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.政治  投稿日:2026/8/13

10式戦車近代化よりも優先させるべきこと


執筆:清谷信一 (防衛 ジャーナリスト) 

本稿のポイント

・陸自は10式戦車にRWS・APSを搭載し、転輪を5個から6個に増設して車体延長、重量を44トンから47トンに抑える近代化を計画。

・87式自走高射機関砲など採用後27〜53年が経つ装甲車両群は近代化されず、老朽化と部品枯渇で稼働率が低下している。

・対空戦力の空白が最大の弱点であり、戦車定数を100両程度に絞り、浮いた予算をネットワーク化と対空車両整備に振り向けるべき。

 

陸上自衛隊の装備動向を長年取材してきた防衛ジャーナリストの清谷信一氏が、陸自が進める10式戦車の近代化(RWS・APS搭載など)について優先順位の低さを指摘。老朽化が進む87式自走高射機関砲など他の装甲車両の近代化とネットワーク化こそ急務であり、戦車定数を100両程度に絞って予算を振り向けるべきだと提言している。 

10式戦車の近代化の中身とは? 

陸上自衛隊は10式戦車の近代化のための各種試験を行っている。取材したところ主な要素はセンサー類と火器を組み合わせたRWS(リモート・ウェポン・ステーション)、レーダーなどで敵のドローンやミサイルを迎撃するAPS(アクティブ・プロテクション・システム)の搭載すること。現在5個の転輪を6個に増やして車体を延長、重量は現在の44トンから47トンまでに抑える。またすべての10式を近代化せず一部に留めるようだ。

 

 我が国に敵機甲部隊が連隊あるいは師団レベルで上陸してくるシナリオを我が国は想定していない。現状そのような能力を持った国は周辺に存在しない。機甲部隊の重装甲車輛は南西方面で活用も難しい。であれば最小の近代化という陸幕の選択は間違ってはいない。

 

放置される旧式装甲車両群 

 だが戦車の近代化よりも優先するものがあるはずだ。それは機甲部隊全体の近代化だ。機甲部隊の車輛の中で更新されているのは戦車だけだ。例えば87式自走高射機関砲、96式自走120ミリ迫撃砲、73式装甲車、89式装甲戦闘車、施設作業車(1999年導入)、99式自走155ミリ榴弾砲など調達が始まって27〜53年経つ旧式装甲車が近代も更新もされていない。これらの装甲車輛は旧式化で現代戦に耐えられず、老朽化部品の枯渇で稼働率も下がっている。唯一の機甲師団である第7師団はまるで機甲博物館だ。

 

陸自は戦車だけで戦えると無邪気に思っているとしか思えない。まるで戦車を偏愛している戦車マニアだ。陸自に機甲戦闘を行う「軍事組織」としての当事者能力は欠如している。

大規模着上陸シナリオは現実的か?

 先述のように敵が本土に大部隊で着上陸する状況は想定しにくい。周辺諸国にそのような揚陸能力はない。中国の揚陸能力が向上したといっても、日米の海空戦力によって相当数が減らされるだろう。揚陸艦の搭載能力で戦車〇〇輛が運べるという表現があるがまた揚陸するにしても戦闘車輛だけではなく、燃料、弾薬、食糧、トラックや兵站物資も輸送しなければならない。だから全部の揚陸能力を戦闘車輛に振り向けられるわけではない。

 

そして日米が制空権、制海権を握っていれば相当数の輸送艦が撃沈されるだろう。現代の戦闘で何割も輸送艦が沈められる前提の作戦を立てることはほぼ不可能だ。

 

仮に大規模な敵が揚陸してくるということは、日米が制空権制海権を失っているということだ。その状況において大規模な機甲部隊が展開していれば、敵の航空戦力、ドローンによって容易に探知、攻撃され、組織的な戦闘をする前に一方的に虐殺されるだろう。

ネットワーク化の遅れという弱点 

戦車の近代化の優先順位は相当低い。むしろその他の装甲車両の近代化、ネットワークが先だ。戦車の数を減らして健全なその他の装甲車両を整備し、またネットワーク化を進めるべきだ。ネットワーク能力問題だ。今回の10式の近代化でもネットワークシステムは現在の10TKNW(TanK Net Work)システムがそのまま流用される見通しだ。陸自では16式や近年採用された24式、25式、AMVの指揮通信車型などにもこの10TKNWが採用されている。だが10TKNWは開発後四半世紀が立っており、旧式化している上に戦車中隊内のクローズなシステムであり、ドローンや普通科(歩兵)、他の装甲車両とのネットワーク機能もない。

 

しかもアーキテクチャーも出来が悪い。25式偵察警戒車や機動120mm迫撃砲の開発遅延はこれが原因である。しかも搭載されている「広域多目的無線機」は通信速度が遅く、音声通信や簡単なテキストやメールは送れるが動画は送れない。しかも軍用に適さない周波数帯を使っており、通じにくい。これは現場では大変問題になっており会計検査院からも指摘されているが、根本的な解決策はない。車輛のネットワーク化こそ最優先で進めるべきだ。

対空戦力こそ最優先課題 

 装甲車輛でもっとも優先順位が高いのは対空車輛だろう。現実的に有事の脅威は敵の戦車ではなく開戦初頭における弾道弾やドローン、巡航ミサイルによる奇襲攻撃だろう。

 

 87式自走高射機関砲は採用後40年になるがまともな近代化もされておらず、部品も枯渇して稼働率も低い。81式短距離地対空誘導弾はC型に近代化されているが、即応性が低く、ミサイル数も少ない。11式短距離地対空誘導弾は、飽和攻撃に対抗できない。ソフトスキンの車体を使用しており、生存性が低い。これは同じミサイルシステムを採用した空自の基地防空用地対空誘導弾も同様である。

写真)90式戦車

出典)筆者提供

戦車は機甲部隊の運用ノウハウを残すための種火程度でいい。定数は100輛もあれば十分だ。そうであれば戦車の定数を減らして、残りの10式や90式戦車は対空装甲車として活用した方がいい。現在10式が約150両、90式は340両存在する。後は他の用途に転用あるいはモスボール保存すべきだ。

 

例えば戦車の車体にラインメタル社の35ミリないし30ミリ砲を搭載したスカイレンジャーや米陸軍が採用したM-SHORADの砲塔システムを搭載すれば短期間で開発が可能だ。

 

ドイツは旧式のレオパルト1の車体にスカイレンジャーを搭載した自走対空砲をウクライナに提供している。スカイレンジャー35は30kmまでの範囲のXバンドまたはKuバンドの追跡レーダーと、レーザー距離計と自動ターゲット追跡機能を備えたEO/IRカメラで構成される統合センサースイートが搭載されている。

 

空中で時限(電子)信管により起爆するAHEAD弾を採用し、1発あたり数万円程度の35mm砲弾で撃墜できるなど経済性も高い。M-SHORADはスティンガー対空ミサイルの連装発射機、近接信管が使用可能なXM914 30mm機関砲、M240 7.62mm同軸機銃を装備している。残念ながら我が国の防衛産業にこれらのようなシステムを開発する能力はない。

写真)センタウロ・ドラゴ

出典)筆者提供

 

オト-メララ社の76ミリ砲塔システム、ドラゴも有用だ。76ミリ砲は射程が長く、また弾頭も大きく殺傷半径は約10メートルで破壊力もカバー範囲も大きい。ヘリならば最大8キロ、巡行ミサイルや小型のUAVならば最大6キロで迎撃が可能である。また非直接照準による火力支援は有効射程15キロ、海上の艦艇などの攻撃であれば22キロまで有効である。また直接照準による火力支援であれば有効射程は3キロとなっている。

 

砲塔上部には探知と追尾用、誘導弾のガイダンスを行うレーダーが装備されており、早期警戒にも使用が可能である。対空戦闘に関しては更に広範囲を探知する外部のレーダーなどから情報を得る。同社が新たに開発したAPFSDS-T(離脱装弾筒付翼安定徹甲曳光)弾は90ミリのAPSSDS(装弾筒付翼安定徹甲)弾と同程度の威力があるとしている。

 例えばネットワークが前提だが、小隊長車だけにレーダーを搭載し、後の車輛からレーダーを省けば調達コストは大幅に低減できる。

 

76ミリ砲であれば対戦車射撃も可能だ。現実問題としてウクライナでは米国から供与されたブラッドレー歩兵戦闘車が30ミリ機関砲の連打で敵戦車を撃破している。実は現代の戦車でもっとも重要なのはセンサー類でこれを破壊できれば正確な射撃はできない。また中口径機関砲弾で連打されれば強い衝撃で乗員が戦闘不能になるし、またはく離した車体内部の装甲で傷付けられる。

 

更に自衛隊も現在評価試験中の誘導砲弾「Vulcano」を用いた非視界外(BLOS)射撃も可能だ。前方の無人機が目標情報を取得し、戦車側がその情報を受けて遠距離から装甲の薄い戦車上面から攻撃できる。戦車戦同士の戦いが想定されにくい現状であれば「保険」としてはこの程度でも問題はないのではないか。

 

現実問題として仮に敵の機甲部隊が上陸してきても平原で戦車同士が直接照準で戦車砲を撃ちあう「牧歌的」な戦闘は起きにくい。まず互いにドローンを飛ばして敵部隊の位置を把握してドローンによる攻撃、榴弾砲や迫撃砲によるアウトレンジからの精密誘導弾による攻撃が起こる。更に機甲部隊に随伴するUGV(無人車輛)の対戦車型による攻撃も想定される。戦車同士が直接交戦する可能性は極めて低い。

戦車の数を大幅に減らし、機甲部隊のダウンサイジングを行い、浮いた予算で他の装甲車輛の近代化、あるいは更新を図るべきだ。

 

よくある質問(FAQ) 

 

Q1. RWS(リモート・ウェポン・ステーション)とは何ですか?
A. 乗員が車外に出ずに、車内から遠隔操作でセンサーや火器を操作できるシステムです。

Q2. APS(アクティブ・プロテクション・システム)とはどのような装備ですか?
A. レーダーなどで飛来するミサイルやドローンを探知し、迎撃して車両を防護するシステムです。

Q3. 見通し外(BLOS)射撃とはどのような攻撃方法ですか?
A. 射手が直接見えない遠方の目標を、無人機などが取得した情報をもとに攻撃する射撃方式です。

Q4. APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)とは何ですか?
A. 装甲を貫通するための徹甲弾の一種で、飛行中に安定翼で姿勢を保ちながら高速で目標を撃ち抜く砲弾です。

Q5. M-SHORADとはどのようなシステムですか?
A. 米陸軍が採用した短距離防空システムで、対空ミサイルや機関砲を装輪車両に搭載したものです。

 

トップ写真)10式戦車

出典)筆者提供




この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト

1962年生 防衛ジャーナリスト 作家。日本ペンクラブ会員。

2003~08年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。ドイツの防衛専門誌、「European Security and Defence」(英字誌)日本特派員。 東洋経済オンライン、Japan indepthなどのオンラインメディアにも寄稿。

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