【影の主役中国、日露首脳対話】~露、過度の経済依存を警戒、バランサーとして日本に期待~
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北方領土問題の解決に意欲を燃やす安倍晋三首相にとって極めて濃密な10分間だったに違いない。イタリア・ミラノで17日午前、アジア欧州会議(ASEM)首脳会議が開始される直前にロシアのプーチン大統領と非公式首脳会談を行い、ウクライナ危機で暗礁に乗り上げていた日露の対話が再会されたからだ。
短時間とはいえ、プーチン大統領と6度目の会談をするのは今年2月のソチ冬季五輪以来、約8カ月ぶり。11月に北京で行われるアジア太平洋経済協力会議(APEC)で正式首脳会談を行うことを確認し、日露首脳による政治対話は継続されることになった。
対話再開を望んでいたのはプーチン大統領も同じだった。ノーボスチ通信によると、会談後の記者会見で、プーチン大統領は「ここ数年、日本との関係は経済面でも政治プロセスにおいても平和条約に関連した調整の解決模索も含め、前進的に拡大してきた。だが残念ながら、ロシア側のイニシアチブではなく、日本側は政治レベルのコンタクトを事実上全て凍結してしまった。これはロシアの行なった選択ではない」と述べ、ウクライナ危機で制裁を発動した日本を批判したうえで、「我々は日本の友人らとの関係を続けていく覚悟だが、(ホッケーの)パックは、私たち流にいえば、これがあるのは日本側だ」と対日関係改善と訪日への意欲を示した。
この背景には、ウクライナ情勢をめぐる主要7カ国(G7)の制裁と原油安、ルーブル安で窮地に立たされたロシアが極東を中心に急速に進む中国への経済依存を警戒して、バランスを取るうえで日本との関係改善を急ぎたい思惑が指摘されている。慰安婦問題などの歴史認識で中国、韓国との溝が深まる日本も日露関係を正常化させれば、中国ひいては米国へのけん制にもつながる。いわば「中国」を媒介に両首脳の思惑が一致して対話が再開されたといえよう。ならば影の主役は「中国」と言ってもいいだろう。
ASEMを前にクレムリンは日露首脳の対話再開のシグナルを発している。ロシア国営ラジオ放送「ロシアの声」が10月15日に日本向けに行った「注目されるミラノ『欧州アジア』サミットでの露日首脳の出会い」と題する論評は、対日関係を改善したいロシアの期待感がよく表れていた。
《元駐日ロシア大使を務めたアレクサンドル・パノフ氏は、ミラノでのプーチン・安倍会談は「単なる儀礼的な短い接触だけに終わる可能性もある」と見ている-
「(中略)。恐らく両首脳は、プーチン大統領の東京訪問に関し、来年実現させようと試みるでしょう。平和条約交渉継続の意向に関しても表明されると思います。また対ロシア制裁が続いているにもかかわらず、安倍首相はミラノで、プーチン大統領とのよい関係を維持したいとの意向を示すでしょう。なぜなら制裁はいつか解除されるもので、プーチン大統領との間で保たれた個人的コンタクトや友好的雰囲気というものは、今後の露日関係発展に、好ましい影響を与えるに違いないからです」
そうすると最初の「完全な形」での露日首脳会談は、 11月の北京でのAPECとなりそうだ。
ロシア最高経済学院の日本問題の専門家、アンドレイ・フェシュン氏に意見を聞いた―
「ミラノでの会合の結果は、そのような場合でも、肯定的なものとなるでしょう。なぜなら、APECサミット枠内での会談の予備的なものとなるからです。北京ではもう、まだ取り消されていない対ロシア制裁のため、それほど巨大ではないでしょうが、露日間で具体的な経済プロジェクトが討議される可能性もあります。イタリアそして中国でのプーチン・安倍会談は、日本が米国政府の極めて強い圧力の下に置かれてさえ、ロシアとの関係を壊すつもりのない事を、すべての人に示すシグナルの役目を果たすでしょう」》
さらに「ロシアの声」は、安倍首相の昭恵夫人が10月4日に東京で「日露武道交流年」の一環として開かれたロシアの民族および伝統武道の演武会に参加し、橋本龍太郎元首相夫人の久美子さんと共に天道流薙刀(なぎなた)術を披露し、ノーボスチ通信の取材に、「夫(安倍首相)とプーチン大統領はとても良い関係にある。プーチン大統領が日本を訪問する際には、あらゆるおもてなしをしたい」と語ったと伝えた。
この談話は日本のメディアでは報じられていない。いうまでもなく国営ラジオ放送「ロシアの声」は、ロシア政府の意向を伝えるものだ。ロシアは今秋の実現が絶望的となったプーチン大統領の日本訪問に強い意欲を持っていることをアピールしている。
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