[岩田太郎]【米金融政策、タカ派化の内幕】~肉を切らせて骨を断ったサマーズ元米財務長官~② 「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
岩田太郎 (在米ジャーナリスト)
■タカ派色を隠さないサマーズ元米財務長官
筆者の取材でローレンス・サマーズ元米財務長官(59)が示唆したのは、「量的緩和の縮小は、そう遠くない将来に始まる」ということだった。当時の市場の予測では2014年3月の縮小開始が優勢だったが、なんとサマーズ氏を取材して10日も経たない12月18日に、米連邦準備制度理事会(FRB)は縮小開始を宣言した。「そう遠くない将来」というのは、こういう意味だったかと感心したものだ。
これには、伏線がある。前回サマーズ氏のインタビューアーとして紹介したテレビキャスターのマリア・バーティロモ氏(47)は、昨年10月24日に当時在籍していた経済専門テレビ局CNBCでも、サマーズ氏にインタビューしている。その時市場が一番注目したのは、つい最近までFRB議長候補だったサマーズ氏の量的緩和の縮小開始時期の予想であった。
バーティロモ氏は、まず緩和の縮小開始が2014年3月、あるいは6月になるかも知れないと予想するヘッジファンド・マネージャーの声を紹介した。サマーズ氏は、「金融政策には限界があるので、非伝統的な金融政策より財政出動が必要だ」との一般論で答えた。
そこでバーティロモ氏は間髪入れず、「バーナンキFRB議長も同じことを言っています。金融政策というのはそれだけ不確かなのだから、あなたがFRB議長なら、もう緩和の縮小を始めてますよね~」とポーカーフェイスでカマをかけたのである(動画12分50秒あたり)。
サマーズ氏は引っかからず、その当時非常にセンシティブな問題だった具体的な開始時期の予想を避けた。これを覚えていた筆者は、サマーズ氏をインタビューする時に別の聞き方を使い、「米経済は、量的緩和の縮小を正当化できるほどに回復したと思いますか」と質問した。
答が「イエス」なら、金融正常化は近いということだ。だが、「それは、FRBの決めることだ」と、あっさりかわされた。さすがは、元米財務長官・元ハーバード大学学長・元世界銀行チーフエコノミストだ!
しかし、「そう遠くない将来」というタカ派的な縮小開始予想は、ちゃんと教えてくれていたのである。
サマーズ氏が構想する金融政策の早期正常化路線は、イエレン氏がFRB議長候補の指名をオバマ大統領に受ける前にすでに敷かれていたものだと考えられる。それが、タカ派のサマーズ氏とハト派のイエレン氏の金融政策正常化をめぐる駆け引きという形で、候補指名の際に現れていたからだ。筆者によるサマーズ氏の取材にも、その駆け引きが微妙に影を落としていた。発売前の記事のゲラ刷りを見せてくれと、秘書が要求してきたからだ。(続く)
【あわせて読みたい】