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.経済  投稿日:2015/1/29

[岩田太郎]【ピケティ教授は、左翼か右翼か?】~もやもや「ピケティ」の疑問点 2~


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岩田太郎(在米ジャーナリスト)

「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

執筆記事プロフィール

  「グローバル化の副作用を抑えるには、より大きなグローバル統治と協力が必要だ」。多国籍企業のトップの言葉ではない。行き過ぎたグローバル化による経済格差拡大を問題視する『21世紀の資本』の著者、トマ・ピケティ教授(43)の言葉である。

米国において、ピケティ教授はポール・クルーグマン教授(61)、ジョセフ・スティグリッツ教授(71)、米民主党左派のエリザベス・ウォーレン上院議員(65)など急進的な左翼論者と共に壇上に現れる。また、各国の左翼的なメディアに好んで露出をするにもかかわらず、彼らの間には微妙な温度差がある。

ピケティ教授は、米欧間の自由貿易協定TTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ、TPP・環太平洋経済連携協定の欧州版)を支持し、次のように述べる。

「TTIPは自由貿易の枠を超越し、すべての人に機会を与える。TTIPを財政政策の国家間協力で補完すれば、域内の共通法人税の基礎になり得る。世界の国内総生産(GDP)の半分を占める米国と欧州が法的に拘束される自由貿易協定は、タックスヘイブン(租税回避地)や規制外の資本フローなど、現在の諸課題を解決する、よい機会だ」。

一方、ピケティ教授は昨年6月上旬、前述のウォーレン上院議員とボストンで一対一の座談会に参加したのだが、大衆受けの良い過激な発言を次々に繰り出し、場を圧倒するウォーレン氏に対して、ニコニコ微笑みながらも、積極的に同意を与えなかった。ある種の緊張感さえ感じられた。

ウォーレン上院議員は、12月17日に米通商代表部(USTR)のマイケル・フロマン代表にTPP反対の書簡を送っている。交渉の秘密主義を批判する内容で、米国の利益を国家主義的に強調するなど、ピケティ教授のTTIP支持とは相容れない部分がある。

おもしろいことに、左翼のウォーレン上院議員の経済政策に関する立場は、昨年5月末の欧州議会選挙で大躍進した仏極右政党の国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首(46)の立場とよく似ている。ルペン氏もTTIPをはじめとする自由貿易協定に反対している。両人とも「大きすぎて潰せない」銀行を、投資銀行と商業銀行に分割せよと主張し、金融取引税の導入を求めている。また、公共サービスの民営化に反対するところも同じだ。

グローバル化のさらなる推進を主張するピケティ教授と、仏経済の無節操なグローバル化に反対するルペン党首を比べると、ウォーレン氏と共通点が多いルペン氏が左翼的に見え、ピケティ氏が資本家側で右翼的に見える。

なお、緊縮財政に反対するケインズ派的な立場では、ピケティ教授とルペン党首は一致している。方法論として、ピケティ教授はユーロ圏議会創設やTTIPなどグローバル化増進で問題に対応しようとするのに対し、ルペン氏は段階的なEU解体など国家主義的な方法で対応を試みる。

米ヒューストン大学でフランス史を教えるロバート・ザレツキー教授は12月5日付『ニューヨーク・タイムズ』紙で、ピケティ教授などフランス知識人の言説に触れ、「彼らは、基本的にパリの官僚的テクノクラートで、人々と話し合うより演説が得意だ。それに対しルペン党首は、既存政党によって社会から取り残され、軽蔑され、無視された人々と同じ言葉で語ることができる」と指摘し、トップダウンの押し付けに終始し、グローバル化のさらなる推進を目論む欧州知識人と一般大衆の意識の乖離が、埋め難いものであることを示唆している。

ピケティ氏はマルクス主義者などではなく、「より優しい資本主義」を目指すことは広く知られる。だが、欧州内外における国家主義の復活を警戒してグローバル化に固執するあまり、中流層や貧困層の声を聴かず、資本を持てる者のグローバル化のアジェンダを優先しているように見える。

(3に続く。このシリーズ全3回。)

 

 

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