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スポーツ  投稿日:2026/1/6

【2026年を占う】スポーツ 大谷翔平のデモグラ革命からサッカーワールドカップイヤーのスポーツトレンド「感情を捨てデータで語れ」



松永裕司(Forbes Official Columnist)

 

【まとめ】

・最新データは、大谷翔平の活躍によるMLB視聴者の多様化、リニア放送とOTTの世代補完関係、女子スポーツの高い購買意欲など、スポーツビジネスの構造的変化を明確に示している。

2026年に向けて、ハイブリッドなメディア戦略や、ドキュメンタリーによるナラティブ創出が、ファン拡大とROI最大化の鍵となる。

・日本のスポーツ・企業界が勝者となるには、データに基づきファン・メディア・目的を再設計できるかが分岐点となる。

 

米マーケティング企業ニールセンスポーツが2025128日に発表した最新レポート『Tops of Sports 2025』によると、2026年のスポーツビジネスを形つくる次世代トレンドが見えて来る。これは単なるトレンドの羅列ではない。刻一刻と変化する各種メディア環境とそれをフォローするファンの行動様式を「データ」化したGPSによるスポーツマーケティングの「ナビ」である。

2025年は、米スポーツビジネスにとって象徴的な一年となった。第59回スーパーボウル(Super Bowl LIX)は、新記録となる12,700万というテレビ視聴者数を獲得、歴史を塗り替えた。さらに1027日には、MLBNFLNHLNBAMLSという北米5大プロスポーツリーグが同日試合開催という、極めて稀な「スポーツ秋分の日(Sport Equinox)」が実現、全米がスポーツ一色に染まった。

こうした華々しいヘッドラインの裏側で、スポーツマーケターが真に見るべきは、なにか。静かに、しかし確実に進行している「構造的な地殻変動」のはずだ。なぜ、MLBの視聴者は突然多様化したのか。なぜ、Z世代はテレビを視聴せずしてスポーツ観戦するのか。女子スポーツが投資対象として急浮上しているのか。本レポートに含まれる膨大なデータセットを用い、これらすべての問いに対する答えを因数分解。2026年以降のスポーツビジネスで勝者となるためにもはや感情論や素手で立ち向かう時代は終焉を迎えた。データを読み解き、その裏に潜む現実と向き合う知力と果敢さが不可欠だ。

【大谷翔平が引き起こしたデモグラフィックの大革命】

2025年のスポーツシーンを語る上で、ロサンゼルス・ドジャースのワールドシリーズ連覇、そして大谷翔平の大活躍を避けて通ることはできない。だが、我々が注目すべきは、彼が積み上げた本塁打数やMVPなど賞レースのトロフィーではない。「ShoTime現象」が引き起こした「デモグラフィックの革命」だ。

データは嘘をつかない。米国におけるMLBポストシーズン総視聴時間は、前年比で24%増加、驚異的な582億分に達した。大谷の圧倒的な活躍と文化的影響力により、ポストシーズン全体のアジア系視聴者も23%上昇。「野球ファン=高齢の白人男性」という従来のステレオタイプは、完全に過去のものとなった。さらに衝撃的なのはMLB開幕・東京シリーズの視聴データだ。前年にソウルで開催されたシリーズと比較し、アジア系アメリカ人の視聴者は113%増と倍増以上を記録した。この国際イベントにおけるアフリカ系アメリカ人の視聴者も前年比111%増、そしてラテン系アメリカ人に至っては200%以上という爆発的な増加を見せた。総視聴者数でも107%増だ。

この結果、25年のMLBポストシーズンの視聴者構成比において、アジア系は前年の5.8%から6.1%へとシェアを拡大。またラテン系の視聴者比率が14.3%に達した。これは、NFLNBANHLを含む米4大スポーツの中で、MLBが最もラテン系の割合が高いスポーツになったことを意味する。

特定の民族性に響くスターの存在は、単にそのコミュニティを惹きつけるだけでなく、リーグ全体のデモグラフィックを塗り替え、市場全体を底上げする力を持つ。近年、猫も杓子も大谷およびドジャースのスポンサーを目指す日本企業にとっても、この「多様性の数字」は、マーケティング戦略を根本から見直す契機となるはずだ。もはやファンを「静的な属性」として見るのではなく、「進化する文化的な力」として捉え直す必要がある。日本企業がこうしたマーケティング・データをどこまで学ぶ意思があるのか、根本的な問題も含む。データも眺めずし、テレビ中継にかじりつき「うちの看板が映った」「看板方向にホームランが飛んだ」と一喜一憂しているだけの経営層は時代遅れ。KPI設定に齟齬はないか憂うばかりだ。

【プラットフォームによる「年齢的断層」をどう乗り越えるか】

長らく議論されてきた「テレビ(リニア放送)」か「ストリーミング」かという二項対立は、無意味である。ニールセンスポーツのデータは、両者がカニバる(共食い)のではなく、互いに全く異なる層を補完し合う「共存関係」にあるという事実だ。

米三大ネットワークのひとつNBCの看板番組『サンデーナイトフットボール』の視聴者データは、残酷なまでの「年齢的断層」を浮き彫りにしている。地上波放送(NBC)の視聴者構成を見ると、65歳以上が33.0%を占め、50-64歳層が29.7%と続く。つまり、視聴者の過半数が50歳以上で構成されているのが現状だ。一方で、18-34歳層はわずか12.1%に過ぎない。

対照的に、同局のストリーミングサービス「Peacock」での視聴者構成は、18-34歳層が25.9%と倍以上のシェアを誇り、35-49歳層が29.3%で最大勢力に。逆に、地上波で主要層だった65歳以上は9.9%まで低下する。

同様の現象は、FOXによるスーパーボウル中継でも確認されている。FOXは、傘下の無料広告型ストリーミングテレビ(FAST)である「Tubi」でも同時配信を行った。その結果、Tubiの視聴者層(プラットフォーム全体の利用傾向含む)は、18-34歳層が26.2%35-49歳層も同率の26.2%を占めるなど、放送波よりも圧倒的に若い層を獲得することに成功。さらに「Peacock」では2-17歳の層も11.5%存在しており、将来のファン層の入口としてOTTが大いに機能していることがわかる。

このデータが示唆する2026年のメディア戦略は明確だ。「独占配信」でプラットフォームを絞ることは、視聴者層の半分を切り捨てることに等しいという点だ。日本の視聴スタイルが、まさに今、眼の前に抱えている大問題を、まざまざとみせつけている。

2026年の日本では、ワールドベースボールクラシック(WBC)をNetflixが、サッカーW杯をDAZNがそれぞれ独占放送と決定しているものの、こうした年齢的断層を生み出す放映権の取得方法は、米市場を眺める限りは、戦略ミスとして過言ではなさそうだ。むしろリニア放送(テレビ)で広範なリーチと高齢層の認知を維持しつつ、ストリーミング/OTTで若年層や特定のコミュニティを刈り取る。この「ハイブリッド配給」こそが、全世代をカバーし、総合的メディア価値を最大化する解であると、ニールセンのレポートは明快に回答している。

ひょっとすると、日本でこの解を提示するのが、今季のF1放映権なのかもしれない。26年よりフジテレビが放映権を奪還。現在のところ地上波を含め、FODなどプラットフォームを問わず、F1の価値を最大化して提供するとしている。これにより、唯一の日本人ドライバー角田裕毅を欠きつつも、日本市場において、F1人気のさらなる隆盛を具現化できれば、フジテレビの勝ち筋が見えて来る可能性は大きい。WBCF1W……日本における視聴スタイルとして、どの選択肢が本当の「勝ち組」となるのか、このレポートをもとに、注視したい。

【米女子スポーツの特色、「44%」の購買意欲と「3930万人」の市場】

北米における女子スポーツリーグの視聴者数は軒並み上昇傾向にある。NWSL(女子サッカー)の視聴者数は前年比5%増の216,196人。WNBA(女子バスケットボール)は2%増の704,760人。NCAA女子ソフトボールも5%増の421,578人を記録した。

特筆すべきは、ファンベースの「量」と「質」の劇的な変化だ。NWSLのファン人口は、2023年の3,080万人から、2025年には3,930万人へと、わずか2年で約1.3倍に急拡大。 そしてマーケターにとって最も重要なのが、ファンの「質」、すなわち購買意欲である。データによれば、女子チームスポーツのファンは、一般のスポーツファンと比較し「スポンサーブランドの商品を購入する可能性」が44%も高い。高級ファッションブランドの「Coach」がWNBAとオフィシャルパートナーシップを結んだ背景には、この高いコンバージョン率への期待がある。

また、ファン層のジェンダー構成も変化している。現在、NWSLファンの64%は男性であるが、女子スポーツ全体で見ると女性ファンの割合は年々上昇しており、2022年の45%から2024年には47%に達した。予測では、30年までに女子サッカーファンの60%が女性になるとされており、女性消費者へのダイレクトなリーチ手段として、その価値はさらに高まるだろう。「3,930万人の巨大市場」と「44%高い購買意欲」。この数式を無視できる企業は、存在しないはずだ。

果たして、日本女子スポーツ市場は、いつになったら、この数字を追うことができるのか。これもまた日本スポーツ界が抱える、もっとも大きな課題である。

【「北米の覚醒」、サッカーW杯開催へのカウントダウン】

アメリカ、カナダ、メキシコと北米3カ国で合同開催される2026年のFIFAサッカー・ワールドカップは611日、メキシコシティにて開幕となる。

世界で最も人気のあるスポーツされるサッカーは、その世界的なファン率が平均で51%に達するが、米国においては長らく27%に留まり、「サッカー不毛の地」とさえ呼ばれてきた。しかし、大会を目前に控え、この「最後のフロンティア」がついに覚醒しようとしている。

2025年、米国で開催された新フォーマットの「FIFAクラブワールドカップ」や「UEFA女子EURO」などの国際大会が起爆剤となり、米国内でのサッカー視聴者数は倍々ゲームの様相。南米選手権「コパ・アメリカ」の平均視聴者数は、2021年の約70万人から、2024年には163万人(1638,717人)へと倍増以上の伸びを見せた。北中米カリブ海地域の王者決定戦「CONCACAFゴールドカップ」も同様に、2023年の約66万人から、2025年には79万人(794,268人)へと約20%の視聴者増を記録している。

さらに注目すべきは、将来への期待値だ。米国人の37%が「今後18カ月でサッカーへの関心が高まる」と回答。ワールドカップイヤーとなる2026年、主要都市での試合開催も相まって、ファンの熱量は最高潮に達するだろう。

グローバル企業にとって、2026年は「サッカーを通じた米国市場攻略」の千載一遇のチャンスとなる。スタジアムの中だけでなく、デジタル空間、ファッション、カルチャーを含めた包括的なエンゲージメント戦略が、この急成長市場を制する鍵となる。特に、MLBの項でも触れたラテン系(彼らは熱心なサッカーファン層とも重なる)へのアプローチとして、サッカーは最強のツールとなるだろう。

こうした観点から、果たして日本の企業は、どこに着目しているのか。すっかりガラパゴスと化した日本産業が、この波に乗り遅れないかは、注視したいとは思う。ちなみに本レポートの提供元ニールセンスポーツは、W杯マーケティングデータの公式サプライヤーでもある。

【「ナラティブ」を売れ、ドキュメンタリーという第3のスタジアム】

試合は90分、あるいは9イニングと各競技で定められた規定通りに終わる。しかし、ナラティブに終焉はない。

ファンを365日繋ぎ止めるための「第3のスタジアム」として、スポーツドキュメンタリーの経済効果は無視できない規模に膨れ上がっている。ストリーミングプラットフォームにおけるスポーツドキュメンタリーの総視聴時間は、21年の47900万分から、24年には1693,700万分へと、わずか3年で約3.6倍に激増した。

この「物語への没入」は、実際の試合視聴やファンベースの拡大にダイレクトに跳ね返る。 Netflixのドキュメンタリー作品『Formula 1: 栄光のグランプリ(Drive to Survive)』以降、F1の視聴者数が増加したことは周知の事実だが、2025年にはこの波がゴルフ界にも押し寄せた。Netflix映画『ハッピー・ギルモア2Happy Gilmore 2)』は、公開直後の数日間で289,000万分という記録的な視聴時間を叩き出し、ゴルフへの関心を一気に高めた。

その直後に開催されたPGAツアーの「フェデックスカップ・プレーオフ」では、3大会すべてで視聴者数が増加するという相関関係が見られた。「BMW選手権」の視聴者数は前年の130万人から170万人へ、「ツアー選手権」は110万人から160万人へと急伸。メジャー大会である「マスターズ」に至っては、視聴者数が530万人から770万人へと約1.45倍に跳ね上がっている。

なぜこれほどまでに効果があるのか。それは、ドキュメンタリーがファンとの間に「信頼」を醸成するからだ。データによれば、ゴルフファンは、一般のスポーツファンに比べ「スポンサー企業は信頼できる」と考える割合が高い(52%40%)。また、「価格と品質が同じならスポンサー製品を選ぶ」と回答した割合も高い(64%55%)。 ドキュメンタリーや映画で選手の人間性に触れさせ、「感情」を焚き付ける。そして実際の試合中継でその興奮を共有し、「信頼」を深める。最終的にそれが「購買」へと繋がる。169億分という膨大な視聴時間は、そのまま企業の収益への導線となっている。

2026年の鍵はマーケティングにおける「データ活用」】

2026年は、ミラノ・コルティナ冬季オリンピックに始まり、WBC、そしてサッカーW杯、919日には第20回アジア競技大会が名古屋で開幕となる。日本においてもスポーツビジネスの地平は、東京五輪閉幕以降初めてかつてない広がりを見せている。しかし、ニールセンのレポートが突きつけた現実は、あまりにもシンプルで、日本のスポーツ界にとって残酷だ。「なんとなく」の勘や、過去の成功体験に頼る時代は終焉を遂げた。

113%増のアジア系視聴者。 33%の高齢層と25%の若年層の乖離。44%高い購買意欲を持つ女子スポーツファン。倍増したサッカー視聴者。169億分の物語消費。これらの数字の一つひとつに、次の10年を生き残るためのヒントが隠されている。こうしたデータを眺め「それは海の向こうの絵空事」と傍観するのか否かで、日本の向こう10年も変わって来るだろう。

振り返ってみれば簡単だ。日本で人気を誇るスポーツは、その多くが国外産。この10年、そのファンエンゲージメントに何を注入したか。すべて海外で行われていた施策である。ファンサービス、ファンエンゲージメント、チケッティング、ボールパーク構想、アリーナ革命すべて海の向こうから取り入れたのではないだろうか。それにもかかわらずマーケティングデータとなると取得に二の足を踏み、分析を怠るのか、常に疑問だ。

企業やブランドリーダーは、次の3つのアクションを実行に移すべきだ。まずは、ファンベースの再定義。大谷翔平に熱狂するZ世代など、マイクロコミュニティの熱源をデータで特定し、これが日本にどう適応可能なのか。次にメディアの再編。地上波テレビ(リニア)とストリーミングを対立させず、それぞれの役割(リーチとエンゲージメント)を明確にして使い分ける。そして最後に、目的の再評価。単なる露出ではなく、ドキュメンタリーなどを通じてファンとの「信頼」を築き、ROIを最大化する

感情を揺さぶるスポーツだからこそ、ビジネスサイドの判断は冷徹なまでの「データ」に基づいて行われなければならない。2026年、その数字の波にどう乗るかが、ブランドの命運を分けるだろう。スタジアムの歓声の向こう側には、確かなビジネスの勝機が広がっている。

出典: 本記事のデータは、ニールセンスポーツによるレポート「Tops of Sports 2025: Media trends shaping sports marketing for 2026」に基づく。

トップ写真)2025年ワールドシリーズで優勝を果たしたロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平

トロント-カナダ

出典)Gregory Shamus/Getty Images

 




この記事を書いた人
松永裕司Forbes Official Columnist

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 「あらたにす」担当/東京マラソン事務局初代広報ディレクター/「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。


出版社、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験から幅広いソリューションに精通。1990年代をニューヨークで、2000年代初頭までアトランタで過ごし帰国。

松永裕司

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