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.経済  投稿日:2014/10/8

[岩田太郎]【米金融政策、タカ派化の内幕】~肉を切らせて骨を断ったサマーズ元米財務長官③~


岩田太郎 (在米ジャーナリスト)「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

■「サマーズFRB議長」阻止の本当の理由

筆者はローレンス・サマーズ元米財務長官(59)の秘書に、発売前のゲラ刷りを見せることを要求された。こういう「事前検閲」はアメリカでは珍しく、筆者にとっても初めての体験だった。

そこで、「記事はインタビューの一問一答だけです」と説明すると、「あっ、そう」とあっさり引き下がった。どうやら、筆者がサマーズ氏にとって都合の悪い内容を書くことを警戒していたらしい。それにしても、なぜこんなに神経質になっていたのか。

それはイエレン氏との候補争いで、サマーズ氏が猛烈な世論のバッシングを受けたからだ。昨年の晩夏、市場の関心は「ベン・バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長(60)が2014年1月末に退任した後、後を継ぐのはサマーズ氏か、ジャネット・イエレンFRB副議長(68)か」に向けられていた。

金融引き締めに積極的なタカ派とみられるサマーズ氏が議長になるか、量的緩和の続行を訴えるハト派のイエレン氏が就任するかで、株価など資産価格が大きく左右される重大な局面だった。

最終的にイエレン氏がFRB議長候補に指名されたのだが、彼女は第一候補ではなかった。その前に、サマーズ氏の名が挙げられていたのだ。サマーズ氏を強く推したのは他ならぬバラク・オバマ大統領(53)だ。

サマーズ氏はオバマ氏から経済政策の面で深い信頼を得ている腹心で、米住宅市場危機が悪化した2009年1月から2010年11月には国家経済会議(NEC)委員長として大統領の経済顧問を務め、当時の政策立案の中枢にいた。

サマーズ氏がFRB議長候補になった当時、回復の遅い米経済を支える手段としての量的緩和には賛成していたが、それと同時に、早期の緩和縮小の開始をも唱えていた。つまり、オバマ大統領は金融政策の正常化を唱えるサマーズ氏を今も深く信頼し、そのタカ派路線を支持していたのだ。

だがサマーズ氏はクリントン政権の財務長官時代に規制緩和を強力に推進して、後の金融危機の種をまいた「過去」があった。また、女性・黒人・途上国を蔑視した失言歴などが災いして、民主党左派の猛烈な抵抗に直面した。そのバッシングは人格攻撃そのものだった。結局、サマーズ氏は昨年9月にFRB議長候補を辞退した。

だが、反対派は本当にサマーズ氏の過去の失敗や失言癖を問題にしていたのか。あの強固なバッシングは、それだけが理由ではなかったように思う。本当の反対理由は、サマーズ氏が金融政策による市場の甘やかしを早く止めさせようとする、彼らの「敵」だったからではないか。つまり、反対した人たちは、量的緩和を当分の間続行させたい政策的野心を隠すために、サマーズ氏の人格を攻撃したのではなかったか。

事実、反対の声を上げたのはプリンストン大学のポール・クルーグマン教授(61)など、量的緩和続行支持のハト派が中心だった。結局、ハト派人事は成功した。だが、そのハト派のイエレン議長がタカ派を抑えられていないのは、何とも皮肉なことだ。そこには、オバマ大統領が指名したスタンレー・フィッシャーFRB副総裁(70)の影響がちらつく。(続く)

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岩田太郎1【執筆者紹介・岩田太郎 (いわたたろう)】

京都市出身の在米ジャーナリスト。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の訓練を受ける。現在、米国の経済・司法・政治・社会を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』誌などの紙媒体に発表する一方、ウェブメディアにも進出中。研究者としての別の顔も持ち、ハワイの米イースト・ウェスト・センターで連邦奨学生として太平洋諸島研究学を学んだ後、オレゴン大学歴史学部博士課程修了。先住ハワイ人と日本人移民・二世の関係など、「何がネイティブなのか」を法律やメディアの切り口を使い、一次史料で読み解くプロジェクトに取り組んでいる。金融などあらゆる分野の翻訳も手掛ける。昭和38年生まれ。

 

 

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