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未分類  投稿日:2026/8/13

罹災証明『1点の差で1000万円』ー元記者市長が明かす、液状化被害と自治体裁量のリアル


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト) 

【本稿のポイント】 

・能登半島地震による液状化被害をめぐり、罹災証明の判定は内閣府の運用指針という「法的拘束力のないマニュアル」に基づいており、実際の判断は市町村の裁量に委ねられている実態を出町氏は明かした。 

・判定がわずか1点(準半壊か半壊か等)違うだけで、被災者が受け取れる支援金が最大1000万円変わるケースがあり、隣接する氷見市などとの間で「全壊」認定件数に大きな差が生じている。 

・液状化対策工事後の維持管理費について、出町氏は選挙戦で「住民負担ゼロ」を公約。当選後に富山県が約30億円規模の支援基金を創設し、被災した県内5市が足並みを揃えて住民負担を回避する枠組みが実現した。

 

2026年8月、記録的な大雨で高岡市に大雨危険警報(レベル4)が発表される中、Japan In-depthチャンネルの生放送に富山県高岡市の出町譲市長が出演した。時事通信、テレビ朝日で記者・プロデューサーを務めた経歴を持つ「元記者市長」は、2024年の能登半島地震で市内の一部地区を襲った液状化被害への対応を振り返りながら、行政の判断ひとつが被災者の生活再建を大きく左右する現実を、数字を交えて具体的に語った。

▶ 本編動画(Japan In-depthチャンネル)=https://www.youtube.com/live/zQGcym9kaNY?si=WZp1gfXuZ2sOftnd

 

■ 「1点の差で1000万円」罹災証明判定のリアル 

令和6年能登半島地震(震度5強)では、高岡市内の伏木・古国府地区などで液状化が発生した。地下水位が高く、その上に砂の層があったことで地中の土砂が流動化し、地面から水と砂が噴き出す現象が起きたという。

 

液状化による被害は、家屋が倒壊するわけではなく「傾く」「沈む」といった見えにくい形で現れるため、当初は被害の程度をどう判定すればよいのか市としても手探りだったと出町氏は振り返る。判定は「全壊」「大規模半壊」「中規模半壊」「半壊」など段階分けされており、このランクによって被災者が受け取れる公的支援金の額が大きく変わる。

 

出町氏が示した数字が生々しい。被災住宅6,773戸を抱える氷見市では全壊が232件認定された一方、被災住宅5,490戸の高岡市では全壊がゼロだった。射水市など他の近隣市でも全壊認定がある中、高岡市だけがゼロという結果に、出町氏自身「これをどう考えるか」と当時から疑問を持っていたという。判定のランクがわずか1点違うだけで、被災者に支給される金額が1000万円変わるケースもあるといい、この「1点」の重みが自治体の判断力を問う核心だと強調した。

■ 「マニュアルであって法律ではない」――市町村裁量の重み 

 

罹災証明の判定基準は内閣府が示す運用指針に基づくが、出町氏はこれが法律ではなく「マニュアル」に過ぎない点を重視する。法的拘束力がないからこそ、実際の判定は市町村の裁量に委ねられている部分が大きいという。

 

この点を踏まえ、出町氏は静岡県の弁護士で、日弁連災害復興支援委員会副委員長も務める長野氏を高岡市に招き、被災者支援のあり方について助言を受けた。長野氏からは「内閣府の指針はあるが、市町村の判断が大切だ」との言葉があったといい、出町氏はこれを受けて「これから災害が起きる場合は、なるべく被災者に寄り添うような判断をしていこう」という方針を市の中で徹底していると明かした。

 

なお、当時の判定を巡っては市議会でも「基準が厳しすぎたのではないか」との質問が出ていたといい、支援金の原資が市の財源ではなく国からの交付金である点を踏まえ、被災者の生活再建こそが優先されるべきだとの考えを繰り返し述べた。

■ 住民負担ゼロを公約に、県を動かした 

 

液状化対策工事そのものだけでなく、工事後にポンプなどの設備を維持していくための「維持管理費」の負担をどうするかも大きな論点となった。当初は住民負担を求める声もあったが、出町氏は液状化被害を受けた地域全体の合意形成が難しくなるとの判断から、選挙戦で「住民負担なし」を公約に掲げた。当選直後は「本当に実現できるのか」との指摘も受けたというが、その後、富山県が約30億円規模の「宅地液状化防止対策加速化支援基金」を創設。この基金の運用益によって支援する枠組みができたことで、高岡市だけでなく氷見市や富山市など被災した県内の自治体が足並みを揃え、住民負担を回避する方向で合意した。現在示されている液状化対策の対象は県内5市で、国が補助率の2分の1を負担し、残りを県が負担する形が想定されているという。ただし現時点ではまだ試験施工の段階で、本格的な工事はこれからだとしている。

 

■ 心の復興、そして熊本地震への支援 

 

液状化被害が深刻だった地区では、住宅の公費解体が進み、更地が広がる一方で、住民が別の場所での生活を余儀なくされているケースも少なくない。出町氏は東日本大震災後の福島の例を引き合いに、時間が経つほど住民が地元に戻りにくくなる懸念を指摘。目に見える形での復旧・復興には時間がかかる一方、被災地から離れた住民を地域のコミュニティに招いて交流する場を設けるなど、「心の復興」に向けた取り組みも並行して進めていると説明した。市長自らが会長を務める「復興会議」を設置し、地元住民とともに街づくりのあり方を議論しているという。

 

こうした経験を踏まえ、高岡市は今回の熊本地震の被災地に対し、罹災証明の発行手続きを支援するため職員を派遣した。出町氏は、こうした派遣経験が職員自身のスキルアップにもつながるとした上で、避難所の環境整備(体育館の空調整備の遅れと、教室の空調を代替活用する案)や、ペット同伴避難への対応など、今後の防災体制の見直しにも言及した。

 

能登半島地震の被災地として、罹災証明の運用や液状化対策で試行錯誤を重ねてきた高岡市だからこそ、出町氏の言葉には他の自治体にはない実感がこもる。番組ではこのほか、熊本地震への職員派遣を通じて見えてきた課題や、避難所の空調をめぐる意外な盲点、そして震災を乗り越えた先の街づくり構想まで、経験者ならではの視座が語られている。続きはぜひ本編でご覧いただきたい。

▶ 本編動画(Japan In-depthチャンネル)=https://www.youtube.com/live/zQGcym9kaNY?si=WZp1gfXuZ2sOftnd

 

■番組で語られたそのほかの論点 

 

・[11:05]〜 能登半島地震での液状化発生と被害の全体像 

・[12:04]〜 熊本地震から学んだこと、過去の震災との比較 

・[38:10]〜 避難所の空調問題――体育館より教室活用という発想 

・[41:01]〜 能登半島地震を機に変わった富山県内の防災意識 

・[46:05]〜 クラフトツーリズムと伝統産業(能作)による地域活性化 

・[54:08]〜 人口減少対策と移住支援策(家賃半額補助)

 

【よくある質問(FAQ)】 

Q1.罹災証明とは? 

A.災害によって住家等が被害を受けた場合に、その被害の程度(全壊・大規模半壊・中規模半壊・半壊など)を市町村が証明する書類。この証明の区分に応じて、支援金の額や各種支援策の対象範囲が決まる。

Q2.液状化とは? 

A.地震の揺れによって地中の砂などが一時的に地下水と混ざり流動化し、地表に水や砂が噴き出す現象。建物が倒壊するのではなく、傾いたり沈んだりする形で被害が現れるため、被害の程度が把握しにくいとされる。

Q3.内閣府の運用指針とは? 

A.災害による住宅被害の程度を判定する際の基準を示したもので、法律ではなくあくまで技術的な指針(マニュアル)という位置づけ。そのため実際の適用にあたっては、一定の裁量が市町村に委ねられている。

Q4.なぜ自治体によって判定結果に差が出るのか? 

A.液状化のように外形的な被害が分かりにくいケースでは、現地調査を行う市町村の職員や専門家の判断が結果を左右しやすい。同程度の被害でも、判定の運用次第で「全壊」と「半壊」に分かれることがあり、これが支援金額の差にも直結する。

 

関連リンク ・Japan In-depthチャンネル(YouTube)

 

トップ写真:出町譲・富山県高岡市長 ⒸJapan In-depth編集部




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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