無料会員募集中
.国際  投稿日:2026/11/6

アメリカ中間選挙の日本への影響


執筆:古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」1118回

 

【本稿のポイント】

・2026年11月の米中間選挙で野党・民主党が連邦議会の上下両院の多数を制し、トランプ大統領を支持する共和党の多数が逆転した。

・それでも日米同盟への影響は小さい。トランプ政権は第一期から同盟の堅持と増強を基本政策としており、民主党もトランプ政権のほぼ全政策に反対しながら、同盟の堅持では一貫して共和党と歩調を合わせてきた。

・新議会で米側から出るとすれば、日本の安全保障への貢献を増やして同盟に双務性を導入するという要求であり、それは同盟の強化にあたる。日米安保条約の実効的な適用に変動は予想されない。

 アメリカの中間選挙は共和党のトランプ陣営の敗北だった。野党の民主党は連邦議会の上下両院の多数を制した。上下両院ともにトランプ大統領を支持する共和党が多数派だったのが完全に逆転されたわけだ。

年来、この中間選挙は大統領の率いる与党に不利に展開する歴史があった。そのためか歴代大統統領は自分への信任選挙ではない、と表明してきた。だが今回はトランプ大統領がその伝統を破り、この中間選挙は自分への信任投票でもあると明言して、活発な選挙キャンペーンを展開した。しかしながら彼の支持した共和党候補は上院でも下院でも、多数の州や選挙区で敗北したのだった。

さてこのアメリカの国政の激変でなにが大きく変わるのか。政策面での変化を占うことは容易でもあり困難でもある。容易な部分は民主党側がとにかくトランプ大統領の政策にはほぼすべて反対するだろうという側面である。だがその一方、民主党側は内政でも外交でも、トランプ統治に反対という以外には明確な政策を示していない。今回の大勝利はいわばトランプ陣営の欠点、つまり敵失を突いての勝利だったのだ。民主党の政策が明らかでない以上、政策面でのこんごの両党のせめぎあいの内容や展望を明示することが難しいというわけだ。この点が困難な部分である。

しかし日本側にとってはまず気になるのは当然ながら今回の中間選挙の結果が日本にどんな影響を及ぼすか、であろう。私自身の長年のワシントンでのアメリカ国政の考察に基づいて、まずこの問いへの簡単な結論は述べるならば、「大きな変化はない」という読みである。

日本側では識者とされる人たちが「トランプ大統領の対日政策は予測が難しく、なにをするかわからない」と述べてきた。まずこの指摘が事実とは異なる。トランプ大統領は第一期の就任の2017年以来、日米同盟の重視を一貫して鮮明にしてきた。日本側の識者とされる向きは「トランプ政権は日本にも防衛費の大幅な増額を求める」と断じて、国内総生産(GDP)の3・5%という期待数字まで指摘することがある。だがこの点も事実に反する。

トランプ政権は大統領自身も含めて日本政府に具体的な数字をあげて、防衛費の増額を迫ったことは一度もないのだ。もしあれば明示してほしい。

 

 トランプ政権は安倍政権から菅政権、岸田政権という流れのなかで日本側が自発的に防衛費の大幅増額を決めたことを前向きに受け入れてきたのだ。その経過での数字はGDPの2%強というあたりだった。ちなみにGDPの3・5%の防衛費支出というのはトランプ政権が北大西洋条約機構(NATO)の欧州諸国に求める数字である。日本への対応は異なるのだ。

 しかもトランプ政権はこの10年もの間、一貫して日米同盟の堅持と増強を基本政策としてきた。この点ではいささかの揺らぎもないといえる。日米同盟とその結果としての在日米軍の存在こそがインド太平洋全体でのアメリカ自身の国家安全保障には肝要となるという基本戦略に由来する政策だった。その背景には中国の軍事がらみの膨張への抑止という政策が厳存する。

 トランプ政権のこの対日政策、つまり日米同盟の堅持策が中間選挙での民主党の勢力拡大によって変わってしまうという予測にはなんの根拠も論理もない。

 

 さらに重視すべきは民主党側も年来、日米同盟の堅持という政策を保持してきた事実である。民主党は内政でも外交でも、とにかくトランプ大統領の施策には反対してきた。だが反対はせず、共和党側と歩調を合わせるという施策も少数ながら存在してきた。その一例が日米同盟堅持なのである。

 超党派の日米同盟堅持策のわかりやすい具体例は「アーミテージ・ナイ報告」である。共和党保守派のリチャード・アーミテージ氏と民主党リベラル派のジョセフ・ナイ氏が1992年以来、共同で日米同盟の強化策を毎年のように提言してきた。そのなかでは日米同盟の片務性をなくすためには日本の憲法第9条の改正までが必要だと明言してきた。

 つまり共和党も民主党も日米同盟の堅持と強化という基本線には年来、一貫して賛成であり、疑念の表明というのは皆無に近いという歴史が続いてきたのだ。アメリカ側での日米同盟への批判に近い意見といえば、日本の憲法での制約のために日本側の同盟への寄与が十分でないとする、片務性への不満だった。

だから来年1月からのアメリカ新議会でも両院で多数を制する民主党側から日米同盟のあり方を変えるという主張が出てくる見通しはまずない。もし出るとすれば、日本側のアメリカの安全保障への貢献度を増すこと、つまりはいまの同盟にもう少し双務性を導入することぐらいだろう。この主張は日米同盟の強化である。この点では共和党側一般にも、トランプ政権にも異存はないといえる。

さらにトランプ大統領は日本の高市早苗首相とは安全保障面での意見を円滑に一致させている。トランプ大統領は高市首相に対して直接に「日米同盟はアメリカのアジア戦略での礎石だ」と述べ、日米両国の安保主体の連携は「いまや黄金時代にある」とまで強調した。

 

 一方、議会でも民主党側も高市首相への支持を明確にしている。私自身、高市首相の訪米の直前、3月中旬にアメリカ議会内での日米関連の大規模なレセプションに出たが、そこではトランプ陣営をふだんは酷評する民主党リベラル派のマーク・タカノ下院議員らも声をそろえて、高市首相の訪米を歓迎するとして、その政策までも賞讃していた。

だから今回の中間選挙の日本への影響としては、日本側にとっての最重要な要素だといえる日米同盟、つまり日米安保条約の実効的な適用に関してはなんの変動も予想されないといえる。日本側ではまずトランプ大統領の日本観に疑惑を述べ、さらに民主党の進出による日本への安保面での新たな要求などへの懸念を述べる向きも少なくない。だがワシントンでの国政の現実をよくみてからそんな懸念は述べてほしいと望みたい。

 

#この記事は日本戦略研究フォーラムのサイトに掲載された古森義久氏の寄稿論文の転載です。

 

【よくある質問(FAQ)】

Q1. 「アーミテージ・ナイ報告」とは、どんな文書なのか?

  1. 第1弾は2000年10月11日に米国防大学国家戦略研究所(INSS)が特別報告として公表した「The United States and Japan: Advancing Toward a Mature Partnership」で、リチャード・アーミテージ氏、ジョセフ・ナイ氏を含む16人の研究会による日米同盟の強化提言である。第2弾「The U.S.-Japan Alliance: Getting Asia Right through 2020」は2007年2月16日に公表された(報告書原文(2000年)、防衛研究所の分析)。

Q2. 米側が欧州に求める「GDP比3.5%」とは、何の数字なのか?

  1. 2025年6月25日のNATOハーグ首脳宣言で、加盟国が2035年までに中核的防衛費としてGDP比3.5%以上を投じることで合意した水準である。インフラや防衛産業基盤などの関連分野1.5%を含めると、合計でGDP比5%になる(NATO ハーグ首脳宣言)。

Q3. 中間選挙を受けた新しい連邦議会は、いつ始まるのか?

  1. 合衆国憲法修正第20条第2節により、新しい議会は奇数年の1月3日正午に召集される。したがって今回の中間選挙を受けた議会は2027年1月3日に始まる(米上院の解説)。

 

(本稿のポイント、よくある質問(FAQ) の文責はJapan In-depth編集部。)

 

トップ写真:トランプ大統領、大統領執務室を国定記念物とする大統領令に署名 ワシントンD.C. – 2026年11月5日:ドナルド・トランプ米大統領は、ワシントンD.C.のホワイトハウス大統領執務室で行われたイベント後、反応を示した。トランプ大統領は、大統領執務室と閣議室を国定記念物とする大統領令に署名した。

出典:Photo by Andrew Harnik/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."