[岩田太郎]【米金融緩和で誰が得した?格差は拡大した?】~アベノミクスも検証が必要~
岩田太郎(在米ジャーナリスト)
「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
米連邦準備制度理事会(FRB)は、早ければ2015年3月と予想される利上げへの道を着実に歩んでいる。イエレンFRB議長は12月17日、利上げが来年1月と3月にはないと明言し、早ければ6月になる可能性を示唆。いよいよ、あふれる米マネーは引き締め局面へ近づく。
ここで問題になるのは、金融危機後の三次にわたる米国の量的緩和(QE)で誰が得をしたのか、という疑問だ。昨年12月、筆者はベストセラー『世界恐慌─経済を破綻させた4人の中央銀行総裁』でピューリッツァー賞を受賞したライアカット・アハメド氏にインタビューし、考えを聞いてみた。
Q QEで得をしたのは誰か。
A 金融業界だろう。
Q 最近の研究では、最大受益者が、FRBの低金利政策で国債の利払いを圧縮できた連邦政府だという。
A そうだ。しかし、政府は国民が所有している。
Q 理論上はそうであっても、一般国民の富が政府に移転したのではないか。
A 金融政策の善し悪しは、資産の再分配効果ではない。連邦政府が国債の利払いが減って利益を得たというのは、別段新しい知見ではない。まずは正しい金融政策を実行し、その後で減税などの形で富の再分配をすればよい。
明らかに、話がかみ合わなかった。アハメド氏は「政府=国民」論に立っており、政府が国民の犠牲の上に得をするという可能性を排除していた。
ちなみに、マッキンゼー・グローバル研究所が2013年11月発表した研究は、「連邦政府は、QEによって国債利払いを圧縮し、FRBがQEで得た利益を国庫に入れたことにより、07 年から 12 年の間に、1 兆450億ドルを節約した。これは政府債務の7.8%、国内総生産(GDP)の6.8%に相当する」と指摘している。
さらに、「米国の非金融企業も借り入れ返済の利率が下がって、同期間にQEによって3100億ドルの益に浴し、金融業界は預金利払いの額が減る一方、預金が増加して1500億ドルの得をした」。その一方、「米一般世帯は、貯蓄の利息低下の悪影響が、ローン支払い金利の低下や借り換えの益を上回り、3600億ドルの損失だった」としている。
筆者は、「QE誰得論」について昨年12月、ローレンス・サマーズ元米財務長官にも聞いてみた。サマーズ氏は、「まだその研究を読んでいないが、QEにはさまざまな再分配効果があるのは確かだ」とかわした。そうしたなか、今秋、ある聞き手がテレビでサマーズ氏をインタビューし、「QEは経済格差を拡大させたか」と聞いた。サマーズ氏は言下に否定し、「ばからしい」とまで言い切った。だが、それは、本当か。
ここで注意が必要なのは、「QE誰得論」と「QE格差拡大論」は違うことだ。確かに、QEで価値の上がった株式などの資産を持つ富裕層は受益者で、中間層・貧困層は所得が伸びなかった。だが、その相関関係をもって、QEが格差を拡大させたとの因果関係は証明できない。再分配効果について研究が必要なのだ。
ピーターソン国際経済研究所のジョセフ・ギャニオン上席研究員は、「中央銀行の政策は、世帯・企業・政府の支出と貯蓄の決断の進行役に過ぎず、超低金利政策の結果責任はない。利益や損失は、世帯・企業・政府の支出と貯蓄の結果に過ぎない」とする。
だが、無色透明な政策などない。必ず勝ち組と負け組ができる。意図しない結果は起こり得るにせよ、政策は最初から、最大受益者を念頭に設計される。オバマ政権は米金融業界を最優先で援助し、その金融業界が引き起こした住宅危機で、家を差し押さえられた貧困層や中流階級を助けなかったと批判されている。
翻って、第二次安倍政権が誕生して以来、アベノミクスで得をしたのは誰か。そして、得をした者と損をした者の経済格差は開いたのか。総選挙後も検証を続けていく必要がある。
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