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.国際  投稿日:2014/12/20

[岩田太郎]【金正恩暗殺映画上映中止、米で大激論】~日本批判映画には冷静な対応を~


岩田太郎(在米ジャーナリスト)

「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

執筆記事プロフィール

ソニーの映画子会社、米ソニー・ピクチャーズエンタテインメントが12月25日に予定していた北朝鮮の指導者・金正恩氏の暗殺コメディー映画、『ザ・インタビュー』の公開を中止すると17日に発表したことを受け、オバマ大統領が19日に、「間違った判断だった」と非難するなど、米国内で波紋が拡がっている。同社は、この映画の公開に絡み、FBI(米連邦捜査局)が北朝鮮の仕業と断定したサイバー攻撃を受け、多数の秘密情報やコンテンツが流出し、映画館へのテロ攻撃予告も受けていた。

オバマ大統領は、「米国は、北朝鮮のサイバー攻撃に相応の対応を取る」と述べ、北朝鮮の行為が金正恩氏にとって、予想以上に高くつく可能性が出てきた。北朝鮮は、国内で偶像化されている金正恩氏が人権侵害で国際刑事裁判にかけられそうになったり、揶揄する映画が国外で作られ、北朝鮮国民が体制そのものに疑念を抱かないか、当局が焦った末にサイバー攻撃を仕掛けたとされる。

翻って、米国内では上映中止を受け、有力紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』が、「危険な前例を作った」と社説で警告。俳優で活動家のショーン・ペン氏は、「ソニーは(北朝鮮の圧力に屈することで)、イスラム国に西側に対する武力攻撃の招待状を送ったのであり、イスラム国は喜んで招待を受けるだろう」と予言した。

ソニーに対する批判で、民主党と共和党は、日本の真珠湾攻撃後を想起させる超党派の団結を見せている。リベラル派評論誌『アトランティック』のアダム・チャンドラー副編集長は、「ソニーは北朝鮮のチンピラどもに土下座した。自己検閲と言う国家の恥辱は、救いようがない」と述べる一方、元国防相高官のスティーブン・ブッチ氏は保守派評論サイト『デイリー・シグナル』に寄稿し、「テロ攻撃の脅迫は裏付けがなく、空虚なものだった。だがソニーは屈服し、米国憲法で保障された言論の自由が、金正恩の傷ついたプライドのために制限された」と嘆いている。

だが、この上映中止を冷静に捉える声もある。エール大学法学部のスティーブン・カーター教授はブルームバーグ通信の論評サイトで、「ソニーは利潤を追求する民間企業だ。また、上映館の経営者は、『ザ・インタビュー』が予定通り公開されれば、(観客がテロを怖れて)別のすべての映画も含めて、(書き入れ時のクリスマス期間中に)映画館へ近づかなくなることを危惧していた。市場は(最近のパキスタンでの学校襲撃など)恐怖の現実に素早く反応するものであり、市場は(リスクを冒してまで上映を望まないと)明言したのだ」として、上映中止の判断に理解を示した。

米国での騒動で思い起こされるのが、中国人監督が製作したドキュメンタリー映画『靖国 YASUKUNI』が、右翼などの抗議で2008年に上映中止に追い込まれた事件と、2010年にアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した映画『ザ・コーヴ』(注1)が次々と上映中止になった出来事だ。上映館の利潤追求の立場からすれば、当然の判断であったろう。だが、映画に反対する人も、実際の作品をよく観ないと、正しい批評はできまい。冷静さがあれば、批判もより効果的になる。

日本に批判的な作品を上映中止に追い込むのは、我が国を北朝鮮のレベルに落とすことだ。米スミソニアン博物館が、1995年に原爆の悲惨さを前面に押し出した展示を企画した際、退役軍人会などの猛反対で断念したことも思い出そう。

中国人やアメリカ人や韓国人が日本を貶める映画を作っても、歴史上の行き掛りから、想定内だ。いちいち動揺せず、どっしり構えよう。冷静に分析し、間違っている点は、証拠を挙げて反論すればよい。言論を抑え込むのは、日本の敗北だと心得よう。
(注1)The Cove(ザ・コーブ)2009年アメリカのドキュメンタリー映画。和歌山県太地町のイルカ追い込み漁の実態を描いた。

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