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.経済  投稿日:2015/2/17

[神津多可思]【「実質金利」はマイナスなのか?】~デフレ・マインド払拭後の動きに注目~


神津多可思(リコー経済社会研究所 主席研究員)

「神津多可思の金融経済を読む」

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(予想)実質金利 = 名目金利 - 予想インフレ率

この式は、こうした考え方を整理した米国の経済学者の名前を冠して、フィッシャーの方程式と呼ばれている。改めてみれば当たり前の関係だが、この式に則って今の日本の「実質金利」は本当にマイナスになっていると言えるだろうか。

現在、日本の10年もの国債の流通利回りは、0.5%にも満たない水準にまで下がっている。一方、インフレ率の予想については、さまざまなアンケート調査結果をみると、ほとんどが1%以上となっている。

たとえば、日銀短観により企業のインフレ率の予想をみると、最近では1%程度との回答が3割程度、2%程度との回答が2割程度となっている。また、内閣府の消費動向調査から消費者のインフレ率の予想をみると、2%以上5%未満が4割弱、5%以上が3割程度となっている。

以上のような数字をフィッシャーの方程式に当てはめれば、「実質金利」はマイナスになる。お金を借りて、設備投資をしよう、住宅を買おうなどと考えている人にとってみれば、実質でマイナスの金利であれば、今こそ、その時ということになる。実際にそうした需要が出てくれば、日本経済の成長に勢いが付く。

だが、「ちょっと待ってよ」と思う方もおられるだろう。「実質金利」がマイナスということは、投資しても実質価値では儲からないということだ。そのように儲け率がマイナスの時に投資をしようとする人が本当にたくさん出てくるだろうか。こういう風に考えると、「実質金利」マイナスの状況こそがデフレ的ということにもなる。

さて、この2つの見方はどう並び立つのであろうか。

もともと、フィッシャーの方程式は恒等式であり、何かの因果関係を主張しているものではない。さらに、この式の各項目が、整合性のとれる形ですべての場面で観察されるわけでもない。確かに、国債の流通利回りは毎日金融市場で形成されており、時系列で客観的に把握できる。しかし、その利回りを決めている金融市場参加者のインフレ率の予想ははっきりとは分からない。

ちなみに、国債に関連するデリバティブ商品である金利スワップの市場で形成される金利から、「X年後スタートの1年もの金利」というのを計算することができる(インプライド・フォワード・レートと呼ばれている)。

そのやり方を使うと、足元では、2年後スタートの1年もの金利でも0.1%程度という結果になる。つまり、今後2年を展望しても、ゼロ金利の状況は変わらないという予想になり、これは1%以上のインフレ率と平仄(ひょうそく)が合うとは言えない。

実際には、日本経済全体で考えた場合、様々な経済主体が直面する資金調達の金利の加重平均は、実際には観察できないが、国債の流通利回りよりは高いのであろう。また、企業、家計、金融市場はそれぞれに違うインフレ率の予想をしていて、それらをまた加重平均すると、1%以上となっているかどうかはなお判然としない。

そういう中で、日本経済全体として「実質金利」の予想が現在すべてマイナスになっているかどうかも本当のところはよく分からない。おそらくは新規の投資を挫くようなマイナスにはなっていないのであろう。

ただ、今後、日本経済がうまく回転していくなら、マクロ的には実質価値でみた儲け率としての「実質金利」も上昇していくはずだ。その時、本当にデフレ・マインドが払拭されているのであれば、その「実質金利」の上昇に伴って名目金利もまた上昇していくとフィッシャーの方程式を読むこともできる。

現状は、そうした状況へと進んでいく途中にあって、言わば反発力をためているところと言える。つまり、資金の調達コストの側面からみた「実質金利」の低下が先行しており、それによって誘発される需要増が将来のマクロ的な儲け率としての「実質金利」を改善させることが期待されているのである。その目論見通りになれば反発力は解放され、フィッシャーの方程式の読み方も、「実質金利」と名目金利が同方向に動くものへと変わっていくはずだ。


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