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.経済  投稿日:2026/7/12

2026年FIFAワールドカップ北中米大会が巻き起こす地殻変動「AANHPI」とは… ドジャース大谷現象と共通する市場


執筆:松永裕司(Forbes Official Columnist)

 

【本稿のポイント】

・米国では、アジア系アメリカ人、ネイティブハワイアンらを指す「AANHPI」層がこの25年で倍増、購買力やスポーツ、デジタル分野で注目。

・AANHPI層は全米平均を上回るサッカー人気を示し、BTSのW杯決勝ハーフタイムショーやオリヴィア・ロドリゴ×FCバルセロナ、ドジャースでの『ONE PIECE』コラボなど、スポーツとポップカルチャーの融合も進んでいる。

・AANHPI成人の45%はストリーミング中心で視聴する「コードネバー」。日本企業の「オーセンティシティ」と「おもてなし」は、この層の価値観と親和性が高い。

 

W杯北中米大会決勝の舞台となっている米国において現在、存在感を高めているのが、アジア系アメリカ人、ネイティブハワイアンらの総称「AANHPI」層だ。本稿では、ニールセンの最新レポートや、大谷翔平、BTS、オリヴィア・ロドリゴ、ドジャース×『ONE PIECE』などの事例をもとに、AANHPI層の消費行動やスポーツとの関わり、日本企業が北米市場で活かせる「オーセンティシティ」の価値を、Forbes Official Columnist・松永裕司氏が読み解く。(Japan In-depth編集部)

 

2026年FIFAワールドカップ北中米大会が19日(日本時間20日)に決勝を迎える中、本大会は単なるスポーツの祭典ではなく、マーケティング上、社会構造と未来を占う地殻変動をも映し出している。舞台となっている米国において現在、熱視線を浴びているのが、アジア系アメリカ人、ネイティブハワイアン、太平洋諸島系、総称「AANHPI」だ。

 

日本では、まだまだ馴染みのないAANHPIだが、劇的な購買力の伸び、強いスポーツへのロイヤルティ、そしてデジタルメディアの利用実態を持つAANHPI層こそ、今後のマーケティングの最前線であり、日本企業が特に北米で生き抜くための「最適解」となるかもしれない。

 

自分たちを単一民族だと見なす器量の狭い日本と異なり、他民族が同居するアメリカの人口構成は刻々と変化している。米国国勢調査局(U.S. Census Bureau)による2025年のデータによると、現在、白人が56%、ヒスパニックが20%、アフリカ系が13%、アジア系6%、太平洋諸島系1%とされている。

 

いわゆるマイノリティ(白人以外の少数民族)は、21世紀に入るまでアフリカ系が最大勢力だったが2000年頃にヒスパニックが12.5%で12.1%のアフリカ系を上回った。同時期アジア系は3.6%に過ぎなかったため、AANHPI層はこの四半世紀で倍の勢力へと成長著しい。ちなみにアラブ諸国はこのアジア系に含まれず、パキスタンから東の国々出身者を指す。よってヴァンス副大統領夫人、インド系のウーシャ・ヴァンスも、AANHPIを代表する人物とみなされている。

 

主流派である白人は2000年時点で69.1%。白人:マイノリティ=70:30だったのが、四半世紀で56:44と変化している点も念頭に置く必要がある。2000年1月1日発行の「ニューヨーク・タイムズ」紙は「2100年までに純粋な白人はほぼ消滅する」と予測した。

 

ドジャース現象の真実と、見落とされがちな巨大経済圏

では今、なぜ日本、もしくは日本企業がAANHPI市場を理解すべきか。その答えは、我々が連日目にするMLBロサンゼルス・ドジャースにある。

 

大谷翔平や山本由伸の歴史的な躍動により、スタジアムには数多くの日本ブランドの広告が掲げられている。では、現地でスタンドを埋め尽くし、グッズを買い求め、熱狂を生み出すオーディエンスの正体を、どれほど高い解像度で捉えているだろうか。

 

その正体はただの地元ファンではない。米国主要都市で急速に人口と購買力を伸ばしているAANHPIだ。ドジャースが北米で最も商業的に成功したスポーツフランチャイズの一つとなり得た背景には、伝統に強い誇りを持ちつつ、アジアや太平洋のルーツと米国のカルチャーを自在に行き来するAANHPIによる共鳴がある。

 

2026年6月に発表されたニールセンのリポートは、このファン層がW杯を通じ、全米規模で急成長するとしている。

 

「成長の記憶」としてのサッカー:データが物語るロイヤルティ

データによると、アジアの大部分の地域において、サッカーは「国技」とも言える圧倒的な地位を確立している。インドネシア、タイ、韓国、シンガポールで人気第1位を誇り、インドや日本でもトップ2にランクインする。この地域にルーツを持つ移住者の強烈な文化的な背景は、世代交代を経てもAANHPI層にも脈々と受け継がれている。

 

サッカーに関心を示す割合は全米平均で28%だが、アジア系では33%に達し、ネイティブハワイアンおよび太平洋諸島系(NHPI)では37%にまで跳ね上がる。

 

ここで注目すべきは、単なる関心度の高さではなく、その質。アジア系の23%が「W杯は自身の文化における成長過程の一部だった」と回答、全米平均の17%を上回る。

 

ワンピース、BTSそしてロドリゴが示す未来

かつて米国におけるAANHPI向けマーケティングは、特定の言語を使った「マイノリティ向けのニッチな広告」として扱われた。しかし今、AANHPIのカルチャーは、今や世界のポップカルチャーを牽引するメインストリームそのものだ。

 

その象徴が、スポーツとカルチャーを融合させたマイルストーンの数々。2026年W杯決勝ハーフタイムショーで、韓国のグループBTSがマドンナ、シャキーラらとともに史上初の共同ヘッドライナーを務める。フィリピン系アメリカ人のオリヴィア・ロドリゴとFCバルセロナがコラボした限定ユニフォームは、スポーツの熱狂がファッションを通じて新しいアイデンティティ表現へ昇華した例である。もちろん、着ぐるみのモンキー・D・ルフィーが、ドジャースタジアムで始球式に登場し、喝采を浴びるのは、そんな意味がある。

 

日本が誇るコンテンツ、ゲーム、ファッション、そして世界で躍動するアスリートたちは、AANHPIが愛してやまないアジア太平洋の誇りという文脈に極めて近い。日本企業は自社を単なる外様ではなく、グローバルなルーツに誇りを持つコミュニティの共感者、伴走者として再定義することで、欧米のブランドには真似のできない熱狂的な支持を勝ち取ることが可能なはずだ。

 

デジタル時代のメディア戦略

ニールセンの最新調査では、AANHPIの成人の45%が「一度もケーブルテレビなどの従来型有線放送を契約したことがない層=コードネバー」であることが判明。これは米国のどのグループよりも圧倒的に高い。

 

「地上波テレビのプライムタイムに広告を流せば消費者に届く」という時代は終焉を迎えた。AANHPIは徹底した「ストリーミング第一」の視聴行動をとり、デジタルプラットフォームを自在に使いこなし、自身のアイデンティティと共鳴するコンテンツを能動的に消費している。

 

企業に求められるのは、一般的な広告枠の買い付けからの脱却だ。ストリーミングサービスやSNSのバーティカル動画といった、AANHPIが「実際に熱中し、日常の時間を費やす場所」を特定、従来の枠にとらわれないデータドリブンなアプローチでデジタル動線を正確に捉えることが、熱量の高いアクセスを獲得する唯一のパスとなる。

 

日本企業の「オーセンティシティ」という武器

グローバル市場を見据えたとき、日本企業が優位性を握る最大の鍵が「オーセンティシティ(本質・真正性)」。

 

情報過多のデジタル社会において、AANHPIは「本質的なつながり」と「自分たちの物語への誠実なリスペクト」を鋭く求めている。表層的な「アジア風の記号」を並べた便乗キャンペーンは瞬時に見透かされ、ブランド価値を損ねる。

 

AANHPIが支持するのは、自社の歴史やものづくりへの誠実な情熱を語り、コミュニティの文化や成長の記憶に対して共鳴しようとするブランドだ。日本企業が培ってきた細部へのこだわりや、相手の背景を尊重する「もてなし」の精神は、このオーセンティシティを渇望する価値観と極めて深いレベルで合致している。

 

ドジャースタジアムに轟く歓声は、多様なバックグラウンドを持つ人々がスポーツを通じて一つになり、自身のルーツと誇りを共有する新時代の鐘の音だ。その熱量は、2026年W杯を皮切りに、全米へ、そしてそのルーツである世界市場へと増幅していく。

 

日本にとって、米国における地殻変動は決して海の向こうの他人事ではない。ニールセンが提示した「AANHPIのスポーツファンとつながる」ためのインサイトは、世界市場の扉を叩くすべての日本企業に対し、マーケティングの進化とビジネス構想の転換を示している。

 

そもそも人口構成において、アジア人は全世界人口の60%を占めている。日本企業がAANHPI層に無頓着であるとするなら、欧米に追従するあまり、そんな事実も見落としているのかもしれない。

 

【よくある質問(FAQ)】

Q1. 米国のアジア系人口はどれくらいか?

A1. 米国国勢調査局のVintage 2024推計によると、2024年7月時点でアジア系人口は約2,280万人、米国総人口の約6.7%を占める。アジア系は年率約4.2%増と、あらゆる人種グループの中で最速の成長率を記録している。2000年以降、アジア系人口は約1,190万人から倍以上に増加した。

 

Q2. AANHPIの購買力はどれくらいの規模なのか?

A2. ニールセン2026年6月レポートおよびニールセン別レポートによると、AANHPIの購買力は2022年時点で1.6兆ドル規模に達したとされ、2000年以降で3倍以上に拡大した。米国内での実質可処分所得も、他の人種グループを平均で上回る傾向にある。

 

Q3. 「バーティカル動画」とは何か?

A3. スマートフォンの縦画面に最適化された、9:16などの縦長比率の動画コンテンツを指す。TikTok、Instagram Reels、YouTube ShortsなどのSNSで主流となっており、従来のテレビや動画配信サービスで使われる横長比率(16:9)の動画とは異なる。若年層とデジタルネイティブ層への到達力が高く、AANHPIのようなストリーミング第一・モバイル中心の層に対して特に有効なフォーマットとして注目されている。

 

シリーズ紹介・バックナンバー

本連載は、スポーツを切り口に、ビジネスやテクノロジー、社会構造の変化を読み解く松永裕司によるコラムです。個別の競技やイベントを超えて読み進めることで、現代社会におけるスポーツの意味と役割を立体的に理解することができます。

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(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)

 

トップ写真:ドジャー・スタジアムで開催された「ワンピース・ナイト」の一環として、ファンたちが配布された『ワンピース』の帽子をかぶって記念撮影をしている様子 2026年7月2日・カリフォルニア州ロサンゼルス(アメリカ)

出典:Photo by Ross Turteltaub/Getty Images




この記事を書いた人
松永裕司Forbes Official Columnist

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 「あらたにす」担当/東京マラソン事務局初代広報ディレクター/「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。


出版社、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験から幅広いソリューションに精通。1990年代をニューヨークで、2000年代初頭までアトランタで過ごし帰国。

松永裕司

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