「仕事に行け!」デモに疲弊するフランス市民 商店襲撃、学校放火、公共交通破壊の代償
執筆:Ulala(著述家)
本稿のポイント
・フランスでは2026年11月5日、生活費高騰や賃金改善を求める全国的なデモが行われ、政府発表で約57万5000人、労働組合CGTの発表で約157万人が参加。
・商店の略奪や学校への放火、公共交通機関の破壊などにより、抗議活動とは無関係の一般市民や商店主にも深刻な被害が広がっている。
・デモを行う権利を守る一方、平穏に生活する市民の安全と権利をどう守るかが、フランスだけでなく日本にとっても重要な課題となっている
2026年11月5日、フランスでは生活費の高騰や賃金改善を求める全国的なデモが行われ、政府発表で約57万5000人、労働組合CGTの発表で約157万人が参加した。しかし、10月17日の大規模デモ以降、商店の略奪や破壊、学校への放火、公共交通機関の損壊なども相次ぎ、一般市民の生活に深刻な影響を及ぼしている。抗議する自由と、平穏に暮らす市民の安全をいかに両立させるべきなのか。フランスで起きている一連の出来事から、日本社会が学ぶべきことをフランス在住のUlala氏が考える
11月5日、フランスでは生活費の高騰や賃金改善を求める全国デモが行われた。参加者は政府発表で約57万5000人、労働組合CGTの発表では約160万人に達したという。10月17日の大規模デモと暴動から約3週間。抗議活動は今も続いている。
しかし、現在、問題になっているのはデモそのものではない。商店の略奪や破壊に加え、高校や大学、公共交通機関まで被害を受け、普通に生活している市民に大きな負担がかかっていることだ
「仕事に行け!」デモにうんざりするフランス市民
11月5日、ラジオ局Europe 1は、デモに怒りを感じているリヨン市民の声を紹介した。33歳の配管工クレマンさんは、自分は働いて家族を養い、誰にも迷惑をかけていないと説明。デモ参加者に対して「仕事に行け、人々に迷惑をかけるな」と厳しく批判した。工業設備の保守を担当するステファンさんも「デモをするのはいつも同じ人たち。彼らは全員の利益になると思っているが、そうではない」と話している。
もちろん、これは一部の市民の意見だ。しかし、フランス人全員がデモを支持しているわけではない。それでも、このように感じている人がいることも事実なのである
商店主の売り上げは30〜50%減少、護身用の武器まで購入
パリの商店主たちも深刻な状況に置かれている。
11月5日のEurope 1によると、ある花屋は「デモの日には客が来ない」と証言。衣料品店では、外国人観光客が混乱を恐れて来店を控えているという。商店主の一人は警備費用だけで5000ユーロ以上を支出した。別の商店主アンナさんは、周囲の店の売り上げが30〜50%減少していると話した。
さらに衝撃的なのが、商店主や一般市民が護身用品を買い始めたというニュースだ。TF1によれば、10月17日の暴動後、パリの一部の武器店では護身用品の売り上げが通常の10倍に増加。催涙スプレーやゴム弾を発射する器具などを、商店主だけでなく医師や一般住民も購入しているという。
このことからも現在フランスの一部の地域では、普通に商売をしている人々が、自分の身を守るために武器を購入するほど不安を感じていることは間違いないだろう
今度は高校が放火され、消防士まで攻撃!
11月5日には、トゥールーズ近郊トゥルヌフイユの高校が襲撃された。報道によると、朝8時頃、約30人の覆面集団が学校に侵入。花火を発射する器具を使って攻撃し、校内の建物に放火した。約60人の消防士が出動したが、消火活動中の消防士にまで花火が撃ち込まれたという。幸い負傷者はいなかったものの、建物は大きく損傷し、学校は休校となった。このように、教育環境の改善を求める抗議活動が続く中で、学校が破壊されるという事態は深刻だ。
実は10月1日にも、ナントのネルソン・マンデラ高校で放火事件が起きている。修復費用は約400万ユーロ、約6億5600万円に達すると報じられた。11月3日には放火に関与した疑いで3人が拘束されたが、なんと3人とも同校の生徒だったという。有罪が確定したわけではないものの、驚くべき事件だ
大学まで破壊!壁一面の落書き、割られた窓ガラス
トゥールーズのジャン・ジョレス大学、通称ミライユ大学でも、学生らによる占拠と施設の損壊が問題になっている。10月初旬から高校生の抗議運動を支持する学生らが大学の一部を占拠した。公開された映像には、壁一面の落書き、割られた窓ガラス、荒らされた教室やトイレが映っていた。壁には「ANTIFA」や警察を侮辱する言葉も書かれている。
教育環境を改善してほしいと訴えながら、教育施設が破壊される。その修復費用は、本来なら教育や研究に使えたかもしれないお金なのだ
生活費高騰に抗議して、公共交通機関まで破壊
ボルドーでも、デモに伴う公共交通機関の破壊が問題になっている。報道によれば、10月17日、24日、31日の3回の土曜日だけで、トラムやバス停、券売機などの修理費用が25万ユーロを超えたという。ヴィクトワール広場で焼かれた券売機は、1台で7万ユーロ以上の被害。利用者の減少による運賃収入の損失も含めると、被害は80万ユーロを超える可能性があるとされる。
生活費が高すぎると抗議しながら、市民が毎日利用する交通機関を破壊する。結局、その修理費用は誰が払うのだろうか。バス会社は利用者が払うことは否定して、破壊者が払うべきとしているが、身元をたどれないのにそれがどこまで実現できるかはわからない
2500以上の商店が被害、その負担は社会全体へ
10月17日以降の暴動では、10月末までに2500以上の商店や企業が被害を受けたと報じられている。店を破壊され、商品を奪われ、営業を再開できない商店主もいる。しかも、保険に加入していても、すべての損害が補償されるとは限らない。
フランスでは現在、2027年に向けて、暴動による損害を広く分担する保険制度も議論されている。保険料への追加負担が実現すれば、暴動に関係のない市民まで費用を負担する可能性がでてきているのである
抗議する権利はある。では、普通に暮らす人々の権利は?
フランスでは、デモは民主主義を支える重要な権利だ。しかし、学校を良くしてほしいと訴えながら学校を破壊し、生活を良くしてほしいと訴えながら商店や公共交通機関を壊すことが、許されてよいはずがない。もちろん、平和的に抗議する人々と、放火や略奪を行う人々は区別しなければならない。しかしながら、暴動をすべて「移民の仕業」「極左の仕業」と決めつける言動もでてきているが、それも適切ではない。今回の火災などの容疑者をみても、高校生、一般市民、極左と実行した人物像は様々だ。どの集団が意図的に行動したとは言い難いのだ。
今回、特に印象的だったのは、フランスの商店主たちが護身用品を買い始めたというニュースだ。普通に働き、学び、暮らしている人々が、自分の身を守るために武器を買わなければならないと感じる社会。
今は平穏な日本も、社会の構造が変わってきている中、将来このような状態になるかもしれない。 抗議する自由を守ることと、普通に暮らす市民の安全を守ること。その両方を実現していくにはどうしていくべきか?フランスの一連の出来事から日本が学ぶべき最も重要な点は、そこにあるのではないだろうか
よくある質問(FAQ)
Q1. 2026年11月5日のフランスのデモには何人が参加した?
A.フランス内務省によると、全国で約57万5000人が参加した。一方、労働組合CGTは約157万3000人と発表しており、両者の集計には大きな開きがある。
Q2. フランスでデモや抗議活動に伴う暴力が問題になっているのはなぜか?
A.2026年10月17日の大規模デモ以降、商店の略奪や破壊、学校への放火、公共交通機関の損壊などが相次いでいるためだ。抗議活動そのものだけでなく、無関係の市民や企業に及ぶ被害が社会問題になっている。
Q3. フランスでは商店主が護身用品を購入しているのか?
A.はい。2026年10月17日の暴動後、パリなどの武器店では催涙スプレーやゴム弾を発射する器具などの販売が急増した。TF1の報道では、一部店舗や専門サイトで売り上げが通常の10倍になったという。購入者には商店主、医師、一般市民も含まれている。
Q4. フランスの学校や大学ではどのような被害が起きているのか?
A.2026年10月1日にはナントのネルソン・マンデラ高校で火災が発生し、修復費用は約400万ユーロと見積もられた。また、11月5日にはトゥールーズ近郊のトゥルヌフイユでも高校が襲撃され、放火や施設の損壊が発生した。大学でも占拠活動や施設の損壊が問題になっている。
Q5. フランスの一連の暴動から日本が学ぶべきことは何か?
A.デモや抗議活動を行う自由を保障すると同時に、一般市民の安全や財産、日常生活を守ることだ。平和的な抗議と暴力・略奪を明確に区別し、社会全体で市民の権利と安全を両立させる仕組みを整えることが重要である
(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)
トップ写真:デモを通して路上に残された焼け跡 フランス・パリ 2026年10月17日
出典:Photo by Carl Court/Getty Images
参考リンク
– Europe 1|11月5日、リヨン市民の怒りhttps://www.europe1.fr/societe/mobilisation-du-5-novembre-allez-bosser-a-lyon-des-artisans-et-petits-patrons-denoncent-les-manifestations-1210292
– Europe 1|パリの商店主の不安https://www.europe1.fr/societe/plus-de-5000-euros-rien-que-pour-me-securiser-a-paris-des-commercants-inquiets-avant-une-nouvelle-journee-de-mobilisation-1208897
– TF1|暴動後、護身用品の販売急増https://www.tf1info.fr/societe/on-est-en-rupture-de-stock-apres-les-violences-du-17-octobre-les-ventes-d-armes-de-defense-en-hausse-2471385.html
– TF1|ナントの高校放火事件
– DNA|2500以上の商店が被害



























