[古森義久]【金正恩消息ミステリー深まる】~アメリカはクーデター説否定~
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授) 「古森義久の内外透視」
北朝鮮の独裁リーダー、金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の消息をめぐるミステリーがまた一段と深まった。このところ姿を消したままの金書記についてアメリカ政府当局者が政権内でのクーデター説を否定したのだが、なお公式の場に異様なほど長く登場しないことの理由はかえって謎を深めた。なにしろ世界でも最も厚い秘密のベールにおおわれた北朝鮮政権だから、こんなときこそ断定を避け、慎重な多角的考察が必要である。
金書記は9月3日に平壌での音楽の祭典に李雪主夫人と姿をみせて以来、公開の場には一切、登場していない。10月12日でもう39日目となる。同書記が最高権力の座に就いてから、公式の場に登場しなかった期間はこれ以前には最長23日だったから、今回の状態は異常であることは間違いない。
その結果、韓国やアメリカの北朝鮮専門家らの間では、「政権内で反乱が起きて金第1書記が失脚した」とか「足の負傷が予想より深刻で完全復帰が難しい」などという観測を生んでいた。だが最近のロイター通信の報道によると、アメリカ政府の国家安全保障会議のパトリック・ベントレル報道官は「北朝鮮の政権は世界でも最も閉鎖的だから、信頼できる情報はきわめて少ないが、クーデター説は間違いだといえる」と語った。つまり金書記はなおこれまでどおりの絶対権力を失ってはいない、という米国政府側の現時点での見解が明らかにされたわけだ。ベントレル報道官もアメリカ政府機関が北朝鮮内部の動向を最大の注意を向けて、追っていることをも認めた。
前述のロイター通信の報道は、さらに北朝鮮と中国の両政府につながりのある情報源の話として、金第1書記は8月終わりか9月はじめの軍事演習に加わった際に将軍たちとともに激しく動き回り、足首の腱を負傷して、全治100日ほどの状態となった、と伝えた。だがこの情報源も金書記が依然、政権の全権を握ったままだとしている。実際に金書記は以前から片足をひきずって歩くところが目撃され、体重の激しい増加とともに、足のなんらかの負傷がその原因だとされていた。
いずれにせよ、今回のアメリカ側からの情報は金書記がなお権力を掌握しており、政変などはないことを示したことになる。だがこの種の独裁者がたとえ軽度の肉体的支障でも公務を果たせない期間を長引かせると、政権不安定の印象を内外に広めていくことは必至となる。そのことが逆に独裁指導者の権威を揺らがせることにもつながりかねない。だから金正恩ミステリーはまだまだ未解決で、その結果は予断を許さないのである。
なにしろわが日本は北朝鮮との間には拉致された日本人被害者の救出という特殊の重大課題を抱えているのである。その課題の解決への進展も後退も金正恩第1書記の意向一つで左右されることをいつも銘記しておくべきだろう。
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