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.社会  投稿日:2015/2/18

[安倍宏行]【熊本から変わる!児童養護のかたち】~行政が特別養子縁組に本腰~


安倍宏行(Japan In-depth編集長/ジャーナリスト)

「編集長の眼」

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 「銀も金も玉も 何せむに 勝れる宝 子に及かめやも(しろがねも くがねも たまも なにせむに まされるたから こにしかめやも)」
山上憶良のこの歌を誰でも一度は聞いたことがあるのではないか。どんなに高価なものでも子供に勝る宝はない。そう、子供はまさに社会の、国の宝である。しかし、今の日本社会はそうなっているだろうか?

「赤ちゃんポスト」というものがある。日本で唯一、熊本県にある慈恵病院が採用した、何らかの事情で子供を育てることが出来ない親が子を預けるためのシステムである。今回Japan In-depth 編集部は初めて慈恵病院を訪問、運用の実態や課題について話を聞いた。

平成19年(2007年)5月に運用が開始された「こうのとりのゆりかご(通称:赤ちゃんポスト)」。平成25年度までの7年間で利用件数は101件、預け入れた人の92%は熊本県外だった。預け入れた人の半数は母親だったが、その5割は20代以下。その理由の多くは未婚や生活困窮である。

利用件数はそれほど多くないと思う人もいるかもしれないが、衝撃的なのは、慈恵病院が行っている“SOS電話相談”にかかってくる相談件数だ。なんと、7年間で5,212件、年を追うごとにうなぎ上りに増えている。(注1)これも県外からの相談が73%を占める。そして、相談者の年齢を見ると、10代が19%、20代が43%と、やはり若年化が目立つ。

相談の内容は、暴力や強姦、不倫や若年妊娠など、いわゆる“思いがけない妊娠”が多く、深刻なケースが多いという。こうした相談に真剣に取組み、一人でも多くの命を救おう、と慈恵病院では24時間6人体制で電話相談に乗っている。前述の7年間で5,000件の相談というのは1回目のみをカウントしただけで、実際は相談者と何回も担当者が話し合い、なんとか自分で育てる道を探したり、特別養子縁組の道を探ったりしている為、のべ相談回数ははるかに多いものになる。

日本の社会的養護は他の国に比べて施設依存率が異常に高いことで知られる。0歳から18歳まで、乳児院を含む児童養護施設に預けられている子供はおよそ4万人に上る。0歳から3歳までの乳児がいる乳児院には3,000人も赤ちゃんがいるのが現実だ。少子化に悩み、不妊治療を受ける人が50万人もいるこの国で、政府は養子縁組に真剣に取り組んでこなかった。

慈恵病院の野尻由貴子相談役によると、ドイツでは養子縁組が盛んで、匿名出産や内密出産など(注2)に向け法整備も進み、2000年に赤ちゃんポスト(Babyklappe)第1号ができて以来、今では全国に100か所に拡大、体制として整っているという。それに比べて日本の現状はかなり遅れている。

そうした中、熊本市で着実な進歩が起きた。実は、慈恵病院のポストは、赤ちゃんを託すそうと親が外側のドアを開けた時、中に置いてある一通の手紙を受け取らないと内側のドアが開かない仕組みになっている。「お父さん、お母さんへ」と記されたその手紙に今回、赤ちゃんをポストに預けた後、特に異議がなかった場合、子どもの幸せのために、原則として特別養子縁組したいと考えています、というような内容を明記することになった。
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これまで熊本市の児童相談所は、実親がポストに子供を託しても、後で子供を引き取りたいと言ってくるリスクを考慮して、特別養子縁組はしない方針だった。しかし、長年の慈恵病院との話し合いで、このような内容の手紙を受け取る仕組みとした上で、ついに態度を変えたのだ。

一度預けたらその赤ちゃんは原則養子に出され新しい養親の元で育てられるのですよ、と生みの親に知らしめることに病院と行政が合意したということは、取りも直さず、これまで特別養子縁組に消極的だった児童相談所がいよいよ本気で取り組む決意を示したものといえる。全国でも極めて珍しい動きだ。

児童相談所が真剣に特別養子縁組に取り組めば、乳児院に行く赤ちゃんは間違いなく減るはずである。こうした動きが熊本から全国に広がっていくことを期待する。すべての赤ちゃんが暖かい家庭で育つ日を実現させるための第一歩となるはずだから。

(注1)平成23年(2011年)にTBS系列で放送されたテレビドラマ、『こうのとりのゆりかご〜「赤ちゃんポスト」の6年間と救われた92の命の未来〜』などにより知名度が全国的にアップしたことも背景にある。女優薬師丸ひろ子さんが看護部長役を演じた。

(注2)

匿名出産

産婦が分娩の際、匿名で入院し適切な医療が受けられ、生まれたあかちゃんを、そのまま養子縁組に繋ぐことができる制度。

内密出産

母親が医療機関で匿名の出産ができ、子は原則16歳で自分の出自を知ることができる制度。

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