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.経済  投稿日:2014/9/24

[岩田太郎]【米金融政策、タカ派化の内幕】~肉を切らせて骨を断ったサマーズ元米財務長官~① 「岩田太郎のアメリカどんつき通信」


岩田太郎 (在米ジャーナリスト)

■あっという間にタカ派化したFRB


米連邦準備制度理事会(FRB)と言えば、為替や株価、債券、コモディティなどあらゆる資産の価値を左右する、世界で最もウォッチされている中央銀行だ。昨年、その強大なFRBの議長になり損ねた大物政治家がいる。

不思議なことに、もう米金融政策に関与することはないその男が唱える、金融正常化・利上げ・.引き締めありきの「タカ派」的な考えが、金融緩和の続行を支持する「ハト派」の議長が率いる今のFRBで主流になってきている。なぜか。

これから数回にわたり、筆者が昨年の12月にその人物を取材した時のこぼれ話なども交え、FRBのタカ派化の種がすでに昨年夏から冬にかけてまかれていた舞台裏を明らかにする。

9月21日の朝、米フォックステレビの名物インタビューアー、マリア・バーティロモ氏(47)の番組に、ローレンス・サマーズ元米財務長官(59)が出演していた。サマーズ氏は、「米経済成長率を上げなければならない」、「そのためには財政出動が必要だ」というかねてからの持論を展開していたが、市場の関心事である利上げなど米金融政策の方向性については一言も発言しなかった。聞き手も触れなかった。筆者は、早期の金融正常化を求めるサマーズ氏のタカ派的な主張が勝利し、もうインタビューの話題にもならないほどの既定路線になった証拠だと感じた。

一方、昨年夏に彼と次期FRB議長の座を争い勝利したジャネット・イエレン氏(68)の立場は微妙だ。彼女が標榜していた、利上げは当分先だと示す「フォワード・ガイダンス」の政策指針は、議長の就任後、ほんの数ヶ月の間で語られなくなった。「労働市場の不十分な改善などで、利上げは困難」と示唆するイエレン氏の発言は、金融正常化路線の機械的な進行を前に、空しく響く。

サマーズ氏は名を捨てて実を取ったのだ。筆者は、彼にインタビューした時を思い出した。

寒さの厳しい2013年12月9日、筆者はハーバード大学のオフィスでサマーズ氏に面会するため、待っていた。約束は4時半から30分なのに、もう4時45分だ。サマーズ氏は電話中だった。少々焦りを感じてきた。

待つこと20分、やっと対面できた。一日の終わりで疲れた様子のサマーズ氏は、髪の毛が少々乱れており、しかもセーター姿だった。しかし、返ってくる答は鋭く、一生懸命に応じてくれた。時間管理を担当する秘書が「では、この辺で」と言うのに、「あと一問」、「もう一問」と引き延ばす筆者に、にっこり笑って対応してくれた。

そこでサマーズ氏は「タカ派」としての立場を鮮明にするのである。その後、彼の立場が現在の市場の状況を作り上げたと言っても過言ではない。今、米利上げによる日米金利差を見越した為替相場が円安方向に進んでいるのは、ほんの一例だ。

(続く)

 

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岩田太郎1【執筆者紹介・岩田太郎 (いわたたろう)】

京都市出身の在米ジャーナリスト。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の訓練を受ける。現在、米国の経済・司法・政治・社会を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』誌などの紙媒体に発表する一方、ウェブメディアにも進出中。研究者としての別の顔も持ち、ハワイの米イースト・ウェスト・センターで連邦奨学生として太平洋諸島研究学を学んだ後、オレゴン大学歴史学部博士課程修了。先住ハワイ人と日本人移民・二世の関係など、「何がネイティブなのか」を法律やメディアの切り口を使い、一次史料で読み解くプロジェクトに取り組んでいる。金融などあらゆる分野の翻訳も手掛ける。昭和38年生まれ。

 

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