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スポーツ  投稿日:2014/10/15

[瀬尾温知]【惨敗ブラジル戦一喜一憂の愚】~“意義ある強化試合”を組め~


瀬尾温知(スポーツライター)

「瀬尾温知のMais um・マイズゥン」(ポルトガル語でOne moreという意味)

執筆記事プロフィール

 

大型バスが、その存在感を誇示しながらカルロス・ゴメス大通りを走行していた。車体にはGermanyの文字。沿道から歓声と罵声を同時に浴びながら、ドイツがアルジェリアとの決勝トーナメント1回戦に向かった、ワールドカップ・ブラジル大会での一齣である。

GKノイアーがペナルティーエリア外で再三の好守を見せ、ドイツが2対1で延長戦を制したその試合は、ブラジル最南端にあるリオグランデドスル州のポルトアレグレで行われた。ドイツ系移民が多く暮らす土地になる。

ドイツを発った最初の移民がブラジルに1824年に着いてからあと10年で200年。日本から最初の移民を乗せた笠戸丸がサントス港に到着したのが1908年のことなどで、ドイツは日本より3世代ほど前から移住していることになる。

そのドイツは、開催国のブラジルに準決勝で7対1という恥辱を与え、リオのマラカナン競技場で頂点に立った。その勝ち運にあやかろうというわけではなかろうが、ブラジルは大会後、リオグランデドスル州出身でドイツ系のドゥンガを監督に再任した。2010年ワールドカップ・南アフリカ大会の準々決勝で敗退後に解任されてから4年後の復帰になる。

ブラジルサッカー連盟は、ブラジル大会以降も会長が続投しており、執行部への風当たりは強い。監督の首を挿げ替えただけだという批判は日本でも湧き起こったが、比較にならないくらいブラジルでは論争があった。

なんとも前振りが長くなってしまったが、日本とブラジルが強化試合で対戦した。ともにワールドカップでは苦い経験をした。特に日本の場合は、期待ばかりが先走りして、終わってみてようやく世界との差を痛感するという有様だった。

先の凱旋門賞も似通ったものだった。勝つのは3歳牝馬のハープスターだ、世界ランクトップのジャスタウェイだとレース前には意気揚々としたのだが、4コーナーを回った辺りで消沈してしまった。騎手の力不足が敗因に挙げられている。フランスの牝馬・トレヴで連覇を達成したジャルネ騎手の「この競馬場をよく知っていることが連覇を達成できた原因だ。ここでの競馬はスピードよりも戦術が圧倒的にものをいう」との談話を聞くと、敗因は妥当なのだろう。

馬券を購入する際に「パドック買い」というのがある。馬体の艶、汗の量、気合いの乗り方など、容姿を判断材料に好気配だと思う馬を選ぶ買い方だ。しかし、調子云々以前に競走馬には格の違いがある。競馬新聞の馬柱にある過去の戦績、戦ってきた相手、血統といったものに明確に表示されている。サッカーの世界でも、ブラジルと日本の間には歴然たる格差がある。

ブラジルは宿敵・アルゼンチンとの一戦から中2日。当然、無理はしない。言わば馬なりである。そんな相手と試合を組むことに意義はほとんどない。強豪国でなくとも本気の度合いを高めてくる相手と試合をする方が、強化試合としてよほど有意義である。代表選手を数日間集めて連係を改善させました、というだけのことである。

それなのに、「日本がブラジルに挑む」という表現は間違いではないにせよ甚だ大袈裟だし、「ガチ真剣勝負」などと煽るのは、未だにそのレベルですかと怒りを通り越して泣けてくる。

この強化試合に勝った負けたで一喜一憂するのは取るに足らないことなので、内容をとやかく記すことはしない。試合を観たあとに出てくるのはブラジルで流行した鼻歌だけである。「ネイマール、ネイマール、ネイマール、ネイマール♪」。ブラジルのエースの名を4回繰り返すだけの単純なフレーズが受けたのだが、日本は、まさに4回も繰り返されたのである。

 

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