[宮家邦彦]【水面下交渉が暗礁乗り上げ、ビデオ作成か】~イスラム国邦人殺害事件~
宮家邦彦(立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー(2015年2月2-8日)
「イスラム国」人質事件は名実ともに日本版の9.11となった。二人の同胞が中東アラブの地で散った。中東屋の筆者にとっては決して他人事でない。改めてお二人に対し心から哀悼の意を表したい。
今後二人については様々なことが書かれるだろうが、いかなる理由があるにせよ、見知らぬ中東の地で一人、それも野蛮な外国人に殺害されるなんて、さぞ無念だったに違いない。今週は「イスラム国」の話が長くなってしまうことをご容赦願いしたい。
〇欧州・ロシア
今週欧州では欧州議会各種委員会・ミニ総会、欧州中央銀行理事会、欧州エネルギー大臣会議などが開かれるが、何といっても目玉はミュンヘン安保会議だろう。毎年2月上旬にミュンヘンで開かれる国際会議で70か国以上から政府の要人、軍や市民団体の代表者などが集まる、欧州安保分野では最も重要な国際会議の一つだ。ところで国会開催中の日本からは一体誰が出席するのだろう。
〇アメリカ両大陸
2月3-5日にアルゼンチン大統領が訪中する以外、あまり大きな動きはない。
〇東アジア・大洋州
2月5日に米国防省の東アジア担当次官補代理が中国側カウンターパートと防衛政策調整会合をワシントンで開く。2月6-9日には韓国の退役軍人大臣が訪日するとの英語情報がある。7-8日には中台両岸関係者が金門島で会談を行う。小さなニュースばかりだが、これがそれぞれの関係拡大につながるかどうかは未知数だ。個人的には8日からのタイ暫定首相訪日の方により関心がある。ここでは日本と米国で温度差の生じる可能性があるからだ。
〇インド亜大陸
今週はあまり大きな動きはない。
〇中東・アフリカ
先週東南アジアに出張したが、人質事件については「人命の関わる事件で取り得る具体的選択肢に詳しく言及することは無責任だから一切コメントしない」との立場を貫いた。真の理由はその時点で既に今回の悲劇的結果をある程度予測していたからだ。
申し訳ないことをしたが、仕方がない。人質生還について万一の望みがある限り、余計なことは言いたくなかったのだ。しかし、実際にはイスラム国がビデオを作り始めた段階で事件が最終段階に入ったことを覚悟すべきなのだろう。
イスラム国の戦略的目的は聖戦の継続とカリフ国家の樹立だ。そのために彼らはカネを取るか、ヒトを奪還するか、敵にショック・動揺を与えるかを適宜使い分けてきた。要するに、水面下の交渉が暗礁に乗り上げた時点でビデオを作り始めるのだろう。
この仮説が正しければ、イスラム国との話し合いの詳細を検証すること自体あまり意味はないかもしれない。不可能に近い条件を提示し、それが成就しなければ人質殺害を正当化する。こんな手法は野蛮人のやることだ。どうしても怒りが収まらない。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。