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.経済  投稿日:2014/10/15

[田村秀男]【消費税10%引き上げ止めよ】~実質賃金急下降の元凶は税率8%へのアップ~


田村秀男(産経新聞特別記者・編集委員)「田村秀男の“経済が告げる”」

執筆記事プロフィール

 

景気回復軌道に乗ってきた米国経済だが、現地からのリポートは一様にその回復力の弱さを問題にしている。とりわけ、名目賃金からインフレ分を除外した実質賃金の伸び率が低い、という。そこで、米国の実質賃金の上昇率を調べてみると、ちゃんと実質賃金は前年比で1〜2%の割合で増えている。雇用数も伸びているのだから、一時心配された賃上げ=雇用減という「ゼロサム」は避けられている。

米国は、日本がバブル崩壊後に辿った実質賃金下落を基調とする慢性デフレに陥らずに済んでいるのだ。対照的に、日本のほうはアベノミクスにも関わらず、実質賃金は急下降し始めた。最大の理由は、消費税増税である。デフレ圧力が消えない中で、日本は大失敗を繰り返している。

アベノミクスがめざしている「脱デフレ」とは、単に物価を2%まで引き上げるという日銀の「インフレ目標」の達成にあるわけではない。物価の上昇率を上回る幅で名目賃金を継続的に引き上げて、消費需要を増やして企業の生産や雇用増を促して景気の好循環を作り出すことだ。

何しろ、1998年からの「15年デフレ」は、物価の下落を上回る速度で賃金が下がり続けてきた。そのトレンドを逆転させようと、安倍晋三首相は産業界に賃上げを働き掛けてきたのだが、物価の値上がりを埋め合わせるほどの賃上げには至らない。

       実質賃金推移

グラフは円の対ドル相場と、物価の変動分を加味した実質賃金の指数を、リーマン・ショックが起きた2008年9月を100として追っている。アベノミクスが始まる2012年12月までの特徴は、円安局面ではわずかながらでも実質賃金が上向くが、円高局面では実質賃金が大きく落ち込できた点だ。そして全体としては1997年4月の橋本龍太郎政権による消費税率引き上げ(3%から5%へ)以降、実質賃金が下落トレンドにあり、ことし4月の税率8%へのアップ以降、下落速度に加速がかかったことである。

もう一つ、アベノミクス「第1の矢」である日銀の異次元金融緩和で円安局面に反転したのだが、円安にもかかわらず実質賃金が下落しており、円安=賃金アップという方程式が消えてしまった。円安効果で輸入コストが上がって消費者物価上昇率が1%以上上がったのは、日銀の思惑通りだったのだが、名目賃金は上がらないので、実質賃金はむしろ押し下げられた。

4月には春闘で1%程度のベアは実現したのだが、消費税増税分の価格転嫁で消費者物価は2%程度、円安効果と合わせて3%台半ばまで上がった。実質賃金の急降下はこうして始まった。

消費税増税でこうなることは、97年度増税や昨年の実質賃金の下落気味のトレンドからみても明らかに予想されたはずなのに、政府も民間エコノミストの多くも楽観視してきた。その根拠は、円安に伴う企業収益アップや株高などアベノミクス効果に対する過信としか言いようがないのだが、円安は物価だけを上げさせ、賃上げには結びつかない。

株高が家計消費を押し上げる効果は乏しいうえに、外国人投資家は上がれば、機を見て売り逃げるので、上昇基調は突如打ち切られ、瞬く間に下落局面に転じる。

安倍首相は、アベノミクスが消費需要、賃金・雇用の拡大サイクルを生み出すまで8%への消費税率アップを延期すべきだった、というのが、とりあえずの教訓のはずだが、さらに10%まで増税せよ、と迫る政官の要人や御用学者が多いこの国は一体、正気なのだろうか。

 

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