[岩田太郎]【税制論議、日米で大きな差】~日・消費増税、米・法人税逃れ対策〜
岩田太郎 (在米ジャーナリスト)「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
日本では、安倍晋三首相(60)が今年4月の8%への消費増税に続いて、来年10月に予定される10%への再引き上げを決断するのか、議論が盛んだ。筆者が7月中旬に、国際金融理論の権威であるカリフォルニア大学のバリー・アイケングリーン教授(62)にインタビューして、「イングランド銀行(英中央銀行)元委員のアダム・ポーゼン氏(48)が、『日本の消費税率を、経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の20%まで上げるべきだ』と言っている」と水を向けたときのこと。教授は、こう答えた。
「日本の法人税率は世界で最も高い部類に入り、経済成長を妨げている。外国人投資家にとって魅力的になるため、日本は法人税率を下げる必要があるし、その減税分の原資として消費増税を行うのは理にかなっている」。
筆者は目を丸くして聞いていた。日本の消費増税の本当の目的が、財務省の主張するような「社会保障の充実」ではなく、「海外投資家が安心して日本に投資できるようにするための原資」と海外で見られていることを示唆したからだ。この部分は、紙幅の関係で紙媒体に掲載できなかったが、本音レベルの、大きな気付きを与えてくれるコメントだった。
(読者諸兄は、このコメントのみで教授の学説を判断されぬよう。これは消費増税による日本経済の大失速が明らかになる前の話であり、惨憺たる数字を見た教授の意見は、今は違っているかも知れない。また、教授は格差問題に多大の関心を寄せており、富裕層の所得税率引き上げや、税逃れの抜け穴の廃止などを唱えている。読者の判断は、教授の主張の全体の文脈をつかんでから、行っていただきたい。)
翻って、米国で消費税はどう見られているか。こちらには「消費税」というものは存在せず、州や郡、市町村レベルで課される「セールス・タックス」、すなわち小売売上税が、消費税に近い存在だ。これに加え、毎年4月に連邦所得税と州所得税を確定申告して納める。
税率も、0%のオレゴン州などに始まり、2%から9%あたりが普通で、幅が大きい。また、ほとんどの州で生鮮食料品や処方薬の税率は、一般の商品より低く設定されている。地元経済を盛り上げるため、期間限定で売上税率を下げる「タックスホリデー」なるものまで存在する。つまり、場所や商品やサービスによりバラバラなのだ。
話を、米国の税を巡る議論に戻そう。今、こちらで人々が感情的になって討論している話題は、何と言っても、米多国籍企業が法人税逃れのために外国企業と合併して、本社を米国より法人税率の低い合併先に移転する「納税地変換」だ。フランス人経済学者トマ・ピケティ氏の『21世紀の資本論』で問題になった富裕層の個人所得税の低さに加え、大企業が高い法人税を逃れて米国から「大脱走」を試みているので、庶民感情からは許せないわけだ。
1970年代、日本の田中角栄首相の失脚につながったロッキード献金疑惑を暴いた、米上院外交委員会の多国籍企業小委員会を参考に、「議会は再び米多国籍企業の行き過ぎた力を追及すべきだ」との声まで出ている。詳しくは発売中の『週刊エコノミスト』誌9月30日号の拙稿、「米法人税逃れの本社海外移転」を参照されたい。ともかく、米国では売上税議論は盛り上がらない。法人の税逃れの捕捉のほうが大事なのだから。
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