[土井香苗]【 全ての赤ちゃんが「家庭」で育つ社会を】~社会的養護制度という終わらない戦後~
土井香苗(ヒューマン・ライツ・ウォッチ 日本代表)
戦後70年を迎える今年。めまぐるしい経済成長を遂げた日本だが、残念ながら戦後がまだ終わっていない分野がある。それが、「社会的養護制度」だ。終戦直後、あふれる戦争孤児や浮浪児を大規模施設にとにかく収容しなくてはいけなかったという時代の制度の、改革が未だなされていないのだ。
日本で実親と暮らせない子どもたち、いわゆる社会的養護下で暮らす子ども達の数は約4万人。今でも戦後の延長線で、そのうち9割近くが施設に収容され、国際的にも優先されるべきといわれている家庭での養護(里親など)は、たった1割強しかない。特に、赤ちゃんの施設養育はほぼ例外なく避けるべき、という考え方が国際的に確立しているが、我が国では約3千人の赤ちゃんが乳児院にいる。
もちろん、虐待からの保護などの緊急的な措置や育児支援のためのショートステイなど、施設で預かるのが適切な赤ちゃんもいる。しかし、職員が慢性的に不足している施設では、スタッフ1人で、6~7人の赤ちゃんの面倒をみなければいけないことなど当たり前。愛情に飢えた子どもたちが、誰にも抱っこしてもらえずに泣いているのが現状なのだ。
一方、日本は不妊治療を受けている夫婦が推定50万人[1]とも言われる世界一の不妊治療大国。愛くるしい赤ちゃんを待つ大人たち。そして、今日も施設のなかで、愛してくれる大人を待つ赤ちゃんたち。養子縁組制度や里親里子制度といった家庭での養護のシステムを充実させ、日本の未来を担う子どもたちのため、今こそ社会的養護制度の終わらない「戦後」に終止符を打つべきではないのだろうか。2015年を、赤ちゃんが乳児院を出て、家族の愛を受けて育つ、その元年にしたい。
・社会的養護制度の問題点の詳細はこちら http://m.hrw.org/node/125121
[Japan In-depth編集部]
【すべての赤ちゃんが「家庭」で育つ社会を】〜「世界こどもの日」25周年記念シンポジウム〜
http://japan-indepth.jp/?p=12391
[Japan In-depthチャンネル ニコ生公式放送リポート]
【すべての赤ちゃんが「家庭」で育つ社会を】~子供の権利条約締結25周年の節目に~
http://japan-indepth.jp/?p=13300
[1]厚生労働省「不妊治療の患者数・治療の種類等について」(2006年10月)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/10/s1018-7h04.html
NPO法人Fine「不妊について」
http://j-fine.jp/infertility/about.htm
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