博士号(理学)を取得。データサイエンスの専門家として国立病院機構九州がんセンター、国立がん研究センター、横浜市立大学教授などを歴任。2021年8月に第33代横浜市長に就任、2025年8月に再選され現在2期目を務めている。
Q2. パワーハラスメント(パワハラ)とは法的にどのように定義されているか?
A. 「労働施策総合推進法」(通称パワハラ防止法、2020年施行)に基づき、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、③労働者の就業環境が害されるもの、の3要件を満たすものと定義される。厚生労働省の指針では、身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害の6類型が示されている。
Q3. 首長のパワハラが問題となった他の事例には何があるか?
A. 近年、地方自治体の首長のパワハラが相次いで表面化している。兵庫県では斎藤元彦知事へのパワハラ疑惑をめぐる県議会百条委員会の設置、告発文書問題などが大きな社会問題となった。福井県でも杉本達治知事のパワハラ疑惑が指摘された。首長は組織内で絶対的な権力を持ち、部下からの指摘や是正が構造的に困難であることが共通の背景として指摘されている。
Q4. 公益通報者保護法とはどのような制度か?
A. 労働者が組織内の法令違反などを通報した場合、通報を理由とする解雇や降格、減給などの不利益な取扱いから通報者を保護することを定めた法律(2004年成立、2006年施行、2022年改正)。改正法では、従業員300人超の事業者に内部通報制度の整備を義務付け、通報対応業務従事者に守秘義務を課すなど保護が強化された。本稿で言及される横浜市の元人事部長による実名告発も、この制度を活用した事例とされる。
Q5. 「マイクロマネジメント」とは何か?
A. 上司が部下の業務を細部まで過度に管理・監視・指示するマネジメント手法。部下の自主性・裁量を認めず、決定権を委譲せずに逐一チェック・指示を行うスタイルを指す。短期的には成果が出るように見えても、部下のモチベーション低下、成長機会の喪失、上司への過剰な依存、組織全体の意思決定の遅延などの弊害を生むとされる。経営学ではリーダーシップの失敗類型の一つとして議論される。
(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)
トップ写真:山中竹春横浜市長
出典:山中竹春公式HP
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。












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