米・メキシコ・加協定(USMCA)の見直し、来年持ち越しへ
執筆者:山崎真二(元時事通信社外信部長)
■本稿のポイント
・米国、メキシコおよびカナダの包括的貿易協定(USMCA)の見直し協議で、メキシコとカナダは延長に賛成したが米国が反対したため合意は不成立となり、これからは毎年見直し協議が行われることになった。
・現行協定は今後10年間有効で毎年見直し協議が行われる。
・USTRのグリア代表は複雑な議題は来年以降に取り組みたいとの意向を示し、全面的な見直し協議は来年に持ち越される公算が大きい。
2020年7月に発効した米・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が発効から5年目の見直し協議で最初の試練を迎えている。今年7月の共同見直し協議でメキシコとカナダは16年間の延長を望んだが、米国が反対したため合意は不成立となった。元時事通信社外信部長の山崎真二氏は、自動車原産地規制をめぐる激しい駆け引き、中国製品の迂回輸出問題、そしてトランプ政権が「経済安全保障」の枠組みでメキシコとの通商関係を再定義しつつある構図を読み解く。
■USMCA見直し協議はなぜ合意に至らなかったのか
米国、メキシコおよびカナダの3カ国で構成するUSMCAは周知の通り、旧北米自由貿易協定(NAFTA)の”改定版”で2020年7月に発効した。今年7月共同見直し協議が行われ、メンバーであるこの3カ国が合意すればさらに16年間延長され、2042年7月まで続くとされていた。しかし、メキシコとカナダが延長に賛成したが、米国が反対したため合意は不成立となり、これからは毎年見直し協議が行われることになった。ただ、合意が成立しなくとも、2036年までは現行協定は効力を有し、合意が成立すればその時点から再び16年間の延長になるとされている。
■メキシコ、カナダは延長望むも、米は反対
メキシコの複数の有力紙は、米側担当機関である米通商代表部(USTR)のグリア代表が「USMCAで多くの成果があった」と一定の評価をしたものの、「現行の形で延長することはできない」と述べたとし、その背景にはトランプ米大統領が米国の対メキシコ貿易赤字を不満とし、USMCAの価値を過小評価していることがあると報じた。
■中国の関税逃れも主要テーマに
USMCA見直しに関する公式協議は米国とメキシコの間でこれまでに3回実施されている。米国とカナダ間で公式協議はまだ行われていない。米・メキシコの2国間協議の第1回は今年5月メキシコ市、第2回は6月ワシントン、第3回は7月再びメキシコ市でそれぞれ開催された。最新の米・メキシコ共同声明によれば、自動車、経済安全保障、労働、農業、電子決済サービス、鉄鋼・アルミニウム製品など幅広い分野について話し合われたとされている。共同声明では「グリア代表とシェインバウム(メキシコ)大統領は、2国間協力の重要性で一致し、北米の製造業を成長させ、地域サプライチェーン(供給網)を強化する緊急性を強調した」と述べている。
米・メキシコ協議の最大の焦点は域内で関税免除の条件となっている自動車の原産地規制の問題だ。米側は一連の協議の中で域内の自動車部品の調達比率を現行の75%以上から80%超に引き上げた上、米国産品の使用比率を50%とすべしという要求を突き付けたといわれる。当然、メキシコは反対し、激しい議論が展開されたもようだ。もう一つ、協議で主要なテーマになっているのが、中国製品などがUSMCAの優遇措置を悪用し関税を回避して米国市場に流入している問題。米メディアの報道によれば、トランプ政権は2025年に約670億ドル相当の中国製品がメキシコなどを経由して迂回輸出されたとみているという。
■米国はメキシコへの対応を変えつつある――メキシコ紙
9月上旬に予定される米・メキシコの第4回協議では上記の二大テーマが中心議題になることは十分予想される。ただし、USTRのグリア代表は先の上院での公聴会で、USMCAの原産地規則や労働問題など複雑な議題は来年以降にじっくり取り組みたいとの意向を示し、メキシコやカナダとは今年中に暫定的な貿易協定を結びたいとの考えを表明している。このため、米国はじめメキシコの有力メディアの間ではUSMCA全面的な見直し協議は来年になってから本格化するとの見方が広まっている。メキシコ側も急いでいる様子はない。日本のメキシコの主要企業の代表団体である「企業家調整評議会」(CCE)は「USMCA見直しは短時間で解決できるような問題ではなく、時間かかるのは当然だ」という会長の話を一部メディアに公表している。
メキシコの代表的経済紙「エル・エコノミスタ」(8月18日付電子版)はUSMCA見直しをめぐる動きに関しトランプ大統領がメキシコへの対応を変えようとしていると強調、メキシコから米国へ製品を供給している中国企業の規制の強化に重点を置く可能性を指摘、その上で同紙は「貿易、技術、安全保障は別々と思われるが、トランプ氏はそれらを経済安全保障と国家安全保障という概念で一体のものしてとらえており、この変化がUSMCA見直しにも影響を及ぼしている」の見方を示し、「シェインバウム氏はトランプ氏より一歩先に手を打たねばならない」と主張している。
【よくある質問(FAQ)】
Q1. USMCA(米・メキシコ・カナダ協定)とは何か?
A. United States-Mexico-Canada Agreementの略称で、北米3カ国による包括的貿易協定。1994年発効のNAFTA(北米自由貿易協定)を改定する形で、第1次トランプ政権下で交渉され2020年7月1日に発効した。関税撤廃、原産地規制、労働・環境基準、デジタル貿易、知的財産権など幅広い分野をカバーする。有効期間は16年間で、6年ごとに見直し協議を行うことが定められている。
Q2. NAFTA(北米自由貿易協定)からUSMCAへの主な変更点は?
A. 主な変更点は、①自動車の原産地規制強化(域内調達比率を62.5%から75%へ引き上げ、時給16ドル以上の労働者による生産比率を40〜45%義務化)、②メキシコの労働改革義務化(労働組合の民主化、団体交渉権の強化)、③デジタル貿易ルールの新設、④乳製品市場のカナダによる開放拡大、⑤6年ごとの見直し条項の導入、など。第1次トランプ政権が「米国に不利」と批判したNAFTAの内容を大幅に修正した。
Q3. USTR(米通商代表部)とはどんな組織か?
A. Office of the United States Trade Representativeの略称で、米国大統領府に属する連邦政府機関。米国の通商政策の立案・調整・実施を担い、外国政府との貿易交渉、通商協定の締結、通商法の執行などを行う。長官級の代表(USTR代表)は大統領直属で閣僚級のポスト。現在の代表はジェイミソン・グリア氏(第2次トランプ政権)。
Q4. 原産地規制(Rules of Origin)とは何か?
A. 自由貿易協定の下で関税優遇措置を受けるための、製品の原産地を判定するルール。域内で生産された部品や原材料の使用比率、生産・加工工程の比率などによって原産地が判定される。USMCAでは自動車の場合、部品の75%以上を域内で調達すること、時給16ドル以上の労働者が全工程の40〜45%を占めることなどが定められており、これらの条件を満たさない自動車は関税優遇の対象外となる。
Q5. クラウディア・シェインバウム大統領とはどんな人物か?
A. Claudia Sheinbaum Pardo。1962年生まれ、メキシコシティ出身のメキシコ第66代大統領(2024年10月1日就任)。メキシコ史上初の女性大統領。物理学博士(メキシコ国立自治大学)、環境工学が専門でIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の科学者としてノーベル平和賞受賞にも貢献した。メキシコシティ市長(2018-2023年)を経て、与党「国家再生運動(MORENA)」から立候補して大統領選に勝利した。
(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)
トップ写真:米国通商代表ジェイミソン・グリア氏、クラウディア・シェインバウムメキシコ大統領との会談のため国立宮殿に到着 メキシコシティ、メキシコ – 2026年4月20日
出典:KarlaGuerrero/ObturadorMX/Getty Images
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この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長
南米特派員(ペルー駐在)、




























