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経済  投稿日:2014/12/14

[清谷信一]【いいインフレと悪いインフレ】その3~金融政策で消費が伸びない理由~

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清谷信一(軍事ジャーナリスト)

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我が国では高齢化が進み、老齢者が増えているが、それは年金や貯金の取り崩しで生活している人たちが増えているということだ。インフレになれば、お金を稼ぐ手段のない彼らは消費を増やすどころか、抑えるだろう。インフレは高齢者の消費を冷やす。

であれば需要と労働人口を増やす必要がある。これは安倍首相が蛇蝎のように嫌っている藻谷浩介氏が指摘しているが、女性の活用が必要だ。専業主婦やパートタイムの主婦がフルタイム、あるいはそれに近い収入が得られる職業につけば、労働人口と世帯当たりの所得は大きく増える。そして彼女らがより大きな消費を行えば、需要が増え、企業の業績も良くなる。

その他の手段では新しい産業を起こし、内需を拡大することが必要だ。それがアベノミクスでいう第三の矢だが、それらは全て不発となっている。これは政治家や官僚、学者がもっとも苦手なことだ。

だからこそ安易に金融政策で景気を良くしようなどと考えるのだろう。官僚が新しい産業を作ろうとしても無駄に終わる。大抵の場合、新産業の創出は単に予算を獲得するための大義名分となるだけで、役人や業界ゴロの掴み金となって税金を食いつぶしている。クールジャパン関連の予算などその好例だろう。そもそもクールな人間は自分をクールなどと自称しない。

消費が拡大しない大きな原因はもう一つある。消費者の心理を無視するからだ。経済学者は無視するが、当然のことながら人間には心がある。消費は人間の心理に左右される。そのことを米英系のマクロ経済学は数値化しない。あるいは出来ない。

国の借金はGDPの約2倍、国民の老齢化が進み、社会保障費の国民負担はこれかも年々増える。年金を積み立てても、貰える額はどんどん減っていく。現在の勤労層が年金を受け取る時代になれば、更に取り分が減り、消費税も10パーセントどころではなく、欧州並みの20パーセント前後になってもおかしくない。将来に対する漠然とした経済的な不安があれば、消費を抑えるのが人情というものだ。

つまり財政の健全化が進まないと、将来に不安を持つ人たちは消費を増やさない。ところが安倍政権は第二の矢として公共事業に税金をばらまいている。そのために建設業界では建設費が上がり、商業施設や工場なども採算性が悪化して建設をやめるところもでいている。これは設備投資に冷水を浴びせているようなものだ。しかも公共事業も熟練工の人手不足で、予算が消化できないケースも多くでている。第二の矢は公共事業のコストを上げて、民間の設備投資に悪影響を与えている。

マスメディアが無責任なのは、自分たちに確固たる経済に対する見識が無いためで、政府発表と「権威」にすがっている。その権威とは相場が上下すれば儲かる証券会社や金融機関のアナリストと、自分の見識でカネを稼いだこともない学者である。前者は実体経済がどうなろうと気にしていない。相場が激しく上下することを望んでいるだけだ。なぜならそれが一番儲かるからだ。

後者、特に「マクロ経済の専門家」は実体経済を理解していない。彼らは理系でいえば理学部であり、工業(実体経済=工場の運営、マーケットの動向のリサーチ)の現場を知っているわけではない。例えば実験室で硫酸を合成する場合と、工場で硫酸を生産する場合では、材料も合成方法も、装置設計もまったく異なる。理学的な知識だけで工場を設計し、運用することは不可能だ。それと同じだ。

安倍政権のアドバイザーである浜田宏一内閣官房参与は、増税のインパクトを抑えるために消費税を5パーセントから、毎年1パーセントずつ5年間かけて引き上げすればいいと主張していたが、現実を見ていない。毎年それを強要される事業会社は極めて多大なコストを支払うことを5年も繰り返すことになる。しかもそれは1円の利益も産まないのだ。率直に申し上げて浮世離れしているとしか思えない。しかも浜田氏の提唱がその通りになるという保証は全くない。むしろ毎年毎年、増税感が募って逆効果であることが考えられる。

敢えて誤解を恐れずに言わせて貰えば、マクロ経済学はエセ科学である。科学であれば、実験の再現性が求められる。実体経済は刻一刻変化するので、全く同じ条件で実験や検証を行うことは不可能だ。彼らが使う数式や前提にしても、恣意的に都合のいいものが使われている可能性がある。対して化学のアボガドロ数やPV=P’V’のような式は、執拗な実験から導き出されたものである。誰が行っても同じ結果が出る。

だがマクロ経済学では信用の根拠は誰それという「偉いアメリカの先生」が言っている、ということだけだ。その理論を実験して確証することはできない。

ノーベル賞級の経済学者が唱えた説が正しいとは限らない。何しろ実験して確かめることはできないのだ。こう言っては何だが、場外馬券売り場の外で、赤鉛筆を耳に挟んでいる紳士淑女向けにレースの予想を語っている予想屋と大差はない。あえて誤解を恐れずに申せば経済学者、経済アナリストの主張は声の大きい方が、あるいは偉そうな方が、ありがたく聞こえるだけの話である。

円安によってGDPの約6割である個人消費を冷やし、企業の8割近く占めるサービス業、農林水産業、輸出下請け企業の利益を圧迫して、景気が良くなるはずはない。また我が国のGDPに占める輸出は約15%に過ぎない。これが円安で儲かっても、残りの85%が被る不利益の方が遥かに大きく、いわゆるトリクルダウン効果はあまり期待できない。実際にGDPは下がり、消費も冷えている。

円安によるコスト・プッシュ型のインフレによって物価が上がれば消費者がどんどん消費を増やして内需が拡大し、景気がよくなるとの主張には根拠がなく、一種のカルトに過ぎない。

 

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