欧州を揺るがすAfD躍進、ロシア極東の人手不足、ホルムズ海峡ーー今週の世界を読む
宮家邦彦(キャノングローバル戦略研究所理事・特別顧問)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2026 #36
2026年9月7-13日
本稿のポイント
・ドイツ東部ザクセン=アンハルト州議会選挙でAfDが43.8%を獲得し、第1党に躍進。州議会83議席の内39議席を得たものの、単独過半数には届かず、今後の連立協議が焦点となる。
・ロシア極東では人口・労働力不足が深刻化。外国人労働者の受け入れ、AI・ロボットによる省人化、退役軍人などの国内の潜在的労働力の活用が解決策として議論されている。
・ホルムズ海峡をめぐっては、韓国が軍事的貢献を含む複数の選択肢を検討する一方、日本の対応も問われている。イランとの緊張が続くなか、海峡の自由航行をどのように確保するかが重要な課題となる。
今週のビッグニュースは何と言っても、6日にドイツ東部ザクセン・アンハルト州で行われた同州議会選挙だろう。強硬右派政党(ドイツでは「極右」政党)である「ドイツのための選択肢(AfD)」が得票率43・8%で圧勝し、第1党に躍進したからだ。この結果、想定の範囲内とはいえ、新しい時代を暗示することになるかもしれない。遂にドイツでも「極右」政党の政権獲得の可能性が出てきた、ということか。当然、AfDは「歴史的結果」と自画自賛する。でも、これはあくまで暫定結果、AfD獲得議席数は全83議席中39議席で、42議席の単独過半数(42議席)には及ばなかった。となれば、今後は同党初となる州政権樹立に向け連立交渉が行われることになる。
対する与党・与党勢力は元気がない。フリードリヒ・メルツ首相率いる中道右派「キリスト教民主同盟(CDU)」の得票率は17.2%、何と前回の約半数まで激減して大敗した。同首相の求心力低下も明白。これまで主要政党は伝統的にAfDとの連立を拒否してきたが、AfDを除く残りの政党による連立工作も極めて困難なようである。AfDの公約は不法移民の強制送還推進、LGBTQレインボー旗の廃止、ナチス史観の見直しなど過激な政策ばかり。しかも、同州のAfD支部はドイツの諜報機関から「極右過激派組織」に認定されている。欧州では、外国人労働者に強く依存する同州経済の行方やAfDの親露姿勢により国家安全保障上の懸念などが指摘されている。
ドイツの「極右」傾向は「旧東ドイツで顕著」などと言われてきたが、その旧東独地域でAfDが今後も躍進を続ければ、「いずれドイツ全土にも波及しかねない」と心配する向きが増えるだろう。そうした懸念が現実味を帯びるからか、ドイツは勿論、欧米ではこの問題がかなり大きく報じられている。
これに比べれば日本での報道は必ずしも大きくない。そこで、今週のJapanTimesには「今日のドイツが明日の日本にならない理由」について書くことを考えている。とは言ったものの、中身はこれからだ。日本に「東独」問題はないし、「失われた30年」も少しずつだが、克服の兆しが見えてきたからだ。さて、どう書いたものか?もう一つ気になったのは、先週韓国政府が「原油輸送の要衝ホルムズ海峡を巡り、米軍支援のため軍の派遣を検討している」などと報じられたことだ。日本が「逡巡(?)」している間に、韓国や中国が艦船を出したら、目も当てられないではないか。これに対し、イラン外務省報道官は早速、「深刻な結果を招く」と警告した。どうなることか?
さて次は、吉岡明子主任研究員によるロシア関連コーナーだが、今週は同研究員がまとめた「インド人、AI、退役軍人も~深刻化するロシア極東の人手不足――ロシア・メディアより」を以下の通りご紹介する。遂にロシア極東地域での人手不足はここまで来たのか・・・、などと筆者はとても興味深く読んだ。特に引用されているプーチンの言葉(下線部分)には、彼の、と言うか、ロシアの、「対アジア観」が凝縮されているような気がした。
「インド人、AI、退役軍人も~深刻化するロシア極東の人手不足――ロシア・メディアより」
9月1~4日、ロシア極東のウラジオストクで「東方経済フォーラム(VEF)」が開催された。今回、主要テーマの一つとなったのが人口問題。ロシア極東地域は、ロシア全土の4割を超える広大な面積を占める一方、人口は全体のわずか5%余りにすぎず、ソ連崩壊後は減り続ける人口と労働力不足に悩まされてきた。
プーチン氏は大統領就任直後の2000年7月、ロシア極東のブラゴベシチェンスクを訪問し、「近い将来、われわれが実効的な取り組みを行わなければ、数十年後には土着のロシア系住民でさえ、主として日本語、中国語、朝鮮語を話すようになるだろう」「要するに、この地域がロシアの不可分の一部として存続できるかどうかの問題だ」と危機感を示したのは有名な話だ。以後、プーチン大統領は極東開発を国家的な優先課題と位置付け、国家予算を投じた大規模開発を進めるとともに、国内外からの投資を誘致、人口定着に向けても様々な優遇政策を実施してきた。
こうした取り組みもあり、極東からの人口流出にはここにきて多少の改善がみられるようだ。だが、開発を担う人手不足という問題は解消されていない。むしろ、ここ数年、ロシア全土で労働力不足が深刻化するなか、「大規模開発を進めたくても、人がいない」という極東が長年抱えてきた問題が、改めて大きな壁として浮上しているようだ。そこで今週は、ロシア極東の人手不足に注目し、その深刻な実態を伝える記事と、解決策を企業関係者らに尋ねた記事を紹介したい。
◆「沿海地方の投資プロジェクト、新たな人材需要を生み出す」9月7日付RBC(*一部要約)
沿海地方では5万2700件の求人が出ているのに対し、求職者は4800人程度と推計されている。 造船コンプレックス「ズヴェズダ」(注:ロスネフチなどが主導して建設を進めてきた、ロシア極東の大型造船所)では現在、約5000人が働いているが、必要な人員は約1万人に上る。 極東は依然として、ロシア国内でも特に人手不足が深刻な労働市場の一つとなっている。求人1件当たりの求職者数は平均6.9人で、ロシア全国の10人を下回る。一部分野では3人を下回っている。 特に人手不足が深刻なのは、現場の技能職、製造業、建設業、物流、採掘業、小売・商業、観光業である。また、企業が必要としているのは単に多くの人手ではなく、特定の技能を備えた専門人材だ。沿海地方では今後5年間に、さらに約2万5000人分の新たな雇用が創出される計画となっている。このため地方政府は、今後5~10年間に必要となる人材を予測し、育成につなげる「未来の求人バンク」の整備を進めている。
◆「東方経済フォーラム参加者、極東の人手不足を解消する方策を語る」9月3日付RBC(*一部要約)
RBCは東方経済フォーラムの参加者に対し、極東における人材不足を克服するために、どのような方策があると考えているかを尋ねた。
ボリス・チトフ(ロシア大統領特別代表):「正しい処方箋は、出生率を引き上げるための環境を整えることだが、現実的な処方箋は、外国人労働力の流入を確保することだろう」
アレクサンドル・ヴェジャーヒン(ズベルバンク取締役会第一副会長):「極東連邦管区の企業の65%が人手不足に直面している。問題は、労働者の数だけでなく、その能力・資質にもある」「人手不足を克服するための一つの処方箋は、外国人材の受け入れだ。特にインドは世界でも有数の労働力余剰を抱えている」
アレクサンドル・ショーヒン(ロシア産業家企業家連盟会長):「最も重要な処方箋は、労働生産性の向上だ。ロボット化や自動化、AI活用など技術的なアプローチが必要だ」
ヴェニアミン・グラバリ(LADOGA社長):「現在ある優遇住宅ローンや『極東1ヘクタール』などの制度は、十分に効果を上げていない。もっと直接的な形で条件を整える必要がある。・・・問題解決の鍵は、住宅、経済的支援、そして地域の教育制度の充実である。これらがなければ、人々を極東に定着させることは極めて困難だろう」
ミハイル・ザドルノフ(エコノミスト):「極東で深刻な人手不足を解消する方法は、①他地域を上回る経済成長、②交代勤務方式の採用、③外国人労働者の受け入れである」「外国人労働者については、1990~2000年代には、多くがウクライナ、モルドバ、中央アジア諸国からやってきていたが、現在はインド、バングラデシュ、ベトナムとなっている」「さらに忘れてはならないのは、北朝鮮人労働者だ。ソ連時代も含め、多くの北朝鮮人労働者がロシア極東の林業、建設業、農業など、さまざまな産業で働いてきた」(注:北朝鮮人労働者の受け入れは、国連安保理の対北朝鮮制裁決議で禁止されている。)
アレクサンドル・ヴァイノ(戦略イニシアチブ庁幹部):「国内の『潜在的労働力』として、大学生や高齢者、子育て中の女性、『特別軍事作戦』の参加者や退役軍人がいる。こうした人々には、柔軟な雇用形態や職業訓練が必要だ」
続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。欧米の外交
専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
9月7日 月曜日 米国・カナダ、レイバー・デイ休日
仏大統領、韓国大統領とともに、世界映画動画首脳会議を主催
9月8日 火曜日 カナダ、対米50%「報復」関税を発効
9月9日 水曜日 世界宇宙首脳会議(パリ)
ノルウェー、前国王葬儀
フィリピンでマニラ戦略フォーラム2026開催
米共和党大会開幕(ダラス)
9月10日 木曜日 The Rīga Conference 2026開催(ラトヴィア)
9月11日 金曜日 ユダヤ教新年(Rosh Hashana)
同時多発テロ、25周年
9月12日 土曜日 インド、BRICS首脳会議主催
米大統領アイルランド訪問、ゴルフトーナメントに出席
9月13日 日曜日 スウェーデンで議会選挙
最後はガザ・中東情勢だが、今週もホルムズ海峡をめぐる状況は変わらない。結論から言えば、イランは「少なくとも米中間選挙までは戦い続け、むしろ防戦から攻勢に移行しつつある」と言って良い。要するに、「戦争でも平和でもない」状態は当面続き、ホルムズ海峡についても「開いたり、閉まったり」する状態が続くということだ。報道によれば、イラン最高安全保障委員会の事務局長は、米軍が封鎖を続けるイランの港湾を起点に、ペルシャ湾の一部までを「制限区域」に指定し、通過した全ての船舶に制裁を科す方針だと述べたそうだ。これが6月17日に署名(?)された所謂「了解覚書」のイラン側解釈なのだろう。
イランは、これまでも許可なく原油輸送の要衝・ホルムズ海峡を通過しようとする船舶を攻撃してきた。今後米側の対応次第では、より強気に出て攻撃対象を更に拡大する可能性もあるとの見方が強い。また、イラン側はホルムズ海峡を巡り過去数週間オマーンと交渉してきた「新たな航路」を近日中に発表するそうだ。
どうせ、これも同床異夢、イランとオマーンそれぞれの領海を通過する航路を認め合い、イラン側は海峡半分を「管理」するということだろう。指定航路を通過する船舶から料金を徴収するなら、「国際海峡の自由航行」という大原則は崩れることになる。それでも日本は何もしないのかなぁ・・・・・。議論ぐらいしたら良いのに・・・・。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
(本稿のポイントの文責:Japan In-depth編集部)
トップ写真:ザクセン=アンハルト州議会選挙の結果を祝うAfDのアリス・ワイデル(右)、ウルリヒ・ジークムント(中央)、ティノ・クルパラ(左) 2026年9月6日・ドイツ マクデブルク
出典:Photo by Omer Messinger/Getty Images



























