対米関係改善が課題、対中関係は加速へ-再選されたルラ伯大統領
執筆:山崎真二(元時事通信社外信部長)
【本稿のポイント】
・ブラジル大統領選決選投票で左派のルラ大統領が再選されたが、中南米の政治情勢に大きな影響はない。
・ルラ政権はトランプ米政権と対立しているが、関係改善への楽観的見方も
・ブラジルと中国の関係はルラ政権続投で加速化する見通し
2026年10月25日に行われたブラジル大統領選の決選投票で、左派の現職ルラ大統領が右派のフラビオ・ボルソナロ上院議員を破り、再選を果たした。中南米では近年、右派政権の台頭が目立つが、ルラ氏の勝利が地域全体の政治潮流を変える可能性は小さい。一方、4期目のルラ政権は米国との関係改善を図るとともに、中国との経済・外交関係を一段と強化することになりそうだ。
中南米政治全体への影響は少ない
このほど行われたブラジル大統領選決選投票で左派の現職ルラ大統領が右派のフラビオ・ボルソナロ上院議員を僅差で破り、再選を果たした。中南米ではここ数年、アルゼンチン、エクアドル、ボリビア、チリそして今年7月末のペルーのケイコ・フジモリ政権の誕生と相次いで右派政権が登場した。今や、左派とされるのは、以前から社会主義政権のキューバとニカラグアを除けば、メキシコ、ウルグアイ、そしてブラジルなど数カ国となり、中南米全体では圧倒的に右派政権が多くなった。こうした中、左派のルラ大統領が再選されたことで「中南米の政治潮流の右傾化にストップがかかる」、「地域の左派退潮にくさびを打ち込む」などとの声が聞かれる。だが、ルラ大統領の再選が中南米の政治の流れを変えるような転機になるかというとその可能性は少ないとみるべきだろう。2000年代の中南米の左傾化、いわゆる“ピンクタイド”では、ベネズエラのウーゴ・チャベス大統領、ボリビアのエボ・モラレス大統領といった反米左派のカリスマ的政治指導者が存在、中南米の連帯に向けた動きを活発化させた。2003年に1期目の大統領となったルラ氏もその一翼を担った。しかし、いまや、そうした指導者はいないし、ルラ氏にもかつてのようなリーダーシップを発揮できる力はない。来年にはエルサルバドルやアルゼンチンで大統領選が予定されるが、今回のブラジルの選挙結果が影響するとは考えにくい。
トランプ-ルラ関係は良好との見方も
ルラ政権にとって大きな外交課題は対米関係の改善だ。ルラ大統領はこれまでトランプ米政権とはしばしば対立してきた。今度のブラジル大統領選をめぐっても両者の間で緊張関係が生じた。トランプ大統領がボルソナロ氏の父親のジャイル・ボルソナロ氏と非常に親しい関係にあったこともあり、ブラジル大統領選前には息子のフラビオ氏をホワイトハウスに招き会談した。ブラジルではトランプ大統領が事実上、「フラビオ支持」表明したと受け取られた。さらにトランプ政権はブラジル製品に25%の追加関税を課したほか、ブラジル駐米大使の査証を取り消すなど、ルラ政権に圧力を加えた。これに対しルラ大統領は「ブラジルは誰かの裏庭になることを受け入れない」と強調、反発を強めた。しかし、来年1月から通算4期目の政権を担うルラ大統領としては対米関係の悪化は避けたいのは間違いない。ブラジルにとって米国との関係は依然として外交面だけでなく政治・経済面で重要。最大の貿易相手国はいまや、中国になったとはいえ米国は第2位である。ブラジル外交・政治の専門家は「トランプ氏はルラ氏との相性が素晴らしいと語っているし、ルラ氏もトランプ氏との個人的関係は良好だと言っている」と述べ、両者は言われているほど悪い関係ではないと指摘する。ルラ政権が4期目には対米関係改善に向け動くと楽観視する向きがあるのもこうした話が伝えられているからだろう。
「中国・ブラジル運命共同体」発展を-習近平氏
一方、中国との関係はさらに強まりそうだ。ルラ大統領の再任が報じられるや、中国は早速、祝電を送っている。中国国営新華社通信は習近平国家主席が祝電の中で「私はブラジルとの関係進展を非常に重視している」とした上でルラ大統領と協力して「中国・ブラジルの運命共同体」をさらに発展させたい旨表明したと報じた。貿易面では中国とブラジルは既に自国通貨で決済することで合意しており、最近では人民元決済が急増しているといわれる。日本の大手商社のブラジル駐在員によると、米・イスラエルとイランの軍事衝突でホルムズ海峡の通航に支障が起きてからは中国によるブラジル産原油の輸入が急増しているという。貿易面でだけでなく、中国はインフラや鉱業、製造業分野でもブラジルとの関係を深め、投資を拡大している。AIや航空宇宙分野でも相互協力方針が約束されており、4期目のルラ政権下で両国関係が加速化するとの見方が中南米関係者の間では広がっている。(了)
【よくある質問(FAQ)】
Q1. 2026年のブラジル大統領選挙では誰が勝利したのか?
- 2026年10月25日の決選投票で、左派の現職ルラ大統領が右派のフラビオ・ボルソナロ上院議員を破った。ルラ氏は有効票の51.79%を獲得し、通算4期目の大統領に就任する。
Q2. ルラ大統領の再選は中南米の左派勢力の復活を意味するのか?
- 必ずしもそうではない。2000年代のピンクタイドとは異なり、現在は地域全体を牽引する左派指導者が不在であり、ブラジルの選挙結果が中南米全体の政治潮流を変える可能性は限定的と考えられる。
Q3. ブラジルと米国の関係は今後どうなるのか?
- ルラ政権はトランプ政権との関係改善を目指すとみられる。米国はブラジルにとって重要な貿易・外交相手国であり、両国の政策上の対立を管理することがルラ政権の外交課題となる。
Q4. ブラジルと中国の関係はなぜ重要なのか?
- 中国はブラジル最大の貿易相手国であり、農産物や原油、鉱物資源などの取引を通じて経済的な結びつきを強めている。さらにインフラや製造業などへの投資も進んでおり、外交面でも両国の連携が強まっている。
Q5. 2000年代のピンクタイドとは何か?
- 2000年代に中南米で左派政権が相次いで誕生した政治現象を指す。ベネズエラのチャベス大統領、ボリビアのモラレス大統領、ブラジルのルラ大統領らが代表的な指導者であり、米国主導の経済秩序に対抗する地域協力を推進した。
(リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)
トップ写真:総選挙の勝利を祝うルラ氏
出典:Ricardo Moreira/gettyimages
あわせて読みたい
この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長
南米特派員(ペルー駐在)、




























