[朴斗鎮]<悪化する中朝関係>北朝鮮が金正恩第1書記を風刺した動画の削除を中国に要請
最近北朝鮮は、金正恩第1書記を風刺したインターネット動画が金正恩氏の尊厳と権威を著しく傷つけているとして、動画の削除を求め、在北朝鮮中国大使館を通じ拡散防止を中国に求めた(米国に対しては暗殺のコメディ映画を中止せよと脅迫)。
これに対し、中国は知らんぷりを決め込んでいるという。このインターネット動画で金正恩氏はコミカルに踊り、ズボンまで脱がされる。動画の製作者は中国・蘇州市に住む漢族の青年で、韓国の京畿大に留学した経験があるという(朝鮮日報2014/07/18 )。
2012年のアリラン祭の国際連帯の章では、中国との親善一色で埋め尽くされた。2013年のアリラン祭でも凱旋門と天安門との間に虹をかけて同盟関係をアピールした。
また2013年7月の李源朝国家副主席訪朝後には、金正恩第一書記がわざわざ毛沢東の息子毛岸英と中国義勇軍の墓を訪れ、深々と90度のお辞儀をした。それらの時期に比べると今日の中朝関係は隔世の感がある。
中朝関係の悪化は、北朝鮮が7月20日に発表した国防委員会政策局談話でより明確となった。談話では、ミサイル発射を非難した国連安保理談話を非難するとともに、
「このような狂態騒動に一部主体性のない国々も盲従し、アメリカの汚物が匂う尻にくっ付きながら、あわれな境遇に至った朴槿恵を抱え込もうと馬鹿な考えにうつつを抜かしている」(原文訳)
と名指しこそしなかったが、誰にでもわかる表現で中国を罵倒した。
金正恩は父金正日が残した幹部たちを排除するだけではなく、病後に足を引きずりながら中国を訪問し築き上げた中朝関係をも崩している。
今年に入り中朝関係が冷え込んでいることを示す事例は相次いでいる。北朝鮮と中国が1961年に中朝友好協力相互援助条約を締結し53年を迎えた今月11日、両国は親善のメッセージを出さなかった。
北朝鮮は昨年、中国との「血盟」を強調する記事を労働新聞に掲載したほか、記念の宴会も催していたのとは対照的だ。また、中国の北朝鮮向け原油輸出が税関統計では今年1~5月までゼロだったことが確認された(統計以外の取引は分からない)。
こうしてみると、当面中朝関係の改善は見込めないようだ。北朝鮮外交は今、中朝関係改善を後回しにして、南北関係の改善と、特に中国との関係悪化に悩む安倍政権を「拉致問題解決交渉」に引き込み、攻略することで外交的閉塞の突破口にしようとしている。
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【プロフィール】
1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。主な著書に、「北朝鮮 その世襲的個人崇拝思想−キム・イルソンチュチェ思想の歴史と真実」「朝鮮総連 その虚像と実像」など。その他論考多数。